高速道路を走行中、事故で愛車が大破。一命をとりとめ、窓から はい出た救命士がとった行動は、人を助けに行くことだった。
2月11日、米国テキサス州の高速道路上で、路面凍結による大規模な玉突き事故が発生した。130台以上を巻き込んだ事故の被害者の1人に、トヨタFJ クルーザーで通勤途中だった救急救命士のトレイ・マクダニエルさんがいた。
事故当時のことをマクダニエルさんは鮮明に覚えている。道路の凍結を見て、すぐにブレーキを踏んだが、止まれずスリップ。恐怖を覚えたのはその後だ。「リアミラーに目を移すと、トレーラートラックがフルスピードで突っ込んでくるのが見えました。ステリングを握り、衝撃に備えました」。
愛車のFJ クルーザーは大破したものの、彼自身は一命をとりとめた。全身に打撲を負いながらも、なんとか運転席の窓からはい出たマクダニエルさんが目にしたのは、前も後ろも、押しつぶされたクルマの山。
事故の衝撃で体がふらつく中でも、最初にとった行動は、他の被害者を助けにいくことだった。マクダニエルさんはこう思い返す。
そこらじゅうから救助を求める声が聞こえてきました。あの光景は忘れられません。アドレナリンが出てきて、『救命士としてやるべきことをやろう』と思いました。
既に救命衣服を着ていた彼は、クルマの山の中に入って被害者の救出活動を始め、駆けつけた救急隊と一緒に現場を駆け回った。その様子は、とても事故で負傷した人とは思えないもの。
しばらくした後、救急隊のメンバーがマクダニエルさんの傷を見て、「ちょっと待って。もしかして君も事故に巻き込まれていたのか?」と、ようやく気が付いたくらいだ。救出活動が落ち着くと、マクダニエルさんは病院に搬送された。
トヨタからの返信
マクダニエルさんはその後、自身の体験をSNSで投稿した。
昨日、FJ クルーザーでフォートワース地区の35号線を走っていたら、事故に巻き込まれてしまった。でもトヨタのクルマが僕の命を救ってくれたよ。
大破したクルマの写真を見た人たちは、「よく助かった」と驚き、そしてマクダニエルさんがとった事故後の行動は多くの称賛を集めた。テキサスに本社を構える米国トヨタ(Toyota Motor North America)のチームも、この投稿を見ていたひとりだ。
数日後、SNS上で米国トヨタからの返信が投稿された。
困っている人を助けるために行動されたことに敬意を表します。トヨタ車オーナーでいていただけていることをうれしく思います。壊れたクルマの心配はなさらないでください。新しいクルマをご用意させていただきます!
米国トヨタは、自らが負傷しながらも、周囲を助けようと動き続けた姿勢に感銘を受け、代替車両を贈呈することを決定。販売が終了しているFJ クルーザーに代わり、同じSUVの「4Runner」の特別仕様車が贈られることになった。
2月25日に行われた贈呈式で、米国トヨタの小川哲男CEOは
テキサスが大寒波に見舞われる中、とても心温まる行動でした。トヨタが大事にしてきた、人へのリスペクトや思いやりという価値観を体現してくださり、心より感謝申し上げます。
と、懸命に救助活動に当たったマクダニエルさんに感謝の気持ちを伝えた。
販売担当役員のボブ・カーターからも謝意を伝えた。
私たちはあなたの自分を顧みない行動に心が揺さぶられました。『トヨタファミリー』のマクダニエルさんをこうしてお迎えできることを誇らしく思います。ありがとうございます。
ボブ・カーターが言った「トヨタファミリー」には、トヨタ車の顧客ということ以外に、もうひとつの意味があった。実は偶然にも、マクダニエルさんは救命士になる以前、トヨタの販売店でセールススタッフとして働いていたことがあるのだ。贈呈式が行われたのは、かつての職場である「Texas Toyota of Grapevine」だ。
販売店を退社して以降も、マクダニエルさんはトヨタ車を愛用してきたという。「僕の命を守ってくれたFJ クルーザーには感謝してもしきれません」と語る。「こんなことになるなんて、未だに信じられません。これまでの人生で最も素晴らしい出来事です」。
救命士みんながヒーロー
まだ驚きを隠せないマクダニエルさんだが、彼は周囲の称賛をどう受け止めているのか。
事故から数日後、地元テレビ局のインタビューで、「あなたはヒーローですね」と言われたマクダニエルさんは、少し照れながらこう答えた。
そこにあるのは、「命を守る」という彼自身の使命にまっすぐ向き合う姿勢と、他の仲間への思いやりだった。