トヨタの改善は病院でも通用するのか。謎の箱に迫る

2022.11.15

トヨタの社員が、ストップウォッチを持ちながら24時間体制で看護師を観察。そして年間200時間以上の夜勤のムダを削減。そんなリアルストーリーを紹介する。

愛知県豊田市のトヨタ記念病院では、「看護師の負担を減らし、患者と向き合う時間を増やすため」自動運転の搬送ロボットが活躍している。

近頃はファミリーレストランでも見かけるように、もはや珍しくはない搬送ロボット。しかしここは命を守る緊迫した医療現場。だからこそ開発には、看護師とトヨタの開発者が本気で向き合い、本音をぶつけ合う喧々諤々のストーリーがあった。

看護師を苛立たせてしまった“ある言葉”

開発に携わるメンバー。(左から)R-フロンティア部 ロボティクスソリューションズグループの小田志朗プロジェクトマネージャー、豊島聡 主任、松井毅グループマネージャー。トヨタ記念病院の黒田直美 副総看護長、久野邦明 調達グループ長、秋葉洋司 TPS・カイゼン推進グループ長

搬送ロボットの開発が始まったのは2019年。トヨタ自動車の1部署であるトヨタ記念病院が、社内のロボット開発部隊に相談。そこでトヨタの開発メンバーは病院に入り、どんなことが看護師のサポートになるのか、24時間体制で二週間、看護師の仕事を見続けた。

しかし思わぬ事態に・・。

改善のプロフェッショナルであるトヨタのメンバーは、働き方を観察して業務上の改善点を発見。看護師たちへ「それも看護の仕事なんですか?」「それは付加価値のある仕事ですか?」とヒアリングを続けた。

これに対し、看護師たちは戸惑いを隠せなかった。

長年の経験で自分たちの働き方には根拠がある。にも関わらず、まるで自分たちの仕事を否定されたような気持ちになり、強い反発心を覚えたという。突然入ってきた異端分子に「私たちの職場を荒らさないでと思った看護師もいた」と、黒田副総看護長は当時を振り返る。

異業種同士が集まれば、当然意見の食い違いが出てくる。当初は何度もぶつかり合い、むしろ険悪なほどだった。

なんと、看護師の仕事の4割は●●だった!?

最初に病院側が、ロボットのサポートが必要だと考えたのは、救命救急病棟だった。

救命救急病棟には、薬剤部門から直通のエレベーターが通じておらず、夜間は人手も足りない状況。しかし患者さんに何かあった際に「薬剤を取りに行ってました」と言い訳は許されない。

トヨタのメンバーが看護師の仕事を観察して気づいたこと。それは、実に看護師の勤務時間の4割が、モノを運ぶなどの仕事に費やされていたことだ。

黒田副総看護長は、「あるとき『モノを運ぶことも看護の仕事ですか?』と聞かれてハッとした。『それは私たちじゃなくてもできる』ということにようやく気づいた」と話す。

仕事の4割、つまり8時間勤務ならば毎日3時間を、より意義のある仕事に変える余地があるのだ。専門性の高い仕事が求められる看護師だからこそ、その差はあまりにも大きかった。

別フロアに移動する自動搬送ロボットには、多くの医療機器が詰め込まれていた

また、容体が急変した患者に、懸命に向き合う姿を観察し続けたトヨタのメンバーから「看護師さんの仕事って本当に大変なんですね」と、しみじみ言われたことが看護師たちの心に響いた。こうした問いかけや共感で双方が徐々に歩み寄り、“医療現場での常識”が改善されていくこととなった。

現在、稼働するロボットは4台。医療機器だけでなく採血などの検体を入れる試験管を運ぶ

しかしなぜこの時代に、箱型のシンプルなロボットなのだろうか。次ページでその謎が明かされる。

RECOMMEND