「今日の会話を多くの人に知ってもらいたい」。第2回の労使協議会を終えると、豊田章男社長は編集部に伝えた。1時間半にわたった労使の話し合いをレポートする。
豊田章男社長が賃金・賞与について言及した第1回の話し合いから1週間。3月2日の午前中に第2回の話し合いが行われた。
1時間半にわたった労使協議会を終え、会議室から出てきた豊田社長にトヨタイムズは話を聞くことができた。社長は次のように今回の話し合いを振り返った。
豊田社長
自動車産業に関わるすべての人を念頭において今日も話し合いができたと思います。組合側も会社側もみんなが、そういった“YOUの視点”で語り合うことができて本当にうれしかった。
本音を言えば、3年前の会話(2019年春の話し合い)は誰にも聞いてほしくないような内容でした。しかし、今日の会話は逆に多くの人に知ってもらいたいと思える内容でした。
“自動車に関わる550万人“と言っているが、こういう会話の機会を持つ人はそのうちの3割。
先週の話し合いにもあったが、他の7割の人にもこういう会話の内容が届いてほしい…。なんとか風を届けたい…。そう願っています。
それと、組合からの申し入れで、“最初に書いてあること“は賃金でも賞与でもなく「会社と会話をしていきたい。本音の議論を行いたい」ということが一番に書かれています。
今日は、自分は発言をしていませんが、話し合いを“じっくり”聞かせてもらいました。聞いていると確かに本音が出てきていました。組合からだけでなく現場を預かる会社側からも本音が出てきていました。
社長が聞いてる場でそんな発言をするのは勇気のいることだったかもしれません。そう考えると、それらはまさに現場からの「うめき声」に聞こえてきました。
話し合いはあと2回、現場から聞こえてきた”うめき”に、どう応えていけるかな…。
最後はつぶやくような言葉を残し、豊田社長は社長室に戻っていった。
社長が聞いた“うめき声”とはどんな内容だったのか? 本日の話し合いをレポートする。
「もう限界」生産幹部のうめき声
今年のトヨタの春交渉は、第1回目で豊田章男社長が組合の賃金・賞与の要求に対して「認識の相違はない」とコメントしたことを受け「トヨタ満額示唆」と報道されている。
先立って、賃金や賞与の話題が広がっているが、トヨタの話し合いは、ここからさらに深まっていく――。
今回のテーマは、足元の生産と、昨年、労使が一体となって取り組む“2本柱”に掲げたカーボンニュートラル。前回同様、トヨタ個社ではなく、仕入先や販売店などの550万人の仲間たちを見据え、労使が本音で議論を深めた。
今回の話し合いで、組合から議題に上げられたのは、550万人の多くの仲間にも影響を及ぼすトヨタの足元の生産について。
組合の鬼頭圭介副委員長は、新型コロナウイルスの感染再拡大に伴う部品の欠品や世界的な半導体不足による減産で、お客様を待たせている現状を指摘。国内外の販売店の最前線で、お客様との信頼関係を維持するために、現場が奔走している実態について紹介した。
あわせて組合から伝えられたのは、仕入先の切迫した現場の状況だった。
「当初通りの計画であれば、残業・休日出勤で乗り切れるかわからない」
「仕入先の多くは外国人労働者に支えられており、コロナ禍の入国制限も影響している」
「既に無理な稼働を続けていても『自分たちのせいでトヨタを止めるわけにはいかない』と本音を隠して『大丈夫』と答えてしまう」
「一台でも多くのクルマをつくり、お客様へお届けしたい」という想いのもと、生産計画や稼働をギリギリまで悩んで判断するトヨタのやり方が、仕入先に負担をかけてしまっているジレンマが浮き彫りになった。
生産部門の幹部職からは、リスクを織り込んだ早め・長めの生産計画を策定すること、長期化が予想される事案については、3カ月先までのリスクを計画台数に反映できるよう取り組んでいく方針が示された。
ここで、豊田社長が言及した現場の“うめき声”を届けたのが、伊村隆博 生産副本部長だ。議長の河合満と同じく、現場を預かる真の“おやじ”である。日頃から現場で向き合う仕入先の深刻さを訴える声に力がこもった。
