「交通事故ゼロ社会」に向けて、NTTとトヨタが新たな一歩を踏み出す。両社が構築していく「モビリティAI基盤」とは。
自動運転は手段の一つ
質疑応答からは、両社長に加え、NTTの大西佐知子常務取締役、トヨタの山本圭司シニアフェローも登壇。自動運転や他カーメーカーとの連携などの質問に答えた。
――今回の取り組みのなかで自動運転の話が出てきたが、トヨタの考える自動運転は?
トヨタ 佐藤社長
自動運転はあくまでも手段で、安全・安心なモビリティ社会をつくっていくことが原点にあります。三位一体の環境構築を進めるなかで、その一つの手法として位置づけられると思います。
我々はクルマ屋ですので、自動運転を考えていく上でも、人を中心に考えることはぶれない軸として持っていたいと思っています。
つまり環境、インフラにクルマの運転を完全に委ねるというよりは、どこまでも人が中心にいるという考え方のもとに環境構築をしていく。
そうすることで、多くの移動の自由を獲得していくことが、我々の進むべき道。
ただ、一足飛びにゴールがあるわけではありませんし、「レベルいくつを目指す」というレベル論ではないと思っております。
人中心の自動運転のあり方を考えていったときに、安全・安心な運転環境をどれだけつくっていけるかがKPIになるんだろうと考えます。
理想的な状態へ、すぐにたどり着くことはできませんので、ケースを一つひとつ潰していく努力をとにかく続けていく。
そのなかで高度な運転支援が高まって、自動運転が世界に届いていく。このような考え方で取り組んでいきたいと思っています。
――交通事故ゼロへの課題感は?
トヨタ 佐藤社長
技術の進化に伴って、年々総数として事故は減っているものの、グラフが示すように、その減少率は少しサチュレイト(飽和)しているところもございます。
これから先、さらに事故率を下げていこうとすると、リスクの先読みに技術として挑んでいかなければならない。パッシブ(受動的)なところからアクティブ(積極的)にいろいろな予測を入れながら取り組んでいくことが必要だと思います。
いろいろな技術開発が両社でできるということは非常に有益なことだと感じています。
――2028年ごろからパートナー企業へ基盤を展開していき、将来的にはグローバルにも展開したいということだが、具体的にはどういった企業や機関に利用してもらうことを想定しているのか?
トヨタ 佐藤社長
我々がつくっていこうとしている基盤の全体像を改めて整理しますと、このような構造だと思います。
真ん中に「AIによるリアルタイムで最適な通信選択ができる環境」をつくっていく。これはNTTとトヨタでしっかり進めていくことですが、これですべてが完結するわけではありません。
その上にAI基盤といったいろいろなサービスにつながっていく領域の取り組みを考えていく必要があります。
この領域は28年を待たずして、参入できる会社にはオープンマインドにお声掛けをしながらバリューをつくっていく。
実はこの領域は、競争領域なんじゃないかと思っています。「それぞれの会社が考えるサービスは何か?」、「そこに向けて最適なAIの基盤をどう構築するか?」。これはおそらく競争領域です。
一方でNTTとトヨタで向き合う基盤のところは、まずは協調領域だと思います。通信環境の構築を両社でリーダーシップをとりながら、協力いただける会社さんにはどんどん協力いただく。
その下の実際の通信領域のところは、事業者さんもたくさんいらっしゃいます。このフレームワークのなかでどんどんお声掛けをして、全体像を一気につくっていくことが必要だと思っています。
――トヨタ以外のカーメーカーへの提供も考えられるのか?
トヨタ 山本シニアフェロー
この通信方式は日本に限らずグローバルに標準化をしていきたいと考えています。トヨタ自動車以外のカーメーカーの各社さんにもご活用いただくことを想定をしております。
NTT 島田社長
価値観を共有している方々と一緒に、事業を少しずつ広げていくのが重要だと思います。
一気にグローバルに展開できるわけもありませんので、まずは価値観を共有できるところから、パートナリングしていくのが良いのではないかと思います。
――2020年に、NTT澤田社長とトヨタの豊田社長が会見した出資提携から4年半が経ち、街から社会に広がった形になるが、そのきっかけや流れはあったのか?
トヨタ 佐藤社長
この協業は2020年に大きな変曲点を迎えています。
豊田社長、NTTの澤田社長時代に両社で、社会と一体となったモビリティという概念でいろいろなことに取り組んでいくと、より安全・安心な社会の構築に役に立てるのではないかと。
そういう大きな視点が2020年ぐらいから両社のなかにあって、そのもとで実務でいろいろな検討が進んできました。
そういうなかで、通信の環境も、モビリティの環境も、この数年で大きく変わってきました。ある意味、機が熟したところがあります。
一番大事なことは、大義の部分だと思っています。何のためにこの取り組みをするのか。
交通事故の内情を見ますと、まだ事故の数が減っていると言えない状況だと思います。
より進んだ安全・安心をつくっていくためには、自律型でモビリティだけでやれることには限りがある、という感覚を非常に強く持っています。
大義が同じNTTとトヨタが、同じゴールを目指して、ともにアイデアを出す。正解はまだ見えませんが、いろいろな取り組みをまずやってみようという機運が高まっている。
それが今回の発表に至っている一番大きな原動力だと思います。
まだ課題もたくさんあって、綺麗な話ばかりではなく、なかなか難しくて、悩むことも多いと思いますが、一番大事なゴールのイメージを共有できていることが非常に大事だと思います。ぜひともご理解、ご支援を賜れればと思います。
NTT 島田社長
半年ぐらい前に、「さらに一歩前進しましょう」ということで、どういう形で前進するかをディスカッションをしてきた結果、今日に至っています。
2020年以前からコネクティッドカーのシミュレーションとか、トヨタとNTTでいろいろな検証や実証をしてきた積み重ねがあります。
目指しているものがあり、そこに対しての心意気が合ったということだと思います。ぜひ温かく見守っていただければと思います。