本業とは関係ないように見える取り組みを紹介する「なぜ、それ、トヨタ」。今回は富士山の噴火!?
まさか、興味を持たれないとは…
地元住民だけでなく、多数の別荘がある須山地区では、住民の属性が異なるほか、溶岩が流れ込んでくるラインもさまざまで、避難方法に課題を抱えていた。
そこでトヨタの研究者は、データ解析をするために地域住民にヒアリングし、実態把握に動く。現地現物の考えだ。しかし、思いもよらぬことが起こる。
北浜主査
区長さんや自主防災会長さんたちに「こんなのができました!」と意気揚々と渋滞シミュレーションをお見せしても、反応が薄かったんです(笑)。
よかろうと思ったものが響かない。それよりも「防災無線がつながらないところがある」といった別の問題を指摘されました。
そこで気づいたのは、住民の方が本当に知りたいことは、裾野市全体のシミュレーションではなく、自分が住むエリアがどうなるかということでした。
大切だったのが、“自分視点”ではなく、“YOUの視点”だ。
未来創生センター R-フロンティア部 佐多宏太グループ長
そこで、一軒一軒アンケートを取り、家庭の状況をお伺いしました。
というのも、親が共働きでいなかったり、シニアや赤ちゃんなど、家族構成によって避難開始までの時間に差が出る。家庭ごとに所有するクルマの台数も違います。
各家庭のデータを集約して、何度もシミュレーションをゼロからやり直し。出た結果を再び住民の方に見ていただく。そのサイクルを繰り返しながら精度を高めていきました。
「自分の住むエリアに関する、精度の高いデータ」。それこそが、地域の方々の共感につながっていった。
噴火したら、もう終わり?
さらに、高齢者サロンや中学校で意識調査をすると、衝撃的な事実が判明する。高齢者の認識は「富士山はきっと噴火しないだろう」。でも、もし噴火したら「もう終わり」という諦めの境地が多かったのだ。
そこでアプローチを変えることに。子どもに防災授業を行うことで、子どもから大人に「おじいちゃん、おばあちゃん、逃げよう」と伝えてもらう作戦だ。
未来創生センター R-フロンティア部 秋本尚美 主任
小・中学生は富士山の頂上からドカーンと噴火すると思っている子が多いのですが、静岡から離れた山梨側で噴火すれば、こっちには溶岩は流れてきません。
また、裾野市では、溶岩の流れ方は31通りあって、川や谷筋は流れるのが速い。別のラインは遅いといった違いもあります。市内の学校で、地震を想定した防災訓練はされていたものの、先生を含め、富士山噴火の情報は知られていませんでした。
噴火したら「終わりだよね」ではなく、逃げられるんです。
裾野市側は、住民が「諦めている」ということを、今回初めて知ったという。だからこそ、官民一体で防災授業を実施。火山や溶岩を、怖いイメージではなく、楽しく伝えるように工夫しているという。
“マグマ大佐”というインパクト抜群のキャラ。さらに、裾野市の“すそのん”というゆるキャラの存在は、子どもたちに興味を持ってもらう工夫なのだ。
また現在は、噴火パターンを大きく4つに分けて、住民に避難方法を伝えているという。細かすぎるデータではなく、自身の避難行動を“かんたん”にイメージできることで、情報を伝わりやすくしているのだ。
トヨタでは、自分以外の誰かのために行動をすること。そして世界一ではなく、それぞれの地域で町いちばんの「クルマ屋」を目指すことを大切にしている。
地域住民の安全安心のため、裾野市と一体となったこの取り組みも、まさにその一環。今後はフィールドワークも組み合わせた新しい研究を取り入れ、さらなる町の安全安心へ、官民一体で研究は続いていく。