本業とは関係ないように見える取り組みを紹介する「なぜ、それ、トヨタ」。今回は、凧あげで発電!?
信じがたいかもしれないが、トヨタには「凧あげで給料をもらう」と言われる謎の研究者がいる。取材をして驚いたのだが、全幅わずか8mほどの凧が将来のエネルギー源になる可能性があるという。
クルマ屋のトヨタがなぜ凧あげを?取材を進めると、驚きの内容が次々と語られることに・・
凧あげの力で「発電」
やって来たのは、静岡県磐田市にある広大な運動場。「マザーシッププロジェクト」のフライトテストフィールドだ。まずはその様子をご覧いただきたい。
今では知らない人も多いが、トヨタはかつて航空機用のエンジンも開発し米国で認証を取っていた。
その開発部隊に当時所属していたメンバーをはじめ、クルマの開発者や、計算シミュレーションを担当する人員で、凧をあげる「マザーシッププロジェクト」チームは結成されている。
業務中の大人たちが、本気で凧をあげる。その理由は、はるか上空の偏西風域に凧を飛ばし、風の力を利用して発電する研究のためだ。
「凧あげで発電」。ぶっ飛んだ研究だが、その裏側には深い理由があった。
R-フロンティア部 板倉英二 マザーシップグループ長
日本はエネルギーのほとんどを輸入に頼り、国土の多くが山岳地のため、再生可能エネルギーにも限界もある。将来のエネルギーセキュリティという社会課題が起点です。
エネルギー自給率を高めるために「密度の高い自然エネルギーはないか」ということで、日本上空の偏西風から“採掘”することを考え2018年に研究を始めました。
学生時代は航空工学を専攻し、トヨタ入社後も、航空機用エンジンの開発に携わってきた板倉。ここで、偏西風の意外な事実を教えてくれた。
世界でもっとも強い、日本上空の偏西風
板倉グループ長
日本上空の偏西風は、世界でもっとも平均風速が強いと言われています。その風力を活用するアイデアは多くの航空系研究者が持っています。ただし「凧」を活用するアイデアは少ない。
専門家の間でも、技術的に手が届く意識があるため「面白い」という反応がほとんど。特にアメリカの研究者は「関わりたい」と言ってくれる人も多いです。
今は、あらゆる風況や天候でも「空中に留まり続ける」姿勢制御の技術を鍛えている。苦難の末、ドローンや飛行船でも飛ぶことが難しい風速30メートルでも安定して飛べるようになったそうだ。
仲間がいないと飛べなかった
上空に凧をあげ、高強度の凧糸を地上にある発電機に係留、そこで発電させるのだが、凧をいかに軽量化できるかが課題だった。
板倉グループ長
かつて繊維産業が盛んだった日本は高い技術を持つ会社も多く、生地を品質高く織り込んだり、樹脂をしっかりコーティングして膜材にするといった試行錯誤によるチャレンジにも協力いただけました。
その結果(風を受け止める)膜材の強さと軽さを非常に高いレベルで両立。学会で発表すると「その膜材が欲しい」という話が世界中から届きました。宇宙航空研究開発機構 (JAXA)からも共同開発のオファーいただけるようになっています。
2020年、改良を重ねた結果、1000mの飛行に初めて到達。そのとき板倉は「東京タワーを超えた!」「スカイツリーを超えた!」と無線で逐一アナウンス。メンバー全員で「やったー!」と喜び合った。
その後、夜間を含めた長時間飛行にもチャレンジ。メンバー全員、工事現場で使われるような光を放つ服を着用し、周囲には工事用バルーンライトも準備。万全の安全対策で臨んだが、とんでもないトラブルが・・
板倉グループ長
今までの人生で見たこともない大量の虫が、光のもとに集まってきて。まるで「地獄絵図」でした(笑)。
日本ならではの強い偏西風を生かすこのプロジェクト。しかしこれまで何度も研究中止が議論されたそうだ。まさに“逆風”。
板倉は原点に立ち返るべくある場所を訪れる。そこで見つかったものとは・・