近健太社長が社長就任以来、初めてメディアのインタビューに応じた。就任3カ月半、この間さまざまな現場を見ていく中で感じたこと、理想のリーダー像を語った。
Ⅳ:トヨタの収益体質
――損益分岐台数の引き下げに向けて資本の効率化や生産の最適化についてどう考えているか?
近社長
損益分岐台数の意味合いですけれども、トヨタ自動車は17年前に創業以来初めての赤字になったわけです。赤字になった前の年というのは、過去最高利益だったんです。そこから1年で赤字になった。そのときに会社では、やはり損益分岐台数が非常に高まっていました。表向きはいろいろなことがあって、利益額が出ていたんですけれども、非常に収益体質が良くなかった。
赤字になるといろいろな方にご迷惑をおかけするわけですが、特に投資もできない、新しい商品開発もできない、何かCMを打とうと思ってもできない、いろいろなイベントをやろうと思ってもできない。赤字だと、もう何もできません。それだと会社としておかしいですし、ステークホルダーの皆さんにすごくご迷惑をかける。
トヨタとしては、そういう状況はダメ。どういうことがあっても、非常に悪いことがあったときに、しっかり踏ん張って仕事を止めずにステークホルダーの皆さんと一緒に仕事をやれる体質というのが、トヨタに求められる収益体質です。
ただ、闇雲に下げていけばいいかというと、そんなことではないと思います。ただ今はやや高い状況にあるので、反転させていきたいなとは思っています。
やることは、ロングヒット狙いみたいなことではなくて、みんなが明確にわかっているんだけれど、なかなか手がつけられていないこと(改善)とか、そういったことを一つひとつやっていくということだと思います。
Ⅴ:交通事故ゼロへ
――自動運転について、日本では普及や開発が遅れているんじゃないかという声もある。インフラとの協調を考えるべきだという話もあると思うが、そういった意味も含めてトヨタのスタンスは?
近社長
やはり交通事故ゼロを達成するには、ヒト・クルマ・インフラが三位一体にならないと、どうしても難しいことがあると思います。
クルマのエンドトゥエンドの自動運転だけでは、事故ゼロにはならない。一方で、例えば今の足元の現実的な解として、Toyota Safety Senseにも当然エンドトゥエンドの、いわゆるAIベースの自動運転の開発技術が活かされます。
そういったことも足元のクルマから導入していけると思います。少し時間がかかるものですが、一つのやり方ではなく、当然エンドトゥエンドの開発も一生懸命やります。それだけではダメなので、インフラ協調。今日のタテシナ会議の中でもありましたが、認知をできるだけ早くする。
それはクルマだけではできません。インフラのカメラセンサーみたいな、クルマ以外の認知情報をクルマの挙動に反映させるみたいなことも、非常に重要だと思います。エンドトゥエンド、インフラ協調のどちらも一生懸命やっているというのが当社の考えです。
――今回のタテシナ会議でも三位一体の取り組みや、安全な社会を実現する上で企業の枠を超えた取り組みが重要だとおっしゃっていた。その上で、トヨタが果たす役割をどのように考えているか?
近社長
世の中に走っているクルマはトヨタだけではありません。当然トヨタだけでやることには限界があります。
今日の映像の中でも、スバルさんとトヨタの共同の、いわゆる管制システムの話がありましたが、ああいうこともすごく重要になってきますし、中国では実証実験が公道で始まっているというようなこともあります。
我々は交通事故ゼロを強く願っているメーカーですし、どんどんこういう提案をして、こういう場づくりをして、どんどん仲間をつくっていく。日本全体で、みんな目指すところは一緒だと思うので「みんなでやっていきましょうよ」という声掛けをするのは、トヨタが一番いいのかなと思うことはございます。(会社が)大きいからということではないですけれども、そこはトヨタが旗を振って、リードしてやっていかなきゃいけないなと思います。
Ⅵ:モビリティカンパニーへの変革
――今後自動車以外の事業も重要になってくるというところで、ロボティクスも含めてモビリティカンパニーへの変革をどう推し進めていくか?どのような将来を描いているか?
近社長
社内で「モビリティカンパニーとは何か?」ということがよく議論になって、議論で終わることが多いんですけども、なかなか答えがないです。ただ、みんなが今、一生懸命「モビリティカンパニーとは? 次のモビリティとは、人か、モノか、エネルギーか、それとも情報だろうか?」と、いろいろなことを見ながら考えています。そして取り組みを進めていく。当然Jobyみたいなものもあるし*、ロボットも非常に一生懸命やっているし、インフラ協調も一生懸命に、自動運転も一生懸命やっています。
*Joby Aviationとトヨタは6月、空のモビリティ実現に向け、電動垂直離着陸機(eVTOL)の生産を行う合弁会社の設立に合意したことを発表した。
10数年前に豊田が「もっといいクルマをつくろうよ」と言ったときに、あのときの社内の反応というのは「『もっといいクルマ』って何ですか?」「『もっといいクルマ』というのが何か教えてくれたらつくりますけど」というような雰囲気があったのは事実です。今「『モビリティカンパニー』って何ですか。教えてくれたらやりますよ」という人は、あんまりトヨタにいないと思うんです。
みんながモビリティカンパニーというものを、一生懸命考えていると思います。
私は、これは個人的にですが、やっぱり人のモビリティにはこだわりたいなと思います。「すべての人に移動の自由を」ということですし、当然それも一つの(移動手段という)感じではなく、動ける人はより動けるし、動きにくくなる人には、少しでも動きをサポートするようなもの。それはクルマの場合もあるでしょうし、ロボットの場合もある。車いすのようなケースもある。飛行機のケースもある。
いろいろなモビリティがあると思うんですが、最後は人が動くことによって、その人の人生の価値(が高まる)というか。ある人が「モビリティは人に尊厳を与えてくれるものだ」というふうに言ってくれたことがあるんですけれども、私は本当にそういうことだと思っていて、人が動くことによって、いろいろなものを見て、いろいろな人と出会う。
より多くの人が、より良く動けるような世界というのが、私が(実現)していきたいモビリティの世界です。
夏季大祭、タテシナ会議については、後日トヨタイムズニュースでも特集予定。そちらも合わせてご覧いただきたい。