クルマの樹脂部品を成形する際に、どうしても残ってしまうわずかな加工跡の線(段差)。センチュリーのバンパーの美しい塗装面を実現すべく、この0.02ミリ程度の線を0.002ミリにまで磨き上げる、若き樹脂磨きの匠を取材した。
自動化が難しい「カンとコツ」の世界
では、そもそも磨き上げる技能自体の難しさはどこにあるのだろうか? 多くの職人技がそうであるように、データ化が困難な「カンとコツ」の世界のため、とにかく実地で経験を積み、徹底的に感覚を体に覚え込ませるしかない、と山中はいう。
山中
例えば、磨き作業ではヤスリを部品になるべく平行に当てるのですが、部品の端部は弾力によってヤスリとフィットしやすく、想定以上に削れてしまう傾向があります。そんな際は、水平を保ったまま空中を磨くイメージで作業します。
また、作業を進めて行くと部品が摩擦で発熱し、消しゴムのカスのようなものがぽろぽろ出てくることもあります。そうした不確定な要素を逐一目と手の感覚で見極め、ヤスリを当てる角度や強さを判断しながら作業する必要があるので、自働化もなかなか難しいのが現状です。
実は、磨き作業よりも困難だったのが、PL線をどのレベルまで磨き上げればセンチュリーとしてのクオリティに達するのか、評価を下すことだったという。
山中
PL線の段差を0.002ミリにまで磨くというのは、事前に決まっていたわけではありません。塗装を施した上で仕上がりを確認し、クオリティが達していない場合は、磨いた部分を切断して顕微鏡で段差のレベルをチェックする、という工程を何度も繰り返し、結果的に0.002ミリに落ち着きました。
その過程でどこまで磨くべきなのか、客観的に判断できなくなってしまった時期があり、工法確立に必要以上に時間がかかってしまいました。そこは反省点として次のプロジェクトに生かしていきたいと考えています。
職人として、現状の品質に100%は満足していない。常に高みを目指して挑戦をつづけていきたい。さらに、今後は自身の技能を、後進の育成にも生かしていきたいと語る山中。樹脂磨きの匠として、センチュリーのクルマづくりにおける「継承と進化」の一端を、今後も担い続けていくことだろう。