トヨタのニュース
2022.02.23

持続的な「成長と分配」の実態

2022.02.23

2月23日、トヨタの2022年の労使協議会が幕を開けた。昨年同様、三角形に配置された机で、マネジメント層も加わった全員参加の話し合いである。

長引くコロナ禍により、会場だけでなくリモート会議でも約120名のメンバーが参加。

*産業医の指導の下、空気の流れを管理して、パーテーションを使用せずに実施

今年の第1回の労使協議会は、例年の話し合いとは様子が違った。初回の話し合いでありながら、豊田章男社長から、賃金・賞与について異例のコメントがあったのだ。

その全容を3回に分けてお伝えする。

持続的な「成長と分配」の実態

話し合いに先立ち、過去3 年間の労使の取り組みについての動画が投影された。

映像を受けて、組合の西野勝義執行委員長は、これまでの協議を振り返り、コロナ禍の厳しい環境での組合員の努力について紹介した。

組合:西野執行委員長

2019年4月以降、のべ22回開催してきた労使拡大懇談会におきまして、CxOの皆さまと、カーボンニュートラル、デジタル化、そして、全員活躍について話しました。

また、人事制度・処遇や人材育成といった課題については、労使専門委員会の場でその都度議論を重ね、決めてまいりました。

そして、支部・カンパニー単位、また、各部単位においても、それぞれ話し合いの形式や時期、結論の体裁にこだわるのではなく、互いに困りごとや課題を持ち寄り、一緒に悩み、解決に向けて話し合う形へ変わってきているように思います。

この1年を振り返ると、新型コロナウイルスに翻弄された1年でもありました。

生産現場においては、リーマン・ショックや20年のコロナ影響による減産と比較しても、長期間かつ、大規模な減産を余儀なくされました。

また、クルマをお待ちいただいているお客様に1日でも早く、1台でも多くお届けするために、職場では日々の稼働判断や休日出勤など、例年以上の対応をしてきましたし、部門間の応受援も実施するなど、まさに全社一丸となって生産の挽回に向けて取り組んでおります。

また、2030年に向けた電動車のフルラインナップ化に向けて、待ったなしの中で、開発・生技部門を中心にガソリン車、HEV(ハイブリッド車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)、BEV(電気自動車)、FCEV(燃料電池車)など、まさに全方位での開発を行っております。

各職場において、従来業務のスリム化に加え、スピード感を持って労使一丸となって、積極的に取り組んでおります。

今後も、お客様のニーズや自動車産業を取り巻く環境は日々、変化していくものと思っていますが、これまで労使で取り組んできた、踏み込んだ話し合いを継続的に行っていけば、確実に一歩ずつ前に進んでいけると思います。

この後、労使は豊田社長が就任してからの12年を振り返るとともに、現在のトヨタがどういう状況にあるのかを再確認。持続的に「成長と分配」を行ってきた実績が語られた。

会社:近健太CFO(Chief Financial Officer)

私は2008年3月、トヨタが当時の過去最高益を出したときに、経理部で原価企画をしていました。翌年、トヨタは創業以来の赤字に陥りました。

リーマン・ショック時を振り返ると、当時、台数・収益という物差しで商品に優先順位をつけ、会社全体を動かしていたと思います。

それも事務方がその物差しで各地域の商品線図(商品計画)をつくり、マネジメントに提案。マネジメントは追認するだけという形で会社の商品ができていたと思います。

結果、台数や収益が出ない、ロングセラーカー、商用車、スポーツカーなどは優先順位が下がり、モデルチェンジに時間がかかり、(クルマの)名前も変わる時代がありました。

結果として、台数や収益などの数値で商品が議論されるようになっていました。誤解をしてほしくないのは、台数や収益を追い求めること自体は、会社としておかしいことではないということです。

