創業時から脈々と受け継がれてきた職人の板金技能とモノづくりへの思いを継承し、魅力的なクルマ・用品づくりに挑戦する「匠工房」を取材。
後編では、匠工房が商品化にこぎつけたセンチュリーのスカッフプレートをテーマに、彼らの想いやモノづくりの現場についてリポートする。
匠工房がセンチュリーのスカッフプレートを商品化したワケ
我々が大切にしている匠の技を継承し、トヨタのブランド価値やお客様に提供する商品価値を向上させる方向で進化させることができないか──そんな想いからスタートした匠工房。田中悠人は、最初の挑戦としてセンチュリーのプロジェクトを選んだ理由について、以下のように説明する。
田中
センチュリーには、歴代の開発陣に受け継がれてきた「継承と進化」という考え方があると知りました。私たち匠工房も、匠の技を継承し、新しいフェーズに進化させていくことに取り組んでいます。そんな共通点もあり、ぜひセンチュリーのプロジェクトに挑戦したいと考えました。
またセンチュリーには、お客様に対して究極のおもてなしを提供することを目指し、テーラーメイドのようにご要望にお応えしていきたいというコンセプトがあるとお聞きしました。スカッフプレートは、そうしたコンセプトを体現できるアイテムになり得るかもしれないと考えました。
実は、匠工房が立ち上がるちょうど1年前の21年4月、新しいセンチュリーのコンセプト検討がなされているタイミングで、田中義和チーフエンジニアをはじめとする開発陣に最初の提案を行った。
その際はスカッフプレートではなく、センチュリー伝統のタワーコンソール用加飾パネルを試作したのだが、なかなか全体のデザインや世界観に合うものが提案できなかった。
堀川
あのときは、私たちの技能で表現できることをアピールしようと、板金技術を前面に押し出した、華美なデザインのプレートを制作しました。
しかし、新しいセンチュリーの方向性とは異なっており、自分たち本意の発想になってしまっていました。
村田
その時はまだ試行錯誤する中でセンチュリーとはどういうクルマなのかということを、私たちが理解しきれずに発信していたからだと思います。
フィードバックを受けて、どういう商品であれば、センチュリーというクルマのストーリーやお客様のニーズに合うのか……そこから考え始めることにしました。
村田たちは、センチュリーの内装モックアップを前に、製品企画、デザイン、用品企画や国内営業のメンバーと会話を重ねながら、どういったパーツを商品化すべきか、それにはどういう意匠がふさわしいのか、検討していった。
まずパーツの選定については、センチュリーならではの「おもてなし」を表現できるアイテムとして、スカッフプレートが最適なのではないかという結論に至り、開発陣にも賛同を得たという。
村田
センチュリーは後席がメインのクルマなので、スカッフプレートならばお客様が後部座席のドアを開けたときに、真っ先にセンチュリーならではの「おもてなし」の心を感じていただけるのではと考えました。
また、スカッフプレートは常にお客様の視界に入るのではなく、ドアを開けたときにだけ現れるものですが、だからこそ丹精を込めて意匠を施すというストーリーにも、共感していただきました。
しかしそこからが、さらなる試行錯誤の連続だったと、村田はいう。
「くつろぎと利便性の贅沢なシンプル」という新しいセンチュリーの内装コンセプトをどう表現するか──。土谷たち3人の匠は、村田とともに検討を重ねた。
堀川
例えば伝統工芸ではどのような柄が使われているのか、和柄の代表的な紋様をネットで調べたり、自分たちがどのような表現をしたいのか、アイデアを出し合ったりの日々でした。
こうした開発の現場では、村田のような技術員が開発陣との企画会議に参加し、結果をつくり手となる匠に共有するのが一般的だが、今回は匠たちにも可能な限り企画会議に参加してもらうよう心がけたという。エンジニアやデザイナーの声を直接聞き、そこに含まれる絶妙なニュアンスを感じ取ってもらうことで、より確実にゴールに近づけると考えたからだ。
こうした企画会議と試作提案を繰り返し、紆余曲折を経て、「贅沢なシンプル」というコンセプトにふさわしい柾目の紋様に関係者全員でたどりついたという。
村田
匠たちが柾目の試作品を仕上げてくれたときには本当に美しくて、「これならばお客様に喜んでいただける」と直感しました。
堀川
柾目の方向に決まってからも、打痕1点1点の密度や深さなどについてデザイナーと擦り合わせしながら、微調整を重ねてきました。
最終的には田中チーフエンジニアをはじめ開発チームからもお墨付きをいただくことができました。