会社:伊村 生産副本部長
仕入先やグループの方とお話をすると、(コロナ禍や働く世代の減少で)外国人労働者も期間従業員も採用できないという課題について「トヨタはどうですか」とよく聞かれます。大変だと伝えると「トヨタがそうなんだから、我々も難しいわけだ」と言われます。
仕入先の皆様は「トヨタが頑張るから私たちも頑張る」と言ってくれますが、今の状況は、もう限界だと思っています。
もう一回、足元を見て、仕入先様も含めて、健全な生産計画をつくり続けられるようにしないと、疲弊してしまうと思います。
お客様を待たせてはいけないということもある中で、我々が総合的に判断して、もう決めないといけない。どういう姿がいいのか、生産本部・調達本部も含めて、議論していきたいと思っています。
「限界」という言葉を使って仕入先の窮状を伝える伊村副本部長の発言にうなずき、組合の鬼頭副委員長は次のように応じた。
組合:鬼頭副委員長
台数に追従するために、何とか人と残業時間でやりくりしている状況は「正常」ではなく、「異常」だと思っています。
異常な状態がずっと続くと、大事にしなければいけない安全や品質がおろそかになって、あってはいけないことが起こってしまうのではないかと危惧しています。
いかにトヨタが丁寧な態度で接しても、失注してしまう怖さもあり、どうしても本音が言えない、根深いものがあるのが事実だと思います。
そういう構造の中で、仕入先様からの苦しみを理解して、感性を磨ける人材をつくっていく取り組みは大変重要だと思います。仕入先様にとってもありがたい話だと思うので、ぜひ一緒に取り組みたいと思います。
モノづくりの現場で苦しみながらも、声を発することができない人たちを代弁する労使の議論を総括して、生産本部長の岡田政道CPO(Chief Production Officer)が今後の生産計画についての考え方を示した。
会社:岡田CPO
かつて総台数を追っていた時代と今は違って、「もっといいクルマづくり」「幸せの量産」を目的に、お待たせしているお客様の1台1台を、1 日も早くお届けしたいという想いでみんなが仕事をしている。
しかし、挽回生産と急減産を繰り返すことが一時的なものではなくなってしまった今、汗を流している仲間たちの対応にも限界がきていると思います。
トヨタの工場においても、急きょ決まる非稼働日に、改善活動やプロジェクトの準備など、メンバーには、柔軟に対応いただいております。
こうした実態を踏まえ、要員確保やその準備のリードタイム、残業、休日出勤など、まず健全な状態をつくり、強い基盤を整えていきたい。台数の計画も、一気にではなく、少しずつ、年輪のように増やしていかなければならないと思います。
短期の急減産を改めるために、3カ月単位でリスクを織り込み、かつ生産・供給の身の丈に考え合わせた基準台数を定め、安定した生産体制が取れるようにしていきたい。
そういった仕事の進め方に変え、今後の生産計画も、皆さまの声を聞いて、慎重につくり込んでいきたいと思っております。
カーボンニュートラルを加速させるために必要なこと
話題は550万人の仲間とともに取り組んでいかなければならないテーマ、カーボンニュートラルへ。昨年の労使協で話し合われてから、労使拡大懇で理解を深め、会社と組合でさまざまな取り組みを進めてきた。
議論の冒頭、2020年10月に政府から出された「2050年カーボンニュートラル宣言」以降の豊田社長の発信と行動をまとめた映像を労使で確認した。
そして、カーボンニュートラルを加速させるために何が必要か。技術開発を統括する前田昌彦CTO(Chief Technology Officer)はこう話す。
会社:前田CTO
昨年、電池を中心に投資の話をさせていただきました。世の中の動きを見ても、BEV や電池への投資の話ばかり、すなわち、供給側の話ばかりです。しかし、その投資をサステナブルにするためには、普及する必要があります。
今の技術では電動車はまだまだ高くなる傾向にあります。コストは、前工程である仕入先の皆様だけでなく、後工程のメンテナンス・サービスなど、多くの皆様と一緒につくり込んでいくものです。