ただ、商品ではなく、台数・収益が目的になり、会社全体が動いていたのがリーマン・ショック前のことだったと思います。

豊田社長が就任し、「もっといいクルマをつくろう」を第一に掲げ、その後に多くのリーダーシップを取って、「商品で経営する会社」に変えてきたと思います。

今、トヨタはフルラインナップの会社だと思います。それも、豊田社長がカンパニー制・地域制という制度を導入し、商用車、スポーツカーであっても、その地域のことだけ、そのクルマのことだけを一番に考える人が社内に必ずいる。

カンパニー制や地域制というのはそういう制度で、最後は社長が意志をもってその商品に想いを込めるというふうに変わってきたと思います。

商決会(商品化決定会議)のあり方や、TNGAToyota New Global Architecture)のクルマのつくり方、モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり、マスタードライバーとしての活動など、トヨタを商品で経営をする会社に変えてきた豊田社長の活動は枚挙にいとまがないと思います。

そのファクトをいくつか紹介させていただければと思います。

リーマン・ショック時と現在のコロナ禍において、主要15カ国の市場とトヨタのシェア下落幅と比べた数字です。

当時は主要15カ国すべてで市場は落ち込みましたが、トヨタはそれ以上に落ち込み、結果として3勝12敗という結果でした。

今回の新型コロナウイルスの危機でもやはり市場は落ち込みましたが、トヨタは市場ほど落ちてはいない。逆に、上がったところもあり、結果として132敗でした。そして、全地域でシェアを伸ばしています。

次に、損益分岐台数です。20093月期は収益や台数を目的としていたにも関わらず、収益構造はよくありませんでした。目的と結果をはき違えるとこうなってしまうということを表していると感じています。

次に生産台数ですが、リーマン・ショック後に一時1ドル75円レベルになりました。社長の言葉ですが、「石にかじりついてでも日本のモノづくりを守る」と言って国内の生産を維持してきたのがトヨタの歴史であり、この12年間だと思います。

そういったことをステークホルダーの皆さんと一緒にやってきたことで、トヨタは成長をさせていただき、それぞれ従業員・仕入先・株主・お客様・国や地方自治体としっかりと向き合って、還元を行っています。

企業価値は時価総額で表していますが、2008年と比べると、現在3.6倍です。株式の分割などもあり、トヨタの株主様は推定80万人ほどいます。

直接的な株主様だけでなく、トヨタの株はTOPIXの最大構成銘柄です。私たちの多くの年金資産は、国内だと多くはTOPIXで運用されています。

結果として、我々の株価・企業価値は、直接の株主様だけでなく、多くの年金資産を預けている方に向けられているものであり、そういう方々にも報いることができたと思います。

最後に内部留保ですが、よく「お金を貯めすぎでは?」「内部留保しすぎでは?」というご意見をいただきます。

内部留保は株主資本であり、会計上では資本の部に貯まっていくことになりますが、それを総資産で割ったものが株主資本比率です。

金額は多くなっていますが、株主資本比率は3540%の間で推移し、それほど多くなってはいません。つまり、会社の成長に必要な健全性を維持するために増えた部分が大きいと思います。

結果としてその資金でサプライチェーンを止めず、長期戦略的な投資もできるということです。

CFOの発言を補足する形で声を上げたのは小林耕士番頭。近CFOが使ったトヨタのステークホルダーへの還元を表現した図を再度映して、次のように語った。

会社:小林耕士番頭

こちらの表は企業としてのあるべき姿を表していると思います。

要するに、「もっといいクルマをつくろうよ」ということで、開発費を使い、お客様に喜んでいただき、結果的に売り上げが上がるということです。

その次が、直接的・間接的に社内で働く従業員にちゃんとお金を配ることです。仕入先様もともに成長しており、(部品仕入先で組織する)協豊会の中でつぶれた会社はありません。

さらには、税金を国に納めることは企業として絶対にやるべきことです。

残ったお金で株主に分配を行い、さらに内部留保があります。内部留保はWoven Cityなど、即断即決の投資はお金を借りて行うと遅くなってしまいます。従って自金(じがね)で投資しています。

