挑戦や家庭との両立を阻む壁を壊すことはできるのか。多様な働き方の実現に向けて、労使それぞれの立場から本音の意見が交わされた。
リーダーになれているか
職場で本音の会話をする難しさと重要さについては、Toyota Compact Car Companyの新郷和晃プレジデントが自身の経験を伝えた。
新郷プレジデント
私は以前、「失注」という経験をしました。約70万台という大きな新興国向けの小型車プロジェクトを競争力がなくて失いました。
「仕事がない」「このままでは倒産してしまう」という危機感をカンパニー全体が共有したときから、みんなの目つき、空気は少しずつ変わっていきました。
現場を中心に、職場の垣根を越えて上司・部下、そしてボディメーカーも関係なく、一人ひとりがそれぞれの役割をがむしゃらにやり始めました。
「黒字化のためだったら何でもやる」「そのために、どんなアイデアでも聞かせてくれ」という雰囲気が定着してくると、風通しがどんどん良くなる体験もしました。
原動力は、決して失注ではありません。みんなの腹落ちだったと思っています。上司と部下が腹落ちしたチームになると、パワーとスピードが出る。
みんなが腹落ちするまで、本音の会話を続けていくのが大事だと思っています。
もう一つ、腹落ちするまでには、ものすごい時間と労力がかかるのも体験しました。
オセロの盤面が、一晩で変わることは絶対になく、活動を始めても、最初はなかなか変わっていきませんでした。
でも、地道な活動を続けていくと、少しずつ変わっていって、あるとき、そのコーナーピースが変わって一気に色が変わっていく。そんな体験もして、時間と労力をかけながら、みんながやっていくのが大事なんだなと学びました。
一体感が持つパワーについて、会社から実体験にもとづいた事例が続く。
小川哲男 北米本部長は、大事故に巻き込まれながら人命救助に尽力したトヨタユーザーの男性に、北米トヨタの社員たちが、現場判断で新車を贈呈したエピソードを紹介。「同じ価値観を共有する中でオーナーシップを持って仕事ができた」と振り返った。
「上位が風通し良く、職場の声をしっかり拾いながら、支えていくことの大切さを学ぶことができた」と発言したのは、パワートレーンカンパニーの山形光正プレジデント。2023年の東京オートサロンに出展した、水素エンジンとBEVのAE86の開発に挑戦した経緯を紹介。
「ワンチームになって取り組み、上司はそれを支えていく。さらに、社長も含めてできるところまででいいと言っていただける環境があった。だから結果的に短期間でクルマを走らせることができた」と強調する。
佐藤次期社長のもとで掲げられている「チーム経営」。新体制ではより一体感が大切になってくる。長田准CCO(Chief Communication Officer)からは、マネジメント層へ問題を提起する一幕もあった。
長田CCO
2020年の労使協のとき、豊田社長からボスとリーダーの違いについて話があったと思います。
僕の反省でもありますが、トヨタの今のマネージャーは、トヨタの企業文化、企業風土で、比較的ボスが多いんじゃないかと思います。
登用する人たちも価値観が近い人、働き方が近い人を選んできたんじゃないかと、自分の反省も含めて、思います。
自動車産業が新しい課題に向き合っていくときには、部下、相手の話をまず聞いていくことが第一歩で、これをやらない限りは今日議論したことに向き合えないんじゃないか。
私を含め、非常に厳しい課題を突きつけられているなと思っています。
マネージャーはどう変わらなきゃいけないのかを自覚することが必要で、特に、(組合員と経営層の)真ん中にいる一番重要なGM(グループ長)の皆さんに、そういう時間を与え、変化を促していけるよう議論させていただけたらと思います。