8日に開いた決算説明会で、未来への投資に2兆円を使う見通しを発表したトヨタ。持続的成長のために、これから取り組むこととは?
営業利益5兆3,529億円の実績を発表したトヨタの2024年3月期決算。
CFO(Chief Financial Officer:最高財務責任者)を務める宮崎洋一副社長の数字の説明に続いて、佐藤恒治社長が2025年3月期(今期)の営業利益見通し4兆3,000億円に込めた想いと重点テーマを語った。
今期は仕入先や販売店を含めた人への投資、モビリティカンパニーへの変革に向けた投資など、未来を見据えて2兆円を使うという。
そんな決算で、佐藤社長が掲げた今期の重点テーマは、バッテリーEV(BEV)、水素、エンジン、SDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル) * 、そして、足場固め。
*ソフトウェアによって自動車の機能がアップデートされることを前提に設計・開発されたクルマ「商品と地域を軸とした経営」で築き上げてきた経営基盤をもとに、どのような成長戦略を描いているのか。スピーチの内容をレポートする。
佐藤社長スピーチ 変革に向けた今期の重点テーマ
佐藤社長
今回の決算発表にあたりまして、トヨタ・レクサス・GRのクルマをご愛顧くださったお客様、そして、お支えいただきましたステークホルダーの皆様に対しまして、心から御礼申し上げます。
前期は、多様な商品を基盤に、多くのクルマをお客様にお届けすることができました。
今回の実績は、長年のたゆまぬ「商品を軸とした経営」と、積み上げてきた事業基盤が実を結んだ結果であると思っています。
この経営基盤をもとに、さらなる成長戦略を描き、持続的成長につなげていくために、今期も、「モビリティカンパニーへの変革」というビジョンを具体に落とす取り組みに力を入れてまいります。
それは、言い換えれば、クルマの付加価値を高め、「モビリティ社会」をつくるお役に立つということであり、新しい産業構造をつくっていくことであると思っています。
その実現に向けて、使命感をもって、多くの仲間とともに挑戦してまいります。
変革のカギは、エネルギーとデータの可動性を高めていくことであると考えています。
すなわち、「電気」と「水素」が支える未来を見据えて、クルマが媒体となってエネルギーを運び、再生可能エネルギーを軸とする社会づくりに貢献すること。そして、データが生み出すモビリティの価値で暮らしをもっと豊かにしていくことを目指しています。
こうした未来に向けた今期の重点取り組みテーマが、「マルチパスウェイ・ソリューションの具体化」と、お客様の多様な移動価値を実現する「トヨタらしいソフトウェア・ディファインド・ビークル」の基盤づくりです。
①BEV
この1年、ミッシングピースとなっていたBEVの具現化を進めてまいりました。
小型軽量ユニットの開発や空力、熱マネジメントのあり方などの技術進化により、クルマの新しいアーキテクチャをつくる挑戦が進んでいます。
これらの要素技術は、今後は、プラグインハイブリッド車などの開発にも応用することができ、マルチパスウェイの多様なラインナップの構築にもつながってまいります。
②水素
水素については、各地域で事業化の基盤づくりを加速してまいりました。
商用領域での水素モビリティの開発・実装に加えて、電車や船舶、発電機など多様なアプリケーションに対するFCシステムの提供、また、水素を「つくる」「ためる」領域の取り組みも進めています。
今後は、特に水素の消費量が大きい欧州、中国、北米を中心に、パートナーの皆様とともに、インフラも含めて、水素モビリティの社会実装を加速していきたいと考えています。
③エンジン
また、内燃機関の未来の姿についても、意志をもって取り組みを進めてまいります。
電気と水素がエネルギーの中心となる未来においても、e-fuelなど液体燃料の活用を視野に入れた、次世代のエンジン開発も積極的に進めてまいります。
④SDV
「トヨタらしいSDV」の実現に向けては、この1年は車載OSである「Arene(アリーン)」の開発、ならびに、ソフトウェア基盤の整備に注力してまいりました。
これから、生成AIなどの活用により、自動運転も含めて、モビリティの進化を実現していきたいと考えています。今後、AI関連の投資も拡充してまいります。
また、SDVの基盤づくりをさらに進めていくために、インフラや、生活に寄り添ったアプリ・サービスなど、自動車産業を越えた「戦略的パートナーシップ」の構築に取り組んでまいります。
⑤足場固め
こうした取り組みを進めるうえでも、私たちのブレない軸は、クルマ屋であるということです。
「クルマの未来を変えていく」。その挑戦のためには、クルマづくりがしっかりできる基盤が必要です。
その意味でも、グループ各社の不正問題や、トヨタの余力不足の課題に正面から向き合って、「足場固め」に取り組むことが、将来の成長に向けた最重点事項であると考えています。
ゆえに、今期は意志をもって、足場固めに必要なお金と時間を使ってまいります。
「10年先の働き方を今つくる」という想いで、余力を生み出して、安全・品質を徹底した仕事、ジョブディスクリプション * を踏まえた個々人のスキル向上、人材育成にしっかり取り組んでまいります。*担当する業務についての詳細な職務内容
今期は、成長領域への1兆7千億円の投資に加えて、こうした「人への投資」に3,800億円を使い、仕入先や販売店の皆様と一緒に、足場固めを進めて、仕事のやり方を変えてまいります。
以上、今期に込めた想いと重点テーマについて、お話しいたしました。
一番大切なことは、実行であると思います。
まず決めて、行動し、動いたからこそ見える課題や変化点に対応しながら、多くの仲間とともに、モビリティ社会を具体化する挑戦に取り組んでまいります。
皆様のご理解・ご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
スピーチに続いて行われた質疑応答で「足場固め」についての認識を問われると、佐藤社長は「改善の積み上げではなく、事業構造を変えていくような大きな変化を生み出す余力がないことが最大の課題」と指摘。
生産性への影響については、「今、開発は非常に高度化しており、いろいろなやり直しが発生している。それも含めて、開発の標準リードタイムは決まっているが、基本動作を徹底して、ジョブディスクリプションをしっかり定義してあげれば、やり直しは減る。一見、効率を落としているように見えるが、トータルでは絶対に効率、生産性は上がるはず」と説明した。