人が人を育てる!データでは測れない適正や素性とは?

2023.12.12

若手とベテラン評価ドライバーの感知能力を比較する実験企画の第二弾。クルマの動きの再現性に違いはあるのか!?

評価ドライバーのなかでもトップガンといわれる匠たちが所属するのが、凄腕技能養成部だ。

前回に引き続き、24歳の若手とベテランの感知能力を見える化し、評価ドライバーの「できる・分かる・言える」の感知センサーの違いを検証した。

今回は「曲がる」「止まる」をテーマに、引き続きベテラン評価ドライバーに若手が挑んだ。

ラリー参戦するほどクルマ好きな若手が、ベテランに挑戦

さっそく「曲がる」についてのテスト走行をしてもらった。具体的には、ステアリングやアクセル操作に対して、車両が意図した通りに曲がるかを確認する「操縦安定性」評価だ。

操縦安定性のスペシャリストとして参加してくれたのが、子どものころからバイクと機械いじりが好きで、学生時代は整備士を目指していたという凄腕技能養成部Nチームグループのベテラン 佐々木栄輔だ。

今シーズンからは、「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」のために、社員ドライバーとしてGR86でスーパー耐久に参戦。開発車両を対象としたST-Qクラスで表彰台にも立っている。

入社と同時に東富士研究所に配属。以来、操縦安定性の担当一筋で、今年25年目になるベテランドライバーだ。

若手としてベテラン佐々木に挑戦するのは、2019年に入社した下山祐希。

下山

小さい頃から両親にレースに連れて行ってもらって、クルマにはとても興味がありました。トヨタ工業学園の1年生のときに、レース活動もしている凄腕技能養成部の募集があるという話を聞いて、自ら立候補しました。

愛車のTOYOTA86でプライベーターとしてラリーに参戦するほどのクルマ好きで、「評価ドライバーは天職です」と、清々しい笑みを浮かべる。

前編で紹介した若手の相良優斗と同様、S2ライセンスを短期間で取得し、評価ドライバーとして成長できるかという試みの一環として、トヨタ工業学園在学中に選考された。S1は今年、23歳で取得。26歳までにS2を取ることを目標としている。

操舵角わずか3度の評価が必要な理由

今回、ベテラン佐々木と若手 下山が操縦安定性のテストとして挑戦したのが、レーンチェンジだ。

一般的にドライバーが高速道路などで行うレーンチェンジでは、ステアリングはだいたい10度ほど切られる。

今回のテストでは舵角がわずか3度程度のレーンチェンジを2回行い、いかに同じ走りを再現できるかを競った。

ベテラン佐々木はこのテストについてこう語る。

佐々木

一般の方が普段クルマを運転していて、舵角が3度程度のステアリング操作を意識的に行うことはほとんどありません。

しかし、私たちはこうしたわずかなステアリング操作の領域でも、ステアリングの重さやクルマの動きを感じながら、人間の感性に合ったクルマをつくり込んでいます。

実は一般の方は、高速道路でまっすぐに走れるように無意識にステアリングを微調整しています。つまり、微舵領域のつくり込みを行うことで、安心して高速道路を走れるクルマに仕上げることができます。

テストでは、右車線にレーンチェンジし、元のレーンに戻る際の走行データを取得。下のグラフは、そのときのステアリング操作を記録したものだ。

横軸は左右へステアリングを切った角度(中央の0度が直進状態)、縦軸はステアリングを操作する力(トルク)。プラスが切る力、マイナスが戻す力を表す。

実線はベテラン佐々木、点線は若手 下山の操作を記録したもので、各々が2回走行したため2本ずつある。

このグラフでは、青で囲っている部分に注目していただきたい。ハンドルを切ってから戻す操作を示しているのだが、ベテラン佐々木の2本の実線が重なっているのに対し、若手 下山の点線は重なっていない。

ベテラン佐々木は2回の走行で同じようにステアリングを戻す操作を行えているのだが、若手 下山は走るたびに力の入れ方にばらつきがあり、同じように操作ができていないことが分かる。つまりクルマの動きの再現性が不安定なのだ。

また、ベテラン佐々木の場合、切る側と戻す側で同様の操作ができているため、実線が平行四辺形を描いている。一方、若手下山は、切る操作に対して戻す操作が早いため、奇麗な平行四辺形になっていない。

そもそも、ベテラン佐々木は左右に3度程度の繊細なステアリング操作を行っているのに対し、若手下山は7度程度まで切ってしまっているのも、このグラフから分かる。

上記データから読み取れるのは、クルマを評価するセンサーの感度が高いと、クルマを感じる力も強くなり、クルマの現象の再現性や、評価のばらつきを少なくすることができるということ。

佐々木

わずかな力の入れ方まで感じながら操作できることが、評価ドライバーには必要です。そのためには、常に運転操作に意識を集中し、沢山の経験の積み、技能を磨くことが必要です。

例えば、高速道路で一般ドライバーが無意識に行っている、まっすぐ走るときの微小なハンドル操作を、評価ドライバーはより繊細に意識し、お客様がより楽にクルマを走らせられるように、つくり込んでいます。

ドライバーがステアリングを操作した際に、例えば「鈍いな」「過敏だな」などといった違和感を一切覚えさせないのが、クルマのあるべき姿であり、そうしたクルマに仕上げるべく、日々つくり込みを行っているという。

続いて、「止まる」走行テストを実施。 減速Gを正確に感じるセンサーも若手とベテランには差があるのか? その真相が明らかに。

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