(コストが下がり)よりお客様に選ばれるようになれば、新たな投資につながり、持続的に普及が進んでいく。それがカーボンニュートラルにつながっていく。そして、結果として雇用やモノづくりを守るということにも結びつくと思っています。
550万人の皆様、前工程の仕入先様だけでなく、後工程を含めて自動車に関わる全産業の方々と一緒に進めさせていただく、この産業がペースメーカーになっていくことが改めて重要なのではないかと思います。
全体フローで見ると、新たな課題が見えてくる
前田CTOの発言に続き、組合からこの1年間で部署をまたぎ、自発的に始まったカーボンニュートラルへの取り組みが紹介された。
プリウスやカムリなどの車両を生産する堤工場では、部署が異なることで、2度に分かれていた乾燥工程を1回に集約。これにより、年間10トンものCO2を削減できた。
しかし、こういった好事例もなかなか他工場に広げられない実態があるという。
組合:堤支部長
自工程で品質をつくりこむ考え方は重要ですが、自部署内のTPS(トヨタ生産方式)を突き詰めるだけでなく、前工程、後工程、仕入先様を含めた全体フローで考え、最適にしていくことも重要になります。
今後、このような全体最適という考え方でもカーボンニュートラルへの取り組みを、加速させたいと思います。
また、さらに、このような事例の積極的な横展*が重要ですが、競争力向上を意識しすぎるあまり、オリジナルの改善や横展に+αを求められ、必要以上に足を止めるなどの声を聞きます。
*横展:自職場のノウハウを他職場にも展開して、全体の生産性を向上させること
自職場の環境に沿った横展には努力が必要ですが、今だからこそ、良い取組みはちゅうちょなくマネし合うこと、また職場上司も素直な横展だけでも前向きに評価する風土づくりが必要だと考えます。
会社:斉藤富久 上郷・下山工場長
先ほど支部長のご発言で、改善の横展開のやりづらさを指摘されていました。この点はご指摘を受けて素直に反省すべきことだと感じました。
現状をかえりみると、自職場の殻に閉じこもり、個別最適の改善が主流になっている傾向があります。結果、同一工程なのに改善のやり方がバラバラになっており、これでは横展開できないと思います。
ましてや膨大なリソーセスやコストを増やしてしまうことは、あってはならないと思います。現場は限られた予算の中で、全体最適の改善を標準化して、素早く横展開することが重要になってくると考えています。
横展開についてはショップ軸活動*という仕組みがあります。これは同一工程の人たちがグループ会社様や海外事業体と密に活動するというものです。この仕組みにカーボンニュートラルの改善活動を盛り込んでいきたいと思います。
*ショップ軸活動:塗装や車体などの各工程(ショップ)が、工場横断的に生産技術や生産手法を共有する仕組み
一方で、製造部署では、設備故障や人に起因するライン停止が起こり、品質も良くならないということが起きています。このような生産を阻害するロスを徹底的に改善することもカーボンニュートラルに大きく貢献できると考えております。
我々の困りごとは仕入先様の困りごとです。仕入先様も含めて、労使が一体になってカーボンニュートラルを進めていきたいと考えております。
労使で横展のハードルについて真剣な議論が続く。いずれの課題も、カーボンニュートラルに向けた取り組みを進めたからこそ浮き彫りになってきたものだ。
これらの課題に対し、岡田CPOと前田CTOは、好事例をマネる際のポイントを語った。
会社:岡田CPO
工場の改善活動で、デジタルツール活用により業務が改善した事例が多く出てきました。若い人たちにも、会社が配る端末で情報共有できることを広げていきたいと思います。
横展については、発信源だけでなく、受け手側にも、どれだけコピーできたか評価されるよう心掛けてきましたが「マネる意味や意義」をもう一度大切にしていこうと思います。
会社:前田CTO
昨年、品質問題が起きた原因を議論しているときに「組織の壁」の話がありました。
