自動車業界を匠の技で支える「職人」特集。第15回は新しいセンチュリーの組立ラインで、設計値±0の精度で部品を組み付ける「組立の匠」に話しを聞く
センチュリー職人として大切にしていること……
田中たちが求められる高精度な組み付けにおいて重要なのが、いかに設計値通りの強さでボルトやナットを締め付けることができるかだ。ちなみに、締め付けの強さ(=トルク値)はNm(ニュートンメーター)という単位で表される。
一般的な車両の組立ラインでは、設計値に対して±20%以内ならば検査規格内とされる。たとえば、ある部品を100Nmで締め付ける場合、80〜120Nmならば合格となる。
しかしセンチュリーでは、±5%以内と決め組立内で管理している。各部品の精度は高いのだが、締付精度の違い一つでも、繊細な車両品質に影響してくるからだ。特に田中が担当する足まわり部品の場合、組み付け精度が直接乗り心地にも影響するという。
田中
センチュリー以外の組立ラインでは、ボルトやナットを締める際、1度締付工具でビシッと締めて完了します。あらかじめ締付工具に必要な狙いトルク値を入力しているので、許容範囲が±20%ならば、1度の締め付けで規定値におさめることができるからです。
一方、センチュリーの組立ラインでは精度がシビアなため、まず治具を用いながら手で仮締めし、次に締付工具で締付トルクの狙い値近くまで締め増します。最後に、トルク値がオンライン経由でコンピューターに記録されるデジタルトルクレンチという工具を用いて、手作業で、規定の狙いトルク値を出し仕上げます。
センチュリーの場合、設計値に対して±5%が組立の管理値ですが、私は常に±0%を目指して日々作業にあたっています。
デジタルトルクレンチから送られた締め付け値のデータは全数が記録され、すべてのボルトやナットの締め付け精度が管理される。
ちなみに、バッテリーの端子やワイヤーハーネスといった小さな部品の締め付けの場合、設計値は10Nm程度。一般的なネジをドライバーで締め付けるほどの強さにすぎない。しかし、ドライブシャフトのようにサイズが大きく、高い強度が求められる部品の場合、締め付けの設計値は300Nmにもなる。
そうした大型部品の場合、締め付けには1分ほどかかるという。参考までに、締付工具だけで締め付ける一般的な車両の場合は5秒程度とのことだから、1本1本のボルトとナットを10倍以上の時間をかけて、丁寧に締め付けるのだ。
田中によると、トルク値が高くなればなるほど作業の難易度も高まるのだそうだ。
田中
例えば50Nmくらいまでの比較的小さな設計値の場合は手の感覚で判断できるので、トルク値をコントロールするのは比較的容易です。ところが150Nm以上になると、大きなレンチを身体全体を使って操作するので、正確にトルク値を出すのがかなり難しくなります。
まさに“感覚とコツ”の世界なのですが、さまざまなボルトやナットを締めて、いかに設計値との誤差をゼロに近づけるか、日々の訓練で精度を上げてきました。
そんな田中が、「センチュリー職人」として最も大切にしているのが、仲間意識だという。
田中
言うまでもないことですが、クルマづくりは決して1人ではできません。チーム全員で相互啓発しながら、お客様に喜んでいただけるクルマをつくっていきたいと考えていますし、センチュリーづくりの現場では、みんなが同じ気持ちを共有しています。
数年後、他部署に移動した際には、センチュリープロジェクトで学んだ多くのことを、後進の育成に生かしていきたいですね。
「高技能」、「高知識」、そして「人間力」が求められるセンチュリー職人。彼らの間で育まれた仲間意識は、今後、必ずやトヨタの「もっといいクルマづくり」に寄与していくことだろう。