スーパー耐久開幕! 個性豊かな5台とそのチームを取材。スタジオには新監督兼ドライバー、石浦宏明選手と大嶋和也選手が登場!
3月24日に配信されたトヨタイムズスポーツは、耐久レースの国内トップシリーズ、スーパー耐久を特集した。「新」シーズンを迎えた鈴鹿サーキットでの開幕戦で、注目の5台を中心に新しいクルマや新しいドライバーを取材。スタジオゲストにはルーキーレーシングの新監督兼ドライバー、石浦宏明選手と大嶋和也選手を迎え、新しいチャレンジについて語ってもらった。「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」の最前線は、新時代に向かって動いている!
WRC、WECに続き、日本でもスーパー耐久が開幕
日本でも、2月に開幕した全日本ラリーに続き3月18・19日にスーパー耐久が開幕。ルーキーレーシングは3台体制で臨み、今年から監督を兼任することになった石浦選手と大嶋選手が今回のゲストだ。
予選前のピットで行われた朝礼の映像では、モリゾウ選手が「14号車のプロチーム、28号車の開発チーム、そして32号車の水素・・は、ちょっとお休みさせてもらってGRヤリスの次期開発の評価ということで、3台それぞれの役目を持ってのスタートになります」とモリゾウ選手。この「それぞれの役目」こそが特集のポイントだ。
取材したのは、開発車両が参戦するST-QクラスにCN燃料で挑むルーキーレーシング32号車と28号車、SUBARUの61号車。最高峰のST-Xクラスに挑む14号車はルーキーに新しく加わったメルセデス AMG GT-3。そして、ST-4クラスはトムススピリットの86号車。この5台に注目して、森田京之介キャスターがピットで各車両のドライバーやメカニックにインタビューをおこなった。
なぜメルセデスAMG? 参戦の理由
14号車はメルセデスAMG GT-3。GT-3は世界中でレースが行われている規格で、スーパー耐久でも激しいコンペティションの中で優勝を目指すことになった。
監督兼ドライバーの片岡龍也選手は「今まで開発を中心にレースをしてきたんですが、オーナーであるモリゾウさんから『勝ちを狙うレースをしてほしい』と。必死に戦うところでまた学ぶものがある。そういった中で、これ(AMG GT-3)が世界で一番売れている(レース用)車両であり、なぜ世界でシェアがあるのかも見られるという意味もあります」と説明した。
ドライバーは、プロ3人に、ジェントルマン(アマチュア)が鵜飼龍太選手の1人。鵜飼選手は「スピードに対してまだ不慣れなところに対して、プロドライバーからアドバイスを受けながら成長している。ジェントルマンが乗れるたぶん最高峰のクルマなので、運転技能もしっかり高めていかないと走れない」と語る。
チームの目標は、ジェントルマンの鵜飼選手を育て、若手で抜擢された平良響選手を育て、寡黙で知られる蒲生尚弥選手のトークを育てること。残る片岡選手が育てるのは「滑舌」とのことだが、その理由は2022年4月20日の放送からのダイジェストを見ていただきたい。
カーボンニュートラル燃料の挑戦は次のステージへ
28号車のGR86 CNFコンセプトは、昨年に続きカーボンニュートラル燃料でレースに挑む。今回のドライバーはジェントルマン3人に、プロは大嶋選手。ケガで開幕は間に合わなかった山下健太選手は次戦に戻ってくる予定だ。
社員ドライバーである加藤恵三選手は、TTCS(下山テストコース)で車両評価、佐々木栄輔選手はGR86の開発を普段は担当している。メカニックとしてニュルブルクリンクに参加した経験のある加藤選手は「自分が乗れば、あの時こうしておけばよかったとか、いろんなことが出てくると思う」。佐々木選手は「レーススピードの領域に実際入って見られるのは、本当に新鮮な世界。これから何をやらなければいけないか答えが隠れていたりとか、期待しています」と話していた。
