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2023.03.01
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職場の閉そく感を打ち破れ 働き方に多様性を

2023.03.01

挑戦や家庭との両立を阻む壁を壊すことはできるのか。多様な働き方の実現に向けて、労使それぞれの立場から本音の意見が交わされた。

3月1日、トヨタ自動車本社で第2回の労使協議会(労使協)が行われた。

佐藤恒治(さとう・こうじ)次期社長から賃金・賞与について回答があった、1回目の労使協から1週間。「満額回答」が広く報道され、トヨタの労使交渉は終結したように思われるかもしれない。

しかし、トヨタの交渉の本質は、課題解決に向けた本音の話し合いにある。

佐藤次期社長は、今回の協議の最後に以下のように語っている。

「もっとも大切にしたいのは組合との話し合いです。トヨタ労使の間で礎になっている『話し合いを大事にする』。ここにできる限り時間をかけて話し合い、行動を生んで何かを変えていく。そこに時間を使いたいと強い想いを持って初回に回答しました」

2月15日に申し入れられた組合からの要求書の一番はじめに書かれていた項目は、賃金・賞与ではなく、“話し合い”だった。その要求に応えるために、先に賃金・賞与の回答をしたということだ。

今回、話し合いのテーマとなったのは、「挑戦しようとするとぶつかる壁」と「育児や介護と仕事を両立するための課題」の2つ。2時間にも及んだ議論の最後に、佐藤次期社長と組合の西野勝義委員長は以下のように述べた。

佐藤次期社長

前回振り返りを行ったように、我々には13年間共に築き上げてきた共通の価値観がある。だからこそ、お互いが本音で話ができる。それが今日の話し合いの場に表れていたんじゃないかと思います。

前回、賃金・賞与に対する回答をさせていただきました。ここに込めた想いがたくさんありますが、もっとも大切にしたいのは組合との話し合いです。

トヨタ労使の間では礎になっている「話し合いを大事にする」。ここにできる限り時間をかけて話し合い、行動を生んで何かを変えていく。そこに時間を使いたいと強い想いを持って初回に回答しました。

これからもっともっと本音で話し合いを深めていきたいと思います。

そして、今日の議論の中心は「多様性」でした。多様な価値観、多様な働き方、多様な悩み。たくさんの本音のご意見をいただきました。

私は、「多様性は人の活力を生む」と思います。そしてそれは、必ず中長期的な成果を高めてくれると思います。

しかし、多様なやり方に応えていくためには、短期的には克服すべき課題もあると思います。現実の足元の課題とどう向き合うべきかという悩みが前面に出てきた話し合いだったんじゃないかと思います。

今は「正解が分からない時代」とよく言われます。正解が分からないからこそ、挑戦が大切です。多様な価値観でさまざまな挑戦をすることで、会社の可能性を高めていく。

そういうことをやるのに、現場の実感として挑戦を阻む要因がまだまだあるんだなと感じました。私が感じた「挑戦を阻む要因」2つを少しお話ししたいと思います。

1つは忙しすぎてゆとりがない。これが現場の実感だと非常に強く感じました。余力をつくり、やめかえ(仕事をやめる・変える活動のこと)をして、意味のある仕事をどんどん増やしていこうと労使共に取り組んできました。

しかし、結果として、現場で起きていることは、やめかえで仕事が濃密になっている。糸が張った緊張状態が続いてしまっていると思いました。

その状態の組織では一つのやり直し、一つの失敗を致命的に感じてしまう。これがまさに今のトヨタの現場なんだなと感じました。

我々はキャリアを積む中で、本当に多くの失敗をしてきました。挑戦をするからこそ、失敗があると思います。その失敗から学んでいき、改善をして、自分のスキルを高めながら会社の成果を高めてきたのが、トヨタが強くなってきた歴史だと思います。

だからこそ、失敗を絶対に恐れてはいけない。失敗ができない会社になってはいけないと思います。

今日いただいた声を踏まえると、精神論ではなく、具体的にリソーセス面で余力をつくっていく取り組みをすべきだと感じました。

それから2つ目。上位方針が正解だという雰囲気が会社にあると感じました。私も実際に経験していますが、例えば、仲間と議論をしているとき、一つの事例として話したことが、展開されていくうちに、指示になってしまう。

「なぜそう言ったのか?」「判断の背景は何なのか?」という付帯情報が伝わらないまま指示に変質していくことがあると思います。

これは、マネジメント、特に役員や幹部職からコミュニケーションを変えていかなければいけないということの表れだと思います。

自分自身の事例を紹介をすると、新型LEXUS RXの開発に着手するとき、豊田社長と私とチーフエンジニアで、どんなクルマにしていくべきか相談した場がありました。

豊田社長からのアドバイスは、たった一つだけでした。「失敗していいからね。責任は僕がとるよ」。この一言だけでした。

LEXUS RXは量の面でも、収益面でも非常に重要なプロジェクトで、失敗ができないプロジェクトであることは間違いありません。

そのプロジェクトに対して、豊田社長が我々にかけてくれた言葉は「失敗していいからね」。裏を返すと、失敗を恐れることなく挑戦して変わっていかなければ、新しいものができない、お客様の笑顔にはつながらないという強い想いだったんだと思います。

