第14回 美しい塗装面を支える陰の功労者「樹脂磨きの匠」

2023.10.02

クルマの樹脂部品を成形する際に、どうしても残ってしまうわずかな加工跡の線(段差)。センチュリーのバンパーの美しい塗装面を実現すべく、この0.02ミリ程度の線を0.002ミリにまで磨き上げる、若き樹脂磨きの匠を取材した。

センチュリー担当者が受けるマインド面での教育とは?

山中は198310月生まれの39歳。「人前で話すのが苦手で、黙って仕事に向き合いたいタイプ」だったため、地元・兵庫県神戸市の工業高校を卒業後、携帯電話の液晶を生産する工場などで働き、2007年、23歳のときにトヨタに入社。それ以来、田原工場塗装成形部樹脂塗装課(現バンパー製造課)一筋で歩んできた。

山中

塗装成形部は、部品を射出成形する組、塗装する組、塗装後に加飾部品などを組み付ける組に分かれているのですが、私は塗装の組で主に塗装面に不具合があった際に磨いて修復する工程を担当してきました。

車種としては、ランドクルーザーや4ランナー(日本名:ハイラックスサーフ)といったモデルです。

手吹きといって、手作業で樹脂部品を塗装する工程に当たっていた時期もありましたが、昨今はそのほとんどが自動化されたこともあり、長らく“磨き”の技能を生かしてクルマづくりに携わってきました。

2018年にエキスパート(EX)になってからは、新型車の塗装工程の生産準備も並行して担当してきたという。

また2022年には、原理原則からモノづくりができる人材を育てるための高技能者育成研修の一環として、初代クラウン・レストア・プロジェクトにも参加。新型センチュリーのプロジェクトに抜擢されたのは、研修を終えて田原工場の所属部署に戻ったタイミングだった。

山中

センチュリーはまさにトヨタを代表するクルマですから、担当に任命されたときには非常に重圧を感じましたし、それは今も変わりません。

同時に、センチュリーだからこそ最高のクオリティを追求できる、モノづくりにとことんこだわれる、という想いがこみ上げて、モチベーションが高まったのも事実です。

山中によると、センチュリーを担当するスタッフは、まずマインド面での教育を受けるのだそうだ。そこでは、センチュリーの歴史から、他車とは異なる生産体制やクルマづくりに対する心構えまでを教えられるという。

山中

例えばTPS(トヨタ生産方式)は、生産工程における無駄の徹底した排除を目的としていますが、センチュリーではそれとは異なる生産体制がとられている、ということを学びました。

決してTPSに取り組まないわけではなく、作業の効率化によって浮いた時間を、全て品質向上のために充てるという考え方です。

自分が担当するPLラインの磨き工程についていいますと、ボデーの塗装面の美しさやクオリティを評価する「鮮映性」という基準があるのですが、センチュリーには独自の非常に厳しいレベルが設定されています。だからこそ、センチュリーにはPL線を磨く工程が必要なのです。

山中が作業するスペースには、バンパー表面のなめらかさを確認するため、平行に均等な間隔で照明が設置されている

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