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飾らず、本音で、本気で向き合う仕入先との関係

2023.03.07

豊田章男社長と佐藤恒治次期社長が、トップ交代会見後、はじめて2人そろってステークホルダーの前に立った。そこで語られたのはトヨタ自動車と仕入先の関係性だった。

トップ交代を伝えた1月26日のトヨタイムズニュースの生放送以来、初めて豊田章男社長と佐藤恒治次期社長がそろってステークホルダーの前に立った。

2人が登壇したのは、4年ぶりのリアル開催となったグローバル仕入先総会。世界中から駆け付けた約700名の代表者に対し、長年にわたって築き上げてきたトヨタと仕入先の関係について想いを語った。

トヨタイムズでは、2人のメッセージ全文を掲載する。

グローバルな自動車産業を支える皆様に感謝

豊田社長

最初に、トルコ、シリアで発生した地震で、お亡くなりになられた多くの方々のご冥福をお祈りいたしますとともに、被災された皆様、そのご家族の方々に心よりお見舞い申し上げます。

また、ロシアのウクライナ侵攻からちょうど1年になります。戦争により、多くの人々の命が失われ、その暮らしに甚大な被害を与えております。お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りいたします。

世界中のさまざまな町に、私たちのお客様がいて、クルマづくりの仲間がいます。目の前の山や川の名前は違うかもしれませんが、私たちは、同じ太陽と空のもとで、暮らしております。

人類が、地球とともに、幸せに生きる世界を目指す。それこそが「グローバル企業」トヨタの使命だと思っております。

私たちの事業で見ますと、コロナの影響や半導体不足も重なり、この数年は思うように「クルマがつくれない」「お客様にお届けできない」状況が続いております。

こうした中でも、グローバルな自動車産業を支えていただいているすべての皆様に心より感謝申し上げます。本当にありがとうございます。

先の見えないコロナ危機で示した「基準」

豊田社長

皆様とこうしてリアルにお会いできるのは、実に4年ぶりとなります。

そして、今日、2月24日は私が米国公聴会の証言台に立った日でもあります。トヨタ再出発の日を同志である皆様と迎えられることを本当にうれしく思っております。

私たちの暮らしを一変させたのが、2020年のコロナ危機でした。

トヨタはその年の5月の決算発表で、世界販売800万台、営業利益5000億円という「基準」を公表いたしました。

「なんとか日本を元気にしたい」「世界中に元気と勇気を届けたい」。その一心でした。

「この先どうなるかわからない。それでもトヨタは赤字に陥らない。予想など出せるわけがない。それでも、何らかの基準をお示ししたい。それが、自動車産業の仲間にとって、わずかな光、道しるべになるはずだ」。私は、そう考えました。

メディアでは、「営業利益予想8割減」と危機感をあおるような見出しで、世の中が暗くなるような報道をされてしまいましたが、皆様は、私たちが出した「基準」をベースに「異常」を管理し、変化に柔軟に対応してくださいました。

私たちは、コロナ危機の中でも世界経済を回し続ける「原動力」として、勇気と元気をお届けできたと思います。

そして、改めて、大切なことに気づいたと思います。「自動車はみんなでつくるもの」という「感謝」の気持ちです。

お会いできない時間が、私たちの絆をより強くしてくれた。私は、そんなふうに思っております。

支えてくださった恩人への感謝

豊田社長

振り返りますと、社長就任以来、平穏無事な年は1年もありませんでした。危機の中を、一日一日、必死に生き抜いてきた。

その闘いの日々を支えてくださった恩人が、相次いで、お亡くなりになりました。

日本精工の朝香聖一さんと矢崎総業の矢﨑信二さんです。

朝香さんは、私が調達担当 副社長の時代から社長就任後のリコール問題、東日本大震災という会社存亡の危機の時代まで、長きにわたり、協豊会の会長を務めてくださいました。

朝香さんは、常々、「トヨタと仕入先は血の通った関係だ」と言われておられました。そして、会長を退任されるときにはこんなお話をいただきました。

「絆という漢字は糸へんに半と書く。人と人との結びつきは、糸と同じで相手の力加減に関係なく、引っ張りあうと切れてしまう。絆とは、お互いが相手の力加減を考えながら結びつく関係である。だから、糸プラス半になる」