なぜそうなるのか聞くと「組織が細分化されているから」と片付けてしまいます。細分化しなかったら壁は発生しないのかというと、そんな単純な話ではないと思います。
なぜこういう状況になるのか追究していますが、まだまだ真因にたどり着いていません。
横展の話も、「横展が目的になっている」ことが多いです。最初にやった人の目的や意義・意味が薄れてしまい、いつの間にか廃れてしまうことが起きていると思います。
自組織の中の壁すら拭い去れないのであれば、仕入先の皆様、前工程や後工程の方々との壁はなくならないと強い課題意識を持っています。
カーボンニュートラルで、仕入先を悩ませていないか
ここからは、トヨタ社内だけでなく、仕入先から寄せられるカーボンニュートラルへの困りごとについての議論。ライフサイクル全体で脱炭素を目指すには、仕入先と一体となった取り組みが不可欠であり、まだまだできていないことも多い。
仕入先から組合へ、3つの困りごとの声が届いているという。
①CO2 排出量をどう把握し、どう対処してよいか分からない
②カーボンニュートラル対応へのコストアップに、どう向き合うべきか
③ガソリン車やトランスミッションを主とする仕入先様の、将来への不安
この点について、会社としての見解が示された。
会社:熊倉和生 調達本部長
(仕入先様との)カーボンニュートラルへの取り組みはまだ始めたばかりです。
ポイントは「どのように取り組んでいくのか」と「BEVが拡大していく中でどうやっていくか」の2点だと思います。
最初にしようとしているのは「カーボンニュートラルを正しく理解すること」。そして「選択肢を狭めない」「順番を間違えない」ということを、皆の共通認識として勉強するところから始めました。
「CO2排出量の見える化」をして「どうやって減らすのか」を考え、「どこから着手するか」「どう取り組むべきか」について皆で悩んでいます。
Tierの深いところについては、一次仕入先様を通じて活動の目的を共有し、理解活動を進めていますが、まだ始まったばかりです。大きな仕組みの中で、どうやって浸透させていくかが課題です。
どの工程に排出量が多いのか実態を把握する「見える化」も進めていますが、排出量算出にあたっては「いろいろな算出方法のうち、どれを使うべきか」「OEM(完成車メーカー)によってバラバラだと困る。横並びを図ってほしい」という声もたくさんうかがいました。
まだ統一ツールはありませんが、活動を止めてはいけません。自工会の中でも連携を図り、相談をしているところです。
実際に「排出量を減らす」となると、カギとなる再生エネルギーや素材など、仕入先様個社ごとでは解決が難しいことも多くあります。来年度は、具体的にどう減らすかトヨタの関係機能とも一体となって知恵を出し合いながら、進めていきたいと考えています。
設備投資や再生エネルギー活用において費用が発生することも避けられません。達成に向けた厳しさも業界によってバラつきがありますが、どのように出口を見つけていくか、それぞれの仕入先様も大変悩んでいらっしゃるのが実態だと思います。
こんな状況なので、仕入先様に対しては「カーボンニュートラルを達成しないから発注しない」というように「発注の条件にカーボンニュートラルを織り込むこと」は考えておりません。
みんなで取り組むことが大事なことで、推進が難しいところこそ力を合わせてやっていきたいと思います。
電動化についての受け止めは、さまざまです。12 月の BEV 説明会以降、特に、影響が大きい部品を生産している仕入先様から不安の声をいただいています。
これまで頑張ってきた人たちが「自分の人生が何だったんだ」とならないように、一緒に対応を検討していくことが私たちの使命だと思っています。
これまで培ってきた技術力や経験が生かせるような将来を、個社ごとに、本音のコミュニケーションを通じて、本気で一緒に考えていくということだと思います。
多くの仕入先様は、トヨタ以外のOEMとも取引をしています。自工会・自動車関連5団体・関係省庁とも連携しながら業界での考え方も、可能な限り統一していきたいと思います。
