創業時から脈々と受け継がれてきた職人の板金技能とモノづくりへの思いを継承し、魅力的なクルマ・用品づくりに挑戦する「匠工房」を取材。
後編では、匠工房が商品化にこぎつけたセンチュリーのスカッフプレートをテーマに、彼らの想いやモノづくりの現場についてリポートする。
一つとして同じ物が存在しないがゆえの価値
匠工房のメンバーは意匠開発のほかにもう一つ、越えなければならない壁があった。それは歪みをコントロールすることだと、土谷はいう。どういうことか?
土谷
そもそも板金は、鉄板などの材料を金槌や木槌で叩くことで伸ばし、立体的に成形する技術です。
本来、金槌の打痕はボディの裏側に隠れるのですが、今回はその打痕自体を加飾として価値あるものに仕上げることにチャレンジしています。
その一方で、材料は叩くと伸びて歪みますが、スカッフプレートは平面の状態で仕上げなければなりません。面が歪むと見栄えが悪くなるからです。
叩きながらも、いかに叩いていないように仕上げられるか……それが私たちにとっての挑戦のひとつでした。
材料は厚いほうが伸びにくいため、当初は厚さ1ミリのステンレス板を用いた。しかし、スカッフプレートとして仕上げるためには厚すぎることが判明。0.5ミリの板を採用することに。
その分、歪みのコントロールは難しくなったが、匠たちは培ってきた技能と経験を生かし、なんとか品質を安定させるところまでこぎ着けた。
土谷
重要なのは、金槌で鉄板を叩く際の音です。音が均一でないのは、金槌がステンレス板に均一に当たっていない証拠です。それでは、伸び量も均一にならず、余分な歪みが生じます。だから、常に音に耳を傾けながら作業を進める必要があります。
仁田原
ステンレス板にいかに打痕を入れていくかも大切な要素です。例えば、板の端から一定方向に叩いていくと、その部分に伸びが集中し、一気に面が崩れてしまいます。
いま、どのように歪んでいるかを把握し、次にどこを叩けば歪みが収まるのか、瞬間瞬間に判断しながら、作業を進めていきます。
後席用の場合、1枚のプレートにつき7000回叩くのですが、7000回目を叩き終えたときにフラットになるよう常に考えながら仕上げるのです。
匠たちがそう語るように、金槌がステンレス板に当たるときの音や感触、そして材料の歪みに細心の注意を払いながら、一点一点、柾目模様を施していく。つくれるのは、匠1人につき、1日2枚だという。
また手加工のため、厳密にはそこでつくられたものは唯一無二の模様となる。
それゆえ、機械による大量生産品とは異なる魅力をお客様に提供できるのではないかと、メンバーたちは力強く語る。