私自身もそういう気持ちでいたつもりでしたし、自分がチーフエンジニアのときはそういう想いで挑戦を続けていました。

ただ、自分がプレジデントという肩書に縛られ、失敗ができないという意識が急に出て、無意識にメンバーにも失敗ができない空気をつくっていたんじゃないかとはっとしました。

自分がもし、(肩書でなく)役割でその場にいたら、「チームの成果を最大化するために自分に何ができるだろう?」と考えたはずです。

役割で仕事をする大切さを感じるとともに、自分が無意識のうちに失敗をさせないようにしている原因の一つになっているんだなと気づきました。

自分の失敗事例を申し上げるのは非常に胸が痛みますが、そんなプライドを捨て、役員・幹部職のメンバーが本音で自分の役割は何かを考えて、行動を変えていかなければ、現場のみんなの挑戦は進まないと思いました。

4月以降、社長という肩書ではなく、新チームのキャプテンという役割で仕事をしていきたいと改めて思っています。

これらの余力を生み出すという軸をぶらさないようにしたい。

我々は、550万人の仲間への貢献のために、話し合いをしています。そのために、今一番必要なのは、まず我々自身が余力を持ち、550万人を想う働き方をすること。

そうしなければ、550万人への貢献は掛け声になってしまうと強く思いました。

余力を生んで、人が育って全員が活躍するトヨタになること。そのために今できることは何かを考える。これから先も具体的に議論したいと思います。

今日の議論でさらなる雇用も含めて、現場のリソーセス拡充のための具体的な手当てを検討したいと思います。引き続き本音の議論を通じて、ぜひ行動につながる話し合いを続けていきたいと思います。

西野委員長

本日は、トヨタで働く一人ひとりが全員活躍に向けて変わろうとするときにぶつかる仕事のやり方やコミュニケーションの課題、両立者のさらなる活躍に向けて何をすべきか、労使で本音の話し合いをさせていただきました

本日の議論を受けて、課題に踏み込んだ話ができたことに改めて感謝申し上げます。

組合としても、マネジメントだけに任せるのではなく、それぞれの職場で膝詰めで踏み込んだ話をしながら、労使で一緒になって、進めたいと思っております。

また、多様な働き方の実現に向けては、誰もが希望を持って自分らしく生きられる、自分の目標に向けて挑戦できる、そして、能力を発揮し、活躍できるようさらなる後押しが必要だと考えております。

会社の制度や施策だけではなくて、組合員一人ひとりが自分事として何ができるか、何を自分ですべきかを自ら考え、全員でお互いを尊重し合える職場をつくっていきたいと思います。

結論が出せるものについては、労使の中でしっかりと共有しながら合意し、すぐに動き出していきたいと思います。

引き続き議論が必要な課題などについては、春以降の労使の話し合いの中で、しっかりと進めていきたいと思います。

労使双方が、このように締めくくった2回目の話し合い。ここからは、その詳細をレポートする。

トップダウンの壁、仕入先との溝

まずは、組合から職場改善の挑戦を阻む壁として、「階層的に仕事を進め、トップダウンが強く、対等な議論ができていないこと」「目の前の業務で手いっぱいになり、自律的に動く余力がないこと」があげられた。

仕入先からも切実な声が届けられる。

トヨタから出向・転籍し、現在は金属素形材メーカーである中央可鍛工業に所属する小柳克栄参与は、トヨタと仕入先、両方を知るからこそ、両社の間にあるリアルな認識の差を語った。

中央可鍛工業・小柳参与

私も時折、明知工場へお邪魔して、お話を聞く機会がありますが、行くたびにどんどん工場の姿が変わっていく。

それについていこうと、中央可鍛のメンバーを連れて改善・改革を進めようとしていますが、リソーセスの大きな違いから、トヨタの進歩について行けず、その差が開いていく印象を受けています。

トヨタから来た人はTPS(トヨタ生産方式)をしっかり教育・研修で学んでいる。一方、受け入れる仕入先は、必ずしもトヨタと同程度とは限らない。

こういう状態でトヨタから指導を受けても、つらい思いをする。困ってしまう。設備改造など、問題提起されたことにも対応できない。

近年、「寄り添い活動」という言葉を耳にします。トヨタが仕入先に寄り添ってくれる、ありがたいと受け止めたいですが、いろいろな企業があります。

規模の大きさ、文化、伝統、環境がまったく違います。そういう中で、トヨタから話があると、逆に負担が増えるんじゃないかと懸念するところもあります。本当に寄り添うなら、相手の企業の困りごとをしっかり聞いて、同じ目線に立って、同じ方向から設備を見たり、お客さんを見ることが大切だと思います。

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