第14回 美しい塗装面を支える陰の功労者「樹脂磨きの匠」

2023.10.02

クルマの樹脂部品を成形する際に、どうしても残ってしまうわずかな加工跡の線(段差)。センチュリーのバンパーの美しい塗装面を実現すべく、この0.02ミリ程度の線を0.002ミリにまで磨き上げる、若き樹脂磨きの匠を取材した。

3DプリンターやAIをはじめとするテクノロジーの進化に注目が集まる現代。だが、クルマづくりの現場では今もなお多数の「手仕事」が生かされている。

トヨタイムズでは、自動車業界を匠の技能で支える「職人」にスポットライトを当て、日本の「モノづくり」の真髄に迫る「日本のクルマづくりを支える職人たち」を特集する。

今回は、新しいセンチュリーの発表を機に、同車のクルマづくりに携わる職人を5回にわたって紹介する特別編の第1回。

バンパーの美しい塗装面に不可欠となる、塗装前の素地磨きを独自の手法で行う「樹脂磨きの匠」山中翼に焦点を当てる。

第14回 バンパーの素地磨きを独自の手法で行う「樹脂磨きの匠」山中翼

トヨタ自動車 田原工場 塗装成形部 バンパー製造課 エキスパート(EX

センチュリーだからこそ不可欠な工程

外装ではバンパーやロッカーモール(前後フェンダー間のボデー下端のパーツ)、内装ではインストルメントパネルやドアパネルといった具合に、クルマには多種多様な樹脂部品が使われている。

そしてほとんどの樹脂部品は、射出成形機という機械の金型に、加熱して熔解させた樹脂素材を高圧で射出して成形する「射出成形」という工法でつくられている。

射出成形は、複雑な形状やなめらかな面などデザイナーが意図した造形の再現性が高く、大量生産にも向いているからだ。

一方、同工法にはウィークポイントもある。射出する際には、上型と下型を組み合わせ、その間に溶解させた樹脂素材を流し込むのだが、射出成形後の樹脂部品には、どうしても型の合わせ目に線状の微かな跡(段差)が残ってしまうのだ。

これをPL線(パーティングライン)というのだが、成形された樹脂部品は、PL線を残したまま次の塗装工程にまわされるのが一般的だ。デザインや生産工法と折り合いを付けながら、PL線がボデーの目立たない部分に位置するよう工夫することで生産の効率化を図っているのだ。

また、PL線の段差は約0.02ミリとごくわずかなうえ、その上に4層もの塗装を施すため、そもそも目立ちにくいというのも理由である。

大きなサイズとシャープなエッジが特徴的な新型センチュリーのバンパー

しかし、新しいセンチュリーではデザインが優先されると同時にバンパーのサイズが大きいため、どうしてもPL線を意匠面から避けるのが困難だった。

またセンチュリーといえば、ボデーの塗装面が鏡のように磨き上げられた「鏡面仕上げ」が伝統だが、ボデーが鏡面仕上げになっているからこそ、バンパー(樹脂面)についてもPL線を可能な限りなめらかに仕上げる必要があった。

このPL線を磨く工程を担当するのが、新しいセンチュリーを生産する田原工場(愛知県田原市)の塗装成形部に所属する若き樹脂磨きの職人、山中翼である。

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