そのため内部留保の運用は短期で安全なものにしてあり、すぐに使えるようにしてあります。

「賃金を高くせよ」「安くせよ」と言うつもりはありません。社長の指示の下、会社を引っ張ってきた事実を理解いただきたいと思います。

ベアの非公表で何が変わったか

会社:東崇徳 総務・人事本部長

着実にこの12年間成長してきたからこそ、雇用を守り、増やし、安定的に昇給することもできたと思います。雇用については、トヨタ単体で約3,000名増やすことができました。

これは当たり前ではなく、海外メーカーも大幅な雇用調整が進んでいる状況です。

そういった中で、日本の自動車産業が雇用を増やしてきたことを、もう少し評価されてもいいかと思います。

毎日働く場があって、会社に行って仕事ができる。それが本人だけではなく、家族にとっても実感できるのが「雇用」だと思います。こういうことをまずかみしめる必要があると思っています。

賃金についてです。この12年間、毎年安定的に皆さんと話し合いながら進めることができたと思っています。

その結果、平均年収は、大手各社との比較でもトヨタは非常に高い恵まれた水準を維持しています。

賃金・賞与・福利厚生、もろもろ含めた総労務費は約1兆円です。世間的には、この1兆円はコストと見られますが、我々としては未来をつくっていく皆さんへの投資と考え、還元することができていると考えています。

トヨタでは、社員の処遇や働き方だけではなく、期間従業員、パートタイマー、定年後再雇用の皆さんについても議論を重ねてきました。

まず、期間従業員については、この約10年間で2,000人以上にものぼる方を社員として登用することができました。

月額賃金ベースでも、20142020年の累計で約20,000円の向上ができました。パートタイマーの皆様についても約14,000円を超える状況です。

処遇以外にも、食事手当や家族手当の導入など、労使で職種関係なく話し合いをさせていただいた結果だと思っています。

これはコロナ前とコロナ後の就業者の比較です。日本全体で言うと78万人の就業者が減っている中、自動車産業は、毎日の移動を支える皆さん、生産をする皆さん、部品をつくる皆さん、販売する皆さん。この日常を守り切ったうえで、さらに27万人の仲間を増やすことができました。

これだけでも、「自動車産業が日本の経済を底支えしている」と改めて理解する必要があると思っています。

自動車産業550万人。1社1つの部品でもなくなると維持できない中で、支えあってやってきている産業です。

1社だけが突出するのではなく、みんなと一緒に成長していかないといけないと思っています。

そして、この表は、いわゆるベースアップ(ベア、賃金改善分)がトヨタを上回る会社の状況を示しています。過去、グループ会社、関係会社様では「トヨタ-α」で妥結されていたのが実態だと思います。

2018年以降、トヨタのベアを非公開にさせていただいています。それをやった結果、平均80社でトヨタの賃金改善分を上回る状況になっています。

このように、仲間とともに成長していくということを常に意識して、労使でやっていかなければならないと考えています。

話し合いのテーブルにもつけない“7割の仲間”のために

続いて、自動車産業550万人の仲間のために話し合いを続ける意義が語られた。

会社:桑田正規CHRO(Chief Human Resources Officer

春闘では賃金が注目されていますが、(社会全体では)組合に所属しているのは2割です。

自動車産業550万人で見ると、我々の調べでは、そのうち160万人、およそ3割が組合に入っていますが、残りの7割にあたる390万人は、年間を通じて話し合いをするテーブルにもつけない状況です。

私たちはその390万人の方を意識し、550万人全員がどうすれば幸せになれるのかを考えていくことが大切だと考えております。

ぜひ今回も労使協議会では、話し合いのテーブルにつけない390万人のことも含めて、我々がどうしていくべきか、議論を進めていきたいと思っています。

この後、「トヨタは仕入先から搾取しているのか」という議論が繰り広げられることになる。

中編へ続く

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