第19回 (後編) 匠の技能による新しい価値の創造 その現場に迫る!

2024.04.05

創業時から脈々と受け継がれてきた職人の板金技能とモノづくりへの思いを継承し、魅力的なクルマ・用品づくりに挑戦する「匠工房」を取材。

後編では、匠工房が商品化にこぎつけたセンチュリーのスカッフプレートをテーマに、彼らの想いやモノづくりの現場についてリポートする。

モノづくりの現場に育まれた共創の輪

興味深いのは、3人の匠それぞれ作風が良い意味で異なることだと、塩地祥広はいう。

ちなみに塩地は、大学の理工学部を卒業後、14年にトヨタに入社。以後、ボディプレス用金型の設計や、プレス技術を応用した新商品開発などに携わり、複雑な意匠を施したGR86FJクルーザー用フューエルリッドの商品化など、チャレンジングなプロジェクトをやり遂げてきた。

開発試作部 開発・DX革新室 主任の塩地祥広 祖父の影響でモノづくりに心酔し、大学時代は学生フォーミュラープロジェクトを通して企画、設計から製作、評価までを経験した。就職先にトヨタを選んだのは、日本のモノづくりをもっと盛り上げていきたいという想いからだという

匠工房に加わったのは234月のため、最もメンバー歴が浅いが、持ち前の情熱とバイタリティで、匠たちとともに同工房のもう一つのプロジェクトであるレクサス用フューエルキャップカバーを社内外の仲間とともに商品化に結び付けた。

センチュリー用スカッフプレートと同様に、匠工房が商品化したレクサス用フューエルキャップ。レクサスオーナー向けにさまざまなアイテムを揃える「LEXUS collection」にトヨタ内製品として初採用された

センチュリー用スカッフプレートについては、検品というかたちで日々接しているという。美しい商品を自信を持って届けられるように、傷がないか最後の確認をしているのだ。

塩地

私の感覚ですと、土谷さんの手掛けたものは遊び心があって、堀川さんのものは整然とした中に美しさが感じられます。まだ20代後半の仁田原さんは、さまざまなことに挑戦しているので、本当に日々洗練された進化を感じます。

匠の3人は「一つひとつお客様のために作品をつくっている感覚で仕上げている」といいますが、その言葉通り、工芸品のような味わいが感じられるんです。当然、クルマに装着されて一体となることで最大の価値を発揮するので、工芸品のような美しさと工業製品の精密さを兼ね備えた商品になっているハズです。

こうして、匠工房メンバー一人ひとりの想いと技と挑戦の結晶として完成したスカッフプレート。

お客様からの反響を直接耳にすることはできないが、センチュリーマイスターと呼ばれる販売店の専任スタッフからは好評を博しているという。

村田

チーフエンジニアの田中さんからも、「このような特別な選択肢をお客様に提供できることが、センチュリーというクルマにとって大事なんです」と言っていただいたのですが、私としてはその言葉が本当にうれしかったです。

田中

「この様な匠の技を生かした商品が付いている、もしくは匠の技が生きた企画だからこそ、このクルマを選びたい」とお客様に感じていただけるところまで私たちのモノづくりの価値を高められたら、それこそ私たちにとって本望です。

一方、レクサスのフューエルキャップについてはどうか? 

堀川

レクサスオーナー向けのドライビングイベントでフューエルキャップの実証販売を行ったのですが、みなさん商品を手に笑顔になるんです。

自分たちがつくったモノでお客様に笑顔になっていただける。それこそ、トヨタが使命として掲げている「幸せの量産」につながるものですし、職人としてそんなモノづくりに携わることに、とてもやりがいを感じました。

今回のような匠の技を新たなフェーズへと進化させる取り組みに挑戦できたのは、上司と部下、先輩と後輩、技術員と技能員といった垣根を越えてお互いを信頼し、切磋琢磨し合える関係性が匠工房には存在したからだと、メンバーは口を揃える。

さらに、社内外のさまざまな関係者による協力も不可欠であり、志を同じくしてくれたパートナーへはいくら感謝してもしきれないと語る。

グループ会社をはじめとするモノづくり企業とも技能交流を進めており、匠の志を有する仲間からの気付きも多くあると言う。

モノづくりの現場で育まれたこうした共創の輪は、少しずつかもしれないが着実に大きくなって、きっとこれからの日本のモノづくりにおける新たな原動力になっていくことだろう。

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