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豊田社長が慣習を破ってまで願った「良い風」とは

2022.02.23

初回の話し合いで、豊田章男社長から例年とは異なる発言が出た。その模様をお伝えする。

現場で共に汗を流すからこそ生まれる関係

労使協議会も終盤へ。議長の河合満おやじが議論を総括した。

現場一筋50年以上となる河合おやじが話したのは、コロナ禍における従業員の成長した姿だった。

会社:河合おやじ

日ごろ私が感じていることを3点お伝えしたいと思います。

私も半世紀、多くの試練を経験してきました。本日この12年を振り返り、リーマン・ショック、一連のリコール問題、東日本大震災など何度も大きな変化がありました。

ただ、今回のコロナ禍のように、これほど長期間にわたって何度も変化が繰り返された年はなかったと思います。

10年前とこのコロナ禍で、皆さんが確実に成長した姿を感じることがありました。

部品供給の制約や急激な生産変動・稼働調整が繰り返される中、一台でも(多く)クルマづくりをしていただき、また、多数のプロジェクトを抱える中、間接部門から工場に応援を出していただき、本当に助かりました。

非稼働日には、人材育成や品質向上、生産性向上、TPS(トヨタ生産方式)。誰の指示もなく、自分たちのできることに積極的に取り組み、行動してくれました。

昨年の労使協議会で話し合ったデジタル化、カーボンニュートラルも含めて、労使で悩みながら一歩ずつ取り組んでいる姿を1年間見てまいりました。

また、昨年、新型コロナウイルスの集団ワクチン接種会場のボランティア、夏の暑い日や雨の日に、明るく笑顔で挨拶しながら、駐車場や会場を案内していただきました。

会場内ではTPSを実践して、一人でも多くの人が安心して接種できるよう、日々改善を進める姿を目の当たりにし、たいへん頼もしく思いました。(愛知県)豊田市、みよし市、日進市の市民の皆様からも多くの感謝の言葉をいただきました。

「誰かのために」手を挙げて、ボランティアに参加していただいた人は6,500名となりました。

また、震災、火災、クラスターが発生し、部品供給が滞る危機にも、グループを超えて助け合い、早期稼働を再開することができました。改めて組合員の皆様に感謝申し上げます。

私が現地で感じたことは、こうしたことが躊躇(ちゅうちょ)なくやることができるのも、トヨタ自動車という恵まれた環境にいるからこそだと思います。

雇用問題の心配もせず、賃金、賞与、働く環境もすでに高い水準の中で毎日を送っています。いつしかこれが当たり前。一昨年から50特別研修(技能職向けの研修)を社外研修にしました。

140名の研修生を70社の仕入先の皆様に受け入れていただきました。私も何社かにお礼と本人の激励に行き、その人たちの声や最終報告を聞きました。

研修生が発した第一声は「トヨタは本当に恵まれている」「勤続25年でやっと気づいた」。これが本音でした。

こうしてクルマづくりができるのも、550万人の皆様の支えがあってこそです。本日皆さんが繰り返し話されているように、自動車産業はみんなでやっていく産業です。

私たちは「550万人の仲間のために」と考えるだけではなく、その仲間に「本当に自分たちのことを考えて頑張ってくれている」と思ってもらえることが大切だと思います。

本日紹介のありましたSSAや、現場が中心となって行っている寄り添い活動。現場で一緒になって悩み、汗を流すからこそつくっていける関係だと思います。

私たちトヨタ労使の一人ひとりができることはまだまだたくさんあるはずです。引き続き、話し合いを続けていきましょう。

続いて、2年前、豊田章男社長から「この役割の方がしっくりくる」と言われ、それまでの代表取締役副社長から”番頭”に肩書きを変えた取締役(執行役員)の小林耕士が発言した。

小林番頭は30年以上にわたり豊田社長と共に歩んできており、かつては上司だったこともある。

その番頭が、豊田社長になってからのトヨタについて想いがあふれたように話を始めた。

会社:小林番頭

会社の戦略を考えているのは社長なんです。赤字以降、また公聴会に出られてから、投資を一度全部やめようじゃないかと決め、そこから「意志ある踊り場」に入りました。

昨年、TQM大会では、「これではダメだ。原点に戻ろう」と、自身で(その会を)「豊田章男塾」に変え、(社員たちと)2時間にわたって話をしました。

年末も「トヨタはEVが嫌いだ」と世の中に思われていた中で、「これではみんなが勇気を持てなくなる」という想いもあって、ああいう発表をすることにしました。これは、社長が全部自分で考えて言い出したことです。

一見して、会社はうまくきていますが、「(社長が)豊田章男ではなかったらどうなっていたかな」と考えて、ゾッとすることがあります。

体調が良くないときも、朝から晩まで(トヨタのことを)考えて、土日もやっている。

そういう会社でみんなが頑張っているということを、再度、認識していただきたいと思っています。

今、自動車メーカーの皆さんと一緒になって、競争と協調を大事にしながら、「日本、頑張れ」という想いで引っ張っていっているのも豊田社長なんですね。そういうことをちょっとご理解いただきたいと思います。