昨年はさまざまな課題で苦労したが、クルマも煮詰まってきた段階。プロが何とか乗りこなせるだけでなく、ジェントルマンも乗りやすいクルマを目指している。ゲストの大嶋監督は「レースで速く走るクルマをつくるだけだったら、乗りにくくてもいいけど、そうじゃない。今後世に出ていくスポーツカーを作っていく開発なので、誰が乗っても楽しく攻められるクルマをつくれるように心がけています」と解説する。
その意味でも、現場の雰囲気づくりが重要になる。大嶋選手は「プロだけがコメントしててもクルマは良くならない。しっかりみんなで意見を聞いてやってます」と、監督としてコミュニケーションを大切にしていることを明らかにした。
ライバルながら協力?SUBARUとの新たな関係
その28号車と昨年からバチバチのライバル関係にあるのが、 SUBARUの61号車、BRZ CNFコンセプトだ。同じくカーボンニュートラル燃料で走っており、ドライバーは昨年の3人に、社員ドライバーが1人(伊藤選手)が加わった。
インタビューでは、チームワークの良さを発揮。緊張して答える社員ドライバーの廣田光一選手・伊藤和広選手に、プロの2人が鋭いツッコミを入れるなど、終始明るいムードに包まれていた。井口卓人選手は「プロとジェントルマンの差を極力少なくして、僕らもちゃんとタイムを出せるクルマづくりを目指していきたいと」と話していた。
タイムでもライバルのGR86 CNFを意識しているが、今年になって新しい変化も。井口選手は「ようやくお互いが話し合ってもっと良くするっていうレベルに来ている。もっと密にコミュニケーションを取りながらできれば」と、チーム同士で情報交換を進めているという。
スタジオの大嶋監督も「去年1年間戦ってきて、困っている場所、抱えている問題はほとんど一緒だった。独自で解決しようとやっていたけど、一緒にやったらすごく早い。その先は僕らがまた競い合っていけばいいので」と話していた。
59歳の評価ドライバーの新たなチャレンジ
86号車はガソリン燃料で走るGR86で、ドライバーの年齢差に注目。20代、30代のプロドライバー3人と、もうすぐ還暦を迎えるジェントルマンドライバーの矢吹久選手という構成だ。普段の矢吹選手は凄腕技能養成部の主査として評価テストを行っており、その仕事ぶりは、連載「評価ドライバーとは」に掲載されている。
「年配からちゃんと勉強してくれという話で、親子で出ている感じが恐縮なんですが、すごく勉強になります」と矢吹選手。安全に速く走るための運転のチャレンジは、走行データを解析することで改善を重ね、タイムも飛躍的に向上した。32歳年下の河野駿佑選手が「矢吹さんから、もっといいクルマをつくるための視点で見ているのを、逆に僕らは学ばせてもらわなきゃいけない」と話すように、ドライバー同士でも相乗効果を見せている。
プロとの走行データの波形の違いについて、大嶋監督は「サーキットでは、速く走ってもタイムが稼げないところがいろいろあるんです。頑張ってはいけないところと、頑張らなきゃいけないところが」と解説。59歳のサーキットでの成長も今シーズンは見どころになりそうだ。
液体水素カローラのデビューは次戦に期待
32号車は、ドライバーの顔ぶれは昨年と全く同じ。ただし開幕戦は、水素エンジンカローラがお休みとなり、GRヤリスでの参戦となった。
水素カローラは、今年から燃料が気体の水素から液体水素に変更。車内で水素が気体に変わってエンジンで燃焼するという、ロケットなどと同じ仕組みで走るようになった。それによって燃料をたくさん詰めて航続距離が延び、これまで特別なエリアに移動して給水素していたのがピットでできるようになった。
