近健太社長が社長就任以来、初めてメディアのインタビューに応じた。就任3カ月半、この間さまざまな現場を見ていく中で感じたこと、理想のリーダー像を語った。
Ⅱ:AIとの共存
――2030年代初頭に貞宝の新工場を計画*されているが、今後の国内投資の方向性は?
*トヨタは2025年、貞宝町(愛知県豊田市)周辺に車両工場の新設に向けた土地取得の決定を発表している。
近社長
貞宝工場の詳細は、まだ決まっておりませんけれども、グローバルにそうですが、特に日本の工場も、これから人がより中心に来る工場だと思っております。
人中心というと、大きくは生産性とやりがいということですが、そういう中で当然AIとか、ロボットというのは大きな部分を占めてくると思います。
逆に言うと、人にしかできないこと、人がやる方が良いことの価値がもっと高まってくる。それが新しい工場の姿じゃないかなと思っています。まだ具体的にどういう工程の何がロボットに置き換わってくるのか、どういうところが、人がもっと技能を発揮するのかということは、まだお伝えできる段階ではないですが、今みんなで目指しているのは、そういう工場です。
――生まれた余力で、いろいろ付加価値の高い仕事につくことができる?
近社長
その場合、余力というのは、いわゆる工数ということなのか、技能ということなのか。余力というと何となく手が空いた人を、どこか(手が足りないところ)に回そうかみたいなことになると思うんですけども、ロボットに置き換えられない技能というものがあります。逆にロボットに教える技能もあります。それもAIが教えるケース、AIから技能を教わるケースも出てきます。
いろいろな関わり方が出てくると思いますが、そういう中で人の力というのは、トヨタの工場でどう研ぎ澄まされていくのか。そういったことは、今みんなで議論をしているところです。
Ⅲ:サプライヤーとの向き合い方
――世界情勢の変化が激しい中で、グローバル・フルラインナップのトヨタとしては、現地調達・現地生産の方向性は必要かと思うが、国内のサプライチェーンはどう守っていくのか?
近社長
我々は、グローバルにフルラインナップのクルマをお客様にお届けする量産メーカーでございますので、今おっしゃった通り、売れるところでつくる。地産地消といいますか、そういった考え方は非常に重要になります。
一方で、日本のモノづくりの力というのも、トヨタにとっては非常に重要なものだと思っていまして、日本のその力を強く信じています。よく日本で何百万台(生産)という話がありますけれども、クルマは1台につき約3万点の部品から成り立つ製品です。最後のOEMのところが縮小してしまうと、当然その間にあるサプライチェーンも戻ってこられないということも現実なところです。
日本のモノづくり、日本の生産、日本のサプライチェーンは非常に重要だと思っています。今のレベルをキープしていきたいとに思っています。
ただ、それもお客様があってのことですので、我々だけがキープしますということではなく、しっかりもっといいクルマをつくって、お客様に受け入れられて初めてそういうことが言えますから、順番としては、やっぱりそういう考えでいくということだと思います。
――サプライチェーンの現場の評価やレジリエンス(適応力)みたいなところで、もっと詰めていきたい点があるのか? また不透明な競争環境にどうやって対応しようと思っているのか?
近社長
私もサプライヤーさん何社か4月以降も訪問させていただいております。不透明な状況の中でサプライヤーさんもいろいろなことを考えておられます。いろいろな悩みを持っておられると思います。
ただ、サプライヤーさんには、いろいろな手法を取り入れながら、何とか競争に打ち勝っていこうという、ものすごい努力を感じます。サプライヤーさんの中には、人材確保のことやスペースのこと、いろいろな制約がありながらも、その制約を逆にバネにして、さまざまな改善を進められている。
もちろん中東の話とかありますけれども、基本的にはこれまでと変わらず、サプライヤーさんと一緒に、日系企業だけではなく、いろいろなグローバルサプライヤーさんとしっかり膝をつき合わせて、図面をつくり込んで、品質や原価をつくり込む。こういう活動は変わらないと思います。
――現場力のようなものを現場に足を運んで感じたことはあるか?
近社長
それはあります。それはトヨタの現場も一緒です。「レジリエンス」という言葉が良いのかわかりませんが、サプライチェーンの方からよく言われるのは、これはトヨタとの連携ということが多いですけれども、オーダーの出し方とかも含めて、サプライヤーさんにとってつくりやすい(ということ)。
サプライヤーさんにとっても、いわゆる改善しやすい設計であったり、オーダーの仕方であったりみたいなことは、すごく大事だと思います。レジリエンスがあるとは言っても、何でもかんでもやってもらえるわけではないと思いますので、「こういうやり方だったら、もっとやりやすいんですけど」というコミュニケーションが、聞いているとすごくできている感じを受けます。
――稼ぐ力というのが近新社長に期待されているところだと思うが、取引先様と一体になった稼ぐ力の強化について、自身の経験も踏まえての課題や展望は?
近社長
販売店さん、トヨタの生産現場、サプライヤーさん、物流、試作、認証。いろいろな現場があります。いろいろなところを回りましたが、どの現場に行っても、課題だらけです。どの現場に行っても、みんなが「大変です」と言っていて、本当大変だなと思います。ただ、少し時系列で見て、先日も販売店さんに行ったときに、パイプラインにある在庫を、どのように引き当てることができるのか。
国内では、お客様をお待たせしているケースもあります。逆に言うと「パイプラインのどこにある在庫が、どこのお客様に引き当たるのか」みたいなことも、J-SLIMという仕組みで、かなりわかるようになってくると、流通段階の停滞は少なくなります。そういったことも、(見えてきたことの)一つです。
いろいろな部品種類の効率化みたいなこともありますし、まだまだ改善の余地はたくさんあります。費用の使い方に関しても、改善の余地はたくさんあります。
最近は現場に行くと、そういうことにみんなが気づいてきていると、すごく感じています。それはすごくいいことだなと思いますし、逆に言うと、まだまだ課題があるというのが見えているということでもございます。
――CFO(Chief Financial Officer)を経験して、コスト面で思うことは?
近社長
数字で見える範囲というのは、ある意味氷山の(一角)と言いますか、海面の上から見えるところに数字が見えることが多いわけです。
それ(数字)をつくっているのは、(海上からは)見えない、ここ(海面下)にある人であったり、積み重ねであったり、サプライヤーだったり、歴史だったり。いろいろなものがここ(海面下)にある。CFO時代に、そういったところに目を向けようと思ってやってきましたけれども、(今はさらに)海面より下のものがすごく大事だと、気持ちというか、興味、視点が変わったと自覚しております。