人が人を育てる!データでは測れない適正や素性とは?

2023.12.12

若手とベテラン評価ドライバーの感知能力を比較する実験企画の第二弾。クルマの動きの再現性に違いはあるのか!?

若手はベテランを巻き返せるのか?

最後に「止まる」、つまり制動テストについてリポートする。今回行ったテストは、80km/hからブレーキを踏み、減速G0.5Gに保ちながら0km/hまで制動するというもの。

ブレーキのスペシャリストとして協力してくれたのは凄腕技能養成部FDチームグループの田中英幸CXだ。

2009年に凄腕技能養成部の前身となる部署に異動して以来、ブレーキを中心に車両全体の評価を担当してきたベテランだ。

田中

評価ドライバーとして東富士研究所に配属され、長年ABSなど電子制御系の開発に携わる。

クルマは速度が下がるにつれて前方へ働く物理的な力も弱まるため、減速度を一定に保つには、ブレーキの制動力を緩める必要があります。

今回のテストでは、減速度を正確に感じるセンサーと、それを一定に保つための繊細なブレーキ操作が必要になります。

一方、若手として田中に挑戦するのは、前編で「動力ドライバビリティ」テストにもチャレンジした相良である。

下のグラフは、実際にベテラン田中と若手 相良が減速テストを行った際のデータを記録したもの。紫の線は車速(km/h)、水色は前後G(加速度 m/s 2)、緑はブレーキペダルストローク(mm)、そして黄色はブレーキにかかる油圧平均(MPa)を示している。

ベテラン田中のデータ
若手 相良のデータ
ベテラン・若手2人のデータを重ね合わせたもの

ベテラン田中が語るように、減速度を一定に保つためには、ブレーキペダルを繊細に操作する必要があるが、ベテラン田中と若手 相良のデータにはその違いが現れている。

ベテラン田中の場合、車両には遅れがあり、それをカバーするため、速めにブレーキを踏み込んだ後、抜く操作で減速度一定を保とうとしている。

一方、若手 相良は減速度を一定にすることに集中するあまり、減速度が一定になるまでに時間を要しているのが分かる。

人間性を鍛錬する場

ベテラン田中によると、実は普段のクルマづくりの現場で、同様のテストを行うことはない。ただ、評価ドライバーにとって減速度を正確に感知する能力は不可欠だという。

田中

減速度を正確に感知できれば、制動テスト中に減速度以外のことにも意識でき、車両に起こるさまざまな現象を感じ取ることができます。

例えば、制動にはオートマチックトランスミッションの変速など、ブレーキ操作以外の要素も関わってきます。

もし制動時に違和感があれば、それがブレーキに起因するものなのか、駆動系に手を加えるべきか、冷静に判断できます。

本連載第1回でも触れたとおり、評価ドライバーに求められる能力は「できる・分かる・言える」の3つだ。

その意味で、評価ドライバーは単に運転技能だけではなく、クルマが発するさまざまなメッセージを感じ、それが何に起因するのか正確に判断し、エンジニアにフィードバックする能力が必要だと、ベテラン田中は強調する。

最後に、ベテラン評価ドライバーに胸を借りるつもりで挑戦した若手 下山はこう話す。

下山

勝てないことは分かっていたのですが、こうしてデータで比較してみると完敗でした。とにかく、一日も早く先輩方に追いつきたいという気持ちがフツフツと沸いてきました。

現在は運動性能、操安機能をメインに担当させていただいていますが、それ以外の機能(動力ドライバビリティ・制動・制御・・・etc)知識や技能を身につけて、上司や先輩方のようにクルマ全体を評価できるようになりたいです。

将来、トヨタを代表する評価ドライバーとして、お客様が乗ったときに「楽しいな!」と笑顔になっていただけるクルマをつくることを目標に日々の仕事に取り組んでいます。

凄腕技能養成部とは、その名の通り凄い腕の技能者を養成する部署だが、技能のみならず人間力をも鍛錬する場であるようだ。

彼らのような若い評価ドライバーが、必ずや近い将来「もっといいクルマづくり」の新しい担い手として活躍していくことだろう。

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