お休みの理由は、鈴鹿での走行テストでの車両火災。車両の振動によって配管結合部に緩みが生じ、そこから水素が漏れて引火したためだ。ただし、ガソリンでも同様の事象は起こり、水素だから起こったわけではないという。漏れを感知するセンサーも正常に反応し、安全性は確認できた。
石浦監督は「レースの過酷な状況だからこそ、最大の負荷がかかった状態でこういうことが起きるのが評価できたのは、前向きな要素」と語る。モリゾウ選手からも「車両開発している時にはよく起こること。改善策を考えて原因をしっかり究明して次につなげよう」というメッセージが届き、現場は焦ることなく取り組んでいるそうだ。
番組を見ていた視聴者からも、次戦の富士24時間耐久でのデビューを期待するコメントが寄せられていた。
GRヤリスが鍛えられてさらに進化
代役での出場となったGRヤリスだが、ピットの現場は活気に包まれていた。佐々木雅弘選手は「次のヤリスに向けて、新たなパーツを何種類か試しながら今回挑んでます。今までヤリスを買ったお客さんが喜べるようなアップデートパーツもしっかり鍛えています」とコメントしていた。
GRヤリスの開発担当として3月13日のトヨタイムズニュースにも登場した齋藤尚彦主査が、次々とアイデアを出して、吸気ダクトやエアロパーツなどをテスト。石浦監督は「GRヤリスも今回のスーパー耐久で、もう一段も二段も進化することになった」と語る。
意外な結末、そして生放送での公開謝罪
迎えたレース決勝。結果は、4時間を過ぎて他の車両がクラッシュを起こし、赤旗中断をもって終了となる意外なものだった。実況をしていた森田キャスターも、戻ってくるドライバーたちを見て「何とも言えないですよね」と残念そう。
ST-Xクラスの14号車は、マシントラブルで一時ピットインしたものの、完走して7位。白熱したのがST-Qクラスで、61号車と28号車が93周、32号車が92周。勝負を分けたのは終了直前のピットのタイミングの差で、三つ巴のレース展開を見せていた。
32号車の石浦監督にとって痛恨だったのは、自分がドライバーとして走るタイミングだったので、監督としてピットインの指示をできなかったこと。セーフティーカーの入る状況を大嶋選手がつぶさに観察していた28号車との差を広げられてしまった。石浦監督は「レースが終わった後、(大嶋監督が)采配について自慢げでしたよ」と振り返りつつ、次戦への対策を立てていた。
レース後は、石浦監督の代わりにピットインを判断したエンジニアが土下座していたそうだ。生放送中のチャット欄でも、本人がコメントで「ごめんない、僕のミスです・・・。」と謝罪。チーム内では既に許されているアットホームな雰囲気だったが、本人の降臨にチャット欄も、スタジオも盛り上がりを見せていた。
第2戦の富士24時間は5月26〜28日
スーパー耐久の次戦は5月26〜28日の富士24時間耐久レース。早くもクライマックスを迎え、新監督にとっては、睡眠をどう確保するかが大きな課題となる。液体水素カローラの動向も気になるところだ。
「液体水素って液体と気体の違いぐらいでしか思われないけど、技術的にはめちゃくちゃハードルが高くなる。それを24時間走らせるということは、準備は大変になります」と石浦選手。世界も注目するデビュー戦に向けて、課題を修正してどんなクルマに仕上げてくるかを待ちたい。
特集の最後で森田キャスターが紹介した水素の燃料電池を搭載したラジコンも、今後の追加取材がありそうな予感。新しいチャレンジが詰まった今年のモータースポーツを番組は追い続けるのでお楽しみに!
毎週金曜日11:50からYouTubeで生配信しているトヨタイムズスポーツ。次回(2023年3月31日)は、男子バスケットボールを特集する。アルバルク東京は4月1・2日、B1リーグ戦でシーホース三河(アイシン)と対戦。トヨタグループ対決を前に、日本代表選手も在籍する両チームを取材する。ぜひ、お見逃しなく!