仕入先の困りごとへの向き合い方について回答した熊倉本部長に続いて発言したのは、渉外・広報を担当する長田准CCO(Chief Communication Officer)。
自工会をはじめとした自動車5団体で取り組む仕入先支援活動の事例について説明した。
会社:長田CCO
自動車5団体が関係する、製造から部品、そして、流通までに携わる就業者数は約200万人です。
そして、5団体の会員数は2,300社。サプライヤー、架装業界、工具をつくっている業界、流通や中古車の業者様をあわせると、その会社数はさらに膨大です。
さきほどの生産変動の話で、グループのサプライヤー様とのやりとりだけでも相当コミュニケーションが難しいという話がありましたが、(5団体に属する皆様とコミュニケーションしていくのは)謙虚に粘り強く、長い間、終わりなき旅のように続けることが、私たちの活動だと思っています。
カーボンニュートラル全体について、熊倉さんからもお話がありましたが、自工会でもいろいろなことをヒアリングしました。
感謝の声などもありますが、複数メーカーと取引のあるサプライヤー様からは、CO2排出量の算出方法について「トヨタだけ先にやられてしまっても他のOEMがこないので、かえって迷惑。トヨタがリーダーシップを取って、自工会などで(足並みを)合わせた取り組みを実施してほしい」という想定外の声もありました。
いろいろな形で、横のつながりを大事にしていかないといけないと思いました。
最後に、経理担当の近健太CFO(Chief Financial Officer)から、業界の枠を越えたある取り組みが紹介された。
会社:近CFO
(カーボンニュートラルの議論の最初に)水素エンジンでレースに参戦した映像を見ましたが、このレースの場には金融機関の方もいらっしゃっていました。
豊田社長からは、日本のモノづくりを支える技能や技術がTierの深い仕入先にあることを踏まえ、その方々の働く場を金融機関として支えてほしいという投げかけをされました。
(自動車5団体に所属する)多くの会社には、必ず(その会社を)支えている金融機関があります。例えば、Tier1の仕入先は都市銀行であったり、(Tierが深くなると)地方銀行や信用金庫、信用組合だったりします。
金融機関の皆様もどうやって550万人を支えていけるか悩まれています。その中で、日本を支えるモノづくりの会社がカーボンニュートラルにどんな悩みをもっているか、そのネットワークを使って、会社の壁を越えて、コミュニケーションを始められています。
550万人を支えていただいている、こうした方々とも連携をしていきたいと思います。
“おやじ”が語った労使の変化
1時間半にも及んだ議論を終え、議長と副議長が話し合いを総括した。
会社:河合おやじ
第1回目の労使協のタイミングで、社長より、「賃金賞与について、会社と組合の間に認識の相違はない」という発言がありました。「550万人の自動車に関するすべての働く仲間たちに良い風としたい」。第1回でこういった発言をすることは、トヨタ自動車創立以来、初めてのことです。
私は職場委員、評議員、職場委員長を経験してまいりました。
2019年までのこの時期は「春闘」一色で、満額獲得のために、職場会や拡大職場会などを開催し、朝も昼も、いたるところで「ガンバローコール」をやり、最後の100円玉を積み上げることに向かって取り組んでいたことを思い出しました。
1年の成果を主張するだけ。まさしく、自分たちだけに目を向けた活動であったと思います。
2019年より、その取り組みが一変し、成長に向けた課題を労使が共有し、話し合いを始めました。今では、我々の仲間、550万人のための議論もスタートしました。
本日も、労使とも、自動車産業のことを考え、率直な議論ができたのではないかと思います。
長引く半導体不足、新型コロナウイルス拡大に伴う部品供給の制約により在庫がひっ迫する中、お客様に1台でもクルマを多くお届けしたいという気持ちは、皆同じだと思います。
