創業時から脈々と受け継がれてきた職人の板金技能とモノづくりへの思いを継承し、魅力的なクルマ・用品づくりに挑戦する「匠工房」を取材。
後編では、匠工房が商品化にこぎつけたセンチュリーのスカッフプレートをテーマに、彼らの想いやモノづくりの現場についてリポートする。
3DプリンターやAIをはじめとするテクノロジーの進化に注目が集まる現代。だが、クルマづくりの現場では今もなお多数の「手仕事」が生かされており、その技は進化し続けている。
トヨタイムズでは、自動車業界を匠の技能で支える「職人」にスポットライトを当て、日本の「モノづくり」の真髄に迫る「日本のクルマづくりを支える職人たち」を特集する。
今回は特別編として、創業時から脈々と受け継がれてきた職人の板金技能とモノづくりへの思いを継承し、魅力的なクルマ・用品づくりに挑戦する「匠工房」を取材。
後編では、匠工房が商品化にこぎつけたセンチュリーのスカッフプレートをテーマに、それらに込められた想いやモノづくりの現場についてリポートする。
新しい価値の創造に挑戦した気鋭のメンバーたち
前編で触れた通り、新しいセンチュリーにオプション設定されている「匠スカッフプレート『柾目』」は、2022年4月に立ち上げられた「匠工房」が手掛けたものだ。
卓越した技能を誇る板金の匠が、1点1点、金槌でプレートを叩きながら柾目を象った端正な意匠を施している。
匠工房の立ち上げに携わった開発試作部 戦略・企画グループ主幹の田中悠人のもと、スカッフプレートの企画開発に取り組んだのは、技術員として社内外の仲間とともにモノづくり全般のコーディネートを担当した村田木綿子、板金の匠として田中とともに匠工房を立ち上げた土谷仁志、そして土谷の後輩である堀川佳紀、仁田原潤というメンバーだ。
村田は、アルミや炭素繊維などの複合材料について大学院まで研究し、素材開発に携わるべく化学系メーカーに就職した。しかし、最終的な製品に関わりたいという思いもあり、2019年、30歳のときにトヨタに転職。匠工房が立ち上がる1年前の21年より、現在のメンバーとともに商品開発に携わってきた。
堀川は普通高校を卒業後、2004年に入社。それ以来、20年にわたってボデー試作課で板金一筋に腕を磨いてきた。
実は堀川は、本連載第4回に登場した、ボデー試作課のリーダーである吉野栄祐工長のもと、7年ほど前より板金技能を生かした商品開発に取り組んできた。
匠工房の一画には、そうした取り組みの一環として試作されたレクサスLS用のステアリングカバーやシフトレバーカバーが展示されている。
金属製部品をインテリアに装着するのは、安全上の問題などで商品化には至らなかったが、その創造力豊かな作品はまさに匠工房の礎となるものといえる。
地元福岡県の工業高校を卒業後、2015年に入社した仁田原 潤は、まだ27歳と若いが、創造力あふれ技能を磨くことに余念がない。入社から3年はボデー試作課で板金技能を磨き、その後4年間は生産ラインでボデーの組み付けを担当。22年にボデー試作課に戻り、匠工房のメンバーとなった。