この言葉を、守り続けていくことをお約束いたします。

矢﨑さんには、私が若いころから、いろいろと相談に乗っていただきました。人としての生き方、経営者としての矜持を教えていただいたと思っております。

トヨタのオーストラリア生産撤退を受け、矢崎総業もサモアからの撤退を決断されました。

国からも従業員からも「ありがとう」と言われるその撤退は、「町いちばん」の企業のあり方そのものでありました。

そして、100年に一度の大変革期の中で、協豊会の会長を務めていただきました。

お二人から教わったこと。トヨタと仕入先の関係は、人と人との信頼関係だ。正直にものを言い合い、「ありがとう」と言い合える関係でなければならないということでした。

この場をお借りして、改めて、感謝の気持ちをお伝えさせていただきます。本当にありがとうございました。

未来をつくるチャレンジのためにトヨタと付き合いたい

ここで、ひとつ映像が紹介される。

豊田社長が仕入先の代表者たちとコミュニケーションをとってきた場面をまとめた映像である。

自身の運転するクルマの助手席に乗ってもらったり、笑顔でフランクに話すシーンが映し出された。

映像が終わると豊田社長はこう続けた。

豊田社長

国や地域に関係なく、すべての仕入先様とこうした関係をつくりたいと思っております。こちらのスライドをご覧ください。

この13年間、すべての地域で、仕入先の皆様との取引を拡大してまいりました。

その結果、全世界で、3000社の新たな仲間が増えました。そのベースにあるのが「現地調達」です。

国や地域が違えば、文化も違うし、人々の暮らしも違います。道も違えば、クルマの使い方も違います。その国の、その道にあった「もっといいクルマ」をつくりたい。

そのために、「町いちばん」の仕入先様と一緒にやらせていただきたい。私は、そう思っております。

トヨタは、これからも世界中の仕入先様とお付き合いをさせていただきます。そして、仕入先の皆様も、世界中のカーメーカーとお付き合いをしていただきたいと思います。

その上で、「やっぱりトヨタと付き合いたい。量がまとまるからではなく、未来をつくるチャレンジができるから」。

そう言っていただける関係になりたい。その一心で、ここまでやってまいりました。

その結果、「商品」が変わったと思います。グローバル・フルラインナップ。これが、今のトヨタを一言で表す言葉だと思います。

そして、これは、13年という時間をかけて、トヨタの仲間と仕入先の皆様と一緒に、つくってきたものだと思っております。

今のトヨタは、世の中が求めるどんなクルマでも提供することができます。

その根底には「誰ひとり取り残さない」「すべての人に移動の自由を」という願いがあります。

佐藤次期社長へのバトンタッチ

豊田社長

最後になりましたが、皆様ご承知のとおり、先月、トップ交代を発表いたしました。この決断をいたしましたのは「バトンタッチの土台はつくれた」。そう思えたからであります。

私が社長に就任したとき、「トヨタは、いつからお金をつくる会社になったんだ」と言われました。

その悔しさから始まった「もっといいクルマづくり」。最初は孤独な闘いでした。

でも今は違います。私には、ともに闘ってくださる仕入先の皆様がいます。そして、バトンを渡せる仲間がいます。

いま、私は胸を張って言えます。私たちはクルマ屋です。

佐藤次期社長をキャプテンとする新しい経営チームは、「クルマは、みんなでつくるもの」ということを知っています。

それは、私と一緒に、現場で「もっといいクルマ」に挑み、失敗を重ねて身につけてきたものです。

これからも、次世代のクルマ屋たちが、モビリティ・カンパニーを目指し、たくさん挑戦し、たくさん失敗すると思います。

どうか彼ら彼女らの挑戦を長い目で見ていただき、私以上のご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

豊田社長の後を受け、佐藤次期社長がステージに登壇。豊田社長とのエピソードを交えながら、新体制で受け継いでいく仕入先への想いを語った。

「もっといいクルマをつくろうよ」でつながる価値観

佐藤次期社長

皆様、こんにちは。佐藤恒治です。4月から新体制のキャプテンとして、社長を務めてまいります。どうぞよろしくお願いいたします。

「クルマづくりはチームプレー」。これが、豊田章男社長のもと、クルマづくりをしてきた私の軸となる想いです。

もっといいクルマをつくりたい。そのためには、自分たちの今を超える挑戦が必要です。

挑戦をすれば、失敗もします。それでも、失敗を乗り越えて前に進むことができたのは、意志と情熱を持った仲間が現場にいたからです。

すべての部品やシステムが「もっといいクルマをつくろうよ」という価値観のもとでつながっているからこそ、いいクルマになるのです。

豊田社長が「商品と地域を軸にした経営」を進めてきたこの13年間でトヨタは大きく変わりました。

事業構造は、グローバルにバランスの取れたものに変わってまいりました。損益分岐台数は、皆様と一緒に取り組んできた体質強化によって、リーマン・ショックのころと比べて、3割改善し、この収益基盤のもとで、CASE 技術や新たな仲間づくりなど、「未来への投資」が進みました。