初回の話し合いで、組合要求の認識表明

話し合いの最後に、豊田社長が口を開いた。例年の協議会とは異なり、初回の話し合いで、社長が賃金・賞与について言及するシーンである。

コロナ禍で目に映った組合員の頑張りに触れ、組合側に語り掛けるように話した。

豊田社長

最後に、私からも一言、申し上げます。

本日、労使双方が、550万人を念頭に置き、これまで地道に取り組んできた「事実」をベースに、本音の会話ができたことを大変うれしく思います。

組合は、普段から疑問に感じていることを正直に話し、会社は、すぐにソリューションを提案するのではなく、真摯に受け止め、ともに悩み、考える。

こうしたことができるようになってきたのは、今の労使が、春の協議会だけではなく、年間を通じて話し合い、経営課題や職場課題への理解を深め合う関係に変わってきたからだと思っております。

この1年、経営環境がめまぐるしく変化する中でも、組合員の皆さんは、自ら考え、動き続けてくれたと思います。

コロナ禍に半導体不足が重なり、先が見通せない中、仕入先の皆様と一緒になって、生産対応に奔走してくれました。

1台でも多く、1日でも早くお客様にクルマをお届けしたい。それが、仕入先の稼働も支え、ひいては経済復興につながる。その一心だったと思います。

カーボンニュートラルに向けては、「選択肢を広げよう」という想いで、すべての電動車に本気で取り組みながら、水素エンジンなど、新たな可能性も追求してくれました。

Woven Cityをはじめ、未来に向けた挑戦も、その歩みを止めることはありませんでした。そこには、「成り行きの10年後と闘いながら迎える10年後の景色は絶対に違う」という 私の意志に共感してくれた皆さんの姿がありました。

「自動車産業のため、日本のため、未来のために」。そんな想いで動き続けてくれた皆さんをずっと見てきたからこそ、この1年の頑張りにはしっかり報いたいと思っております。

異例ではありますが、賃金・賞与について「会社と組合の間に認識の相違はない」ということを、このタイミングではっきりお伝えしたいと思います。

この発言により、550万人の自動車に関わるすべての働く仲間たちに良い風が吹くことを期待したいと思います。

そのうえで、皆さんにお願いがあります。明日、224日は「トヨタ再出発の日」です。

12年前のこの日、大規模リコール問題を受けて米国公聴会に出席した私は、「逃げない、嘘をつかない、ごまかさない」という3つの約束を世の中に誓いました。

証言台に立った私を支えてくれたのは、エンジニアたちが、「暴走する」という(指摘に対して)「意地悪テスト」を4千回以上も行い、分かっていた「事実」でした。

事実をつかめていなければ、結果的に嘘をつき、ごまかすことにもなり、世の中の信頼を得ることはできません。

今、トヨタの中では、販売店の不正車検や、パワハラを生み出してしまった社内の風土をはじめ、あってはならない問題が顕在化しております。「頑張り」の裏側で生まれている「ひずみ」もあると思います。

「職場で何が起こっているのか」。労使で事実を洗い出すことが出発点だと思います。

「事実に向き合う」。「逃げない、嘘をつかない、ごまかさない」。これを、心に刻み、次回以降も、正直な会話を続けてほしいと思います。

そして明日は、私たちにとって、もうひとつ、大切な意味を持つ日でもあります。1962年のこの日、「労使宣言」が締結されました。それからちょうど60年を迎えます。

労使宣言の最初の項目をご覧ください。「自動車産業の興隆を通じて、国民経済の発展に寄与する」とあります。

そして、「わが国の基幹産業としての自動車産業の使命の大きさと、国民経済に占める地位を認識し、労使相協力して、この目的のための最善の努力をする。とくに企業の公共性を自覚し、社会・産業・大衆のために奉仕するという精神に徹する」と書かれております。

まさに、今の私たちの使命そのものだと思います。

毎年この時期になると、世の中では「春闘」に注目が集まります。しかしながら、自動車産業550万人の仲間のうち、組合があるのは3割にすぎません。7割の人たちは、自分たちで声をあげて、要求をぶつける仕組みすらないのが現実です。

さらに、日本全体で言えば、8割の人たちが同じ状況にあります。私たちの仕事や暮らしは、こうした方々に支えられて、成り立っています。

だからこそ、声を出せない仲間の存在を念頭に置き、日本で働くすべての人たちのことまで考えて話し合うこと。そして、行動していくこと。

これこそが、労使宣言にうたわれている「社会・産業・大衆のために奉仕するという精神」だと思っております。

私たちも、この使命をあらためて胸に刻んだ上でこれから1年の話し合いをスタートしてまいりましょう。本日はありがとうございました。

豊田社長の発言を受け、組合の西野勝義 執行委員長が口を開く。例年とは異なる展開に、自身の受け止めを語った。

組合:西野執行委員長

まず、賃金・賞与について「会社と組合の間には、認識の相違はない」とのご発言がございました。

本日の議論でもありました通り、この1年、大事にしてきた「労使のきめ細かなコミュニケーション」がベースにあってこそのご発言だったと理解しています。

その意味では、労使がこの1年、共通の基盤に立つための努力を行ってきたことを改めて認識しました。

一方で、今回の我々の要求案は決して容易に回答をいただける水準ではないとも考えております。

トヨタの賃金は、絶対的にも恵まれているものであると思っておりますし、一時金の要求額も、連結の営業利益と関連性を持たせたものであるとはいえ、極めて高い水準であることは間違いありません。

改めて、対立軸での話し合いに終始するのではなく、今後、どういったことに取り組んでいくのか、そして、課題をどう解決していくのかを話し合いたいという想いが先ほどのご発言につながったと受け止めております。

次回も引き続き、仕入先様や組合員の声を踏まえ、そして全ての働く仲間のこともしっかりと念頭に置きながら、議論をしてまいりたいと思います。

次回の協議会は3月2日を予定している。

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