開発着手から1年強、ついに液体水素を燃料に積んだGRカローラがベールを脱いだ。脱炭素へ選択肢を広げる挑戦が今年も幕を開ける。
液体水素を燃料に積んだGRカローラが、2月23日、富士スピードウェイ(静岡県小山町)でスーパー耐久(S耐)のテスト走行を行った。
同車が公の前で走行するのは今回が初めて。さらに、液体水素を燃料とするメーカー車両が、サーキットを走るのは世界初の挑戦となる。
これまでS耐に参戦していたGRカローラは、燃料に気体の水素を積んでいた。今回公式テストを走ったGRカローラは液体の燃料を使っている。
この日は3回のセッションを走行。他のクルマと混走し、規定時間の中で水素充填を行うなど、実戦を見据えたテストを実施。
ドライバーを務めた佐々木雅弘選手は今回のチャレンジについて「-253℃という誰も見たことがない世界で、自動車で取り組むことは不可能とさえ言われている技術に挑戦して、内燃機関を未来に残そうと戦っている」と説明。
「まだまだクリアしなければならない課題はいくつもあるが、気体水素のように、レースの現場でのアジャイルな開発を通じて、一般車へのフィードバックにつなげていきたい」と意気込みを語った。
この車両は、来月開幕するS耐2023へのフル参戦を目指し、目下、開発を継続中。カーボンニュートラル社会の実現に向け、燃料の選択肢を広げる取り組みを加速させる。
液体水素車両の開発経緯
トヨタは2022年3月、鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)であったS耐初戦で、液体水素を燃料とする車両の開発を開始したことを公表。
3カ月後に富士スピードウェイで行われた第2戦では、液体水素の車載システムと移動式ステーションを展示した。
その後、液体水素タンクをはじめとする部品の試験や認可をへて、昨年10月末に車両への水素充填と試験走行に成功。
11月からサーキット走行を重ね、液体水素システムの課題のあぶり出しと、レースを戦える車両のつくり込みを行ってきた。
今年は、S耐開幕戦から液体水素車両の実戦投入を目指し、技術と人を鍛えていく。
液体水素で得られるメリット
昨年までの水素エンジンカローラ(水素カローラ)は気体水素を燃料としていた。一般的に、液体での搭載が可能になると、体積当たりのエネルギー密度が上がり、航続距離が伸びる。
気体水素は高圧で充填するため、タンクの形状は円筒型にならざるを得ない。しかし、燃料が液体になれば、タンクを高圧にする必要がない。将来的に床下搭載しやすい形状にもでき、パッケージ効率が高められる可能性がある。
液化で変わるピットの風景
移動式液体水素ステーションは、燃料が気体から液体になることで、小型化することができる。
液化により運搬用ローリーが小型化され、70MPaに昇圧する設備も不要になるため、ステーションの専有面積は気体水素ときと比較して4分の1程度に縮小。ガソリン車同様、ピットエリアで燃料が充填できるようになる。
さらに、充填にあたっては昇圧の必要がないため、複数台数への連続の充填も可能になる。
今後は、充填や貯蔵の際に-253℃の極低温をどう保つか、受熱によりタンクから自然に気化していく水素にどう対応するかなどの課題を洗い出し、技術開発を加速させていく。