このすべてを支えた土台が「商品」の変化です。

TNGA やカンパニー制により素性の良いクルマづくりが進み、開発効率は3割向上いたしました。

このクルマづくりの基盤が、商用車やスポーツカーも含めて、魅力ある多様な商品ラインナップにつながってまいりました。

カローラ、ヤリス、クラウンでは、時代のニーズとともに絶えず変化するロングセラーカーのあり方に向き合い、「群で考える」クルマづくりへの変革が進んでいます。

アジアのIMVや北米のタンドラ・タコマなど、地域ニーズに寄り添った現地主導のクルマづくりも進みました。

変革を支えたマスタードライバーという存在

佐藤次期社長

こうした変革を支えたのが、トヨタにしかない「マスタードライバー」の存在だと思います。

豊田社長は、自らハンドルを握り、現場で、目指すべきクルマのイメージを示し続けてきました。

求める味と違えば、マスタードライバーとして、「NO」と言う。だからこそ、世に送り出せた「もっといいクルマ」がたくさんあります。

例えば、昨年、発表したGR カローラ。「野性味が足りない」。それが開発車両へのマスタードライバーのフィードバックでした。

マスタードライバーのもとで、クルマの素性が磨かれ、GRブランドの個性が見えてまいりました。

それはレクサスブランドでも同じです。

豊田社長は3年前、レクサスのプレジデントに就任した私に、こう言いました。「私がつくったすべてを壊せ」。

「レクサスの変革には創造的破壊が必要だ」。私はそう受け止めました。そんなブランドホルダーの想いがあったからこそ、レクサスは「ニューチャプター」がはじまりました。

レクサスの電動化はクルマ屋として、現場でつくりこまれています。これからも電動化をけん引し、本物を追求するブランドとしてレクサスの挑戦は続いてまいります。豊田マスタードライバーとともに。

「もっといいクルマをつくろうよ」。このブレない軸と13年という時間があったからこそ、トヨタの人やクルマが変わってきたのだと思います。

「豊田章男経営」の最大の財産は、こうしたトヨタが大切にすべき価値観が浸透してきたことです。

3つの重点テーマ「電動化」「知能化」「多様化」

佐藤次期社長

新体制のテーマは「継承と進化」です。

豊田社長は、現場で、その行動を通じて、トヨタのあり方を私たちに示し続けてきました。

その背中を見て、みんなで学んできたからこそできる「チーム経営」があると思っています。

新体制が目指していく進化は「モビリティ・カンパニーへの変革」です。

そのクルマづくりにおいて3つの重点テーマが、「電動化」「知能化」、そして「多様化」です。特に大きな変化が、電動化だと思います。

電動化の目的は、エネルギーの未来に寄り添い、エネルギーセキュリティを視野に入れたクルマをつくることだと考えています。

世界を見渡せば、エネルギーの状況はさまざまです。だからこそ、トヨタは「マルチパスウェイ」という軸をぶらさずに、ハイブリッドも、電気も、水素も、全方位で取り組んでいきます。

足元では、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車の拡充を進めながら、BEV専用モデルのラインナップを増やし、地域のニーズにお答えしてまいります。

そして、「普及期」を見据えた次世代BEVづくりの準備も進めてまいります。

BEV は、クリーンなエネルギーがあれば、カーボンニュートラル社会を実現する有効な手段のひとつです。

さらに、走りの良さや操る楽しさ、高度な走行制御など、BEVだからこそ追求できる「クルマの本質的な価値」があります。

そして、モビリティの「新しい価値づくり」のカギも握っています。

人やモノに加えて、電気エネルギーも情報も運ぶクルマがBEVです。そのなかでソフトウェアが果たす役割も変わってまいります。

こうした変化の中で、要素技術の進化にも、「クルマ全体の視点」が必要になってまいります。

だからこそ、これまで仕入先様とトヨタで積み上げてきた「クルマ屋のチーム力」が大切なのです。

志と情熱を共有する仲間がいるからこそ、新しいモノが生み出せる

佐藤次期社長

皆様とともに、トヨタのマルチパスウェイを推し進めてまいりたいと思います。

最後に、私がずっと胸に刻んでいるエピソードをご紹介させてください。

以前、豊田マスタードライバーにレクサスLCの開発車両をテストしてもらったときのことです。

「前回よりいいクルマになってきた」と言ってもらえたので、私は「4000人の仲間が支えてくれているからです」と返しました。

しかし、それを聞いた豊田マスタードライバーからは大変厳しい言葉が返ってきました。

「4000人はトヨタの人間だけじゃないのか。3万点に及ぶ部品をつくってくださっている仕入先様がたくさんいる。その仲間のことがお前は頭に浮かんでいるか!」

本当にそのとおりでした。

「レクサスの変革を示そう」という一心で取り組んだLC。自分自身、初めはこのデザインのクルマができるとは思えませんでした。

しかし、夢は現実となりました。挑戦と失敗の積み重ねがあったからです。

開発の中で、困難に直面するたびに、アイデアを出し、助けてくださったのは、仕入先の皆様でした。

志と情熱を共有する仲間の皆様がいるからこそ、新しいモノが生み出せます。

これから私たちは、正解のない時代に、「モビリティ・カンパニー」への変革を目指します。

挑戦し、失敗を重ねる中で、 きっと見えてくるものがある。そう信じています。

皆様と一緒に、ワンチームで挑戦してまいりたいと思います。

新体制のチーム全員で、全力で取り組んでまいりますので、皆様からの温かいご指導とご支援を賜りますようよろしくお願い申し上げます。

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