先日、販売店をのぞいてきました。クルマを待っていただいているお客様のために、イベントを開催したり、試乗車に乗っていただいたり、納期変更のお詫びの電話をして大変苦労されている姿を目の当たりにし、大変申し訳ない気持ちになりました。
仕入先の皆様からは、部品をつくりたくても人を採用できず、今いるメンバーで、休出・残業により何とか必死に頑張っているという声も聞きました。
私たちのクルマづくりは、仕入先様・販売店様の経営と、一人ひとりの働き方に大きな影響を与えます。突然の供給量の変動が繰り返されることで、多くの皆さんに大変ご迷惑をかけていることも事実であります。
そうした中でも、生産の身の丈を考えた生産計画を策定し、仕入先様と共有し、安定した生産体制が取れるよう、今後も、ともに努力していきたいと思います。
カーボンニュートラルについては、ひとりひとりが正しく理解することが最も大切です。この1年、社長が世間の誤解を変えてきました。敵は炭素です。
私たちは、お客様の選択肢を狭めないために、フルラインナップでの商品開発や、産業全体での連携、業界を超えた仲間づくりを進めております。
トヨタの取り組みの基盤になるのは、トヨタで働く一人ひとりの行動です。私も現場でさまざまな取り組みをしていただいていることを確認しています。ありがとうございます。
モノづくりの現場のカーボンニュートラルは、革新的な生産技術と、徹底したTPSの追求で、全員が改善をやり続けることです。そして、よい改善は全世界で共有し、横展により、効果を倍増させることだと思います。
仕入先、物流、ユニット工場・車両工場、販売、リサイクルまで、前工程から最終工程までをスルーで考え、助け合うことで、すべての仲間がカーボンニュートラルを大切に考えてくれると思います。
トヨタの取り組みはスタートしたばかりです。まだまだこれからです。正しく理解し、一人ひとりができることからスタートしていきましょう。
組合:西野勝義委員長
最後に本日の議論全体の受け止めをお話しさせていただきます。
「生産」について、「仲間たちの対応にも限界がきている」とご発言ありましたが、販売店様や仕入先様の実態や生声をベースに、営業、調達、生産それぞれの立場から、今後の対応について議論ができたと思います。
一方で、トヨタを応援していただき、実際に我々のクルマをご購入いただいているのは、世界中のお客様です。トヨタ車を選んでいただいたお客様に対する感謝の気持ちとともに、納期をご提示できず、長い期間お待たせしていることは、忘れてはならないと思います。
今後も、自動車産業を支えてくださる関係者の皆様とお客様、それぞれの目線から物事を考え、何がベストなのかを労使でしっかりと議論させていただきたいと思います。
続いて「カーボンニュートラル」についてですが、1 年前の労使協議会での議論以降、全社的には「カーボンニュートラル」という言葉がいい意味で浸透し、一人ひとりの意識や行動も変わりつつあります。
私もさまざまな事例を職場で実際に見てまいりましたが、従来にはない挑戦ができたと感じる多くの事例に共通していることは「部署を越えて取り組んだ」点です。
自分や自部署の最適が、全体での最適とは限らない。この点を是非全員が意識しながら、今後の取り組みにつなげてまいりたいと思います。
また、カーボンニュートラルという課題はトヨタだけで解決できるものではありません。
自動車産業の仲間の皆さんはもちろん、さらには自動車産業という枠を越えて、仲間づくりをしていきながら取り組む必要があることを、労使で改めて認識できたと思います。
次回の第3回労使協議会においては、自動車産業全体への貢献・持続的成長の原動力となるトヨタで働く一人ひとりの成長と能力発揮、および、デジタル化の観点から議論させていただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
労使双方から発せられた現場の“うめき声”。どれも、今回の議論で解決できるものばかりではない。だからこそ、ともに悩み、打開策を模索していく。それが、トヨタ労使の目指す“家族の会話”でもある。
次回の協議会は3月9日を予定している。