「すべての人に移動の自由を」 最新技術に見るトヨタの本気

2023.07.21

「すべての人に移動の自由を」。トヨタが打ち出すモビリティ・カンパニーの理念を形にする技術が、テクニカル・ワークショップで披露された。

「すべての人に移動の自由を」

トヨタが掲げるこの理念の裏には、「移動がチャレンジするための『障害』ではなく、夢を叶えるための『可能性』になってほしい」という想いがある。

2017年10月、モビリティ・カンパニーへの変革を打ち出した際のプレスリリースには、「今までの狭義のモビリティ(自動車)だけではなく、モビリティソリューションの提供を積極的に考えていく」ともある。

今、この理念はどこまで形になっているだろうか。

テクニカル・ワークショップ特集、2つ目のテーマは「すべての人に移動の自由を」を掲げるトヨタの取り組みについて。

多様化の進む時代に「狭義のモビリティ」を超えて進める開発の最前線をレポートする。

車いすのままストレスフリーで自由な移動を

「車いすワンタッチ固定装置」は、車いす利用者がより自由な移動を実現する装置として開発が進められている。

トヨタも参画している自動車メーカーやバスメーカー、車いすメーカーによって組織された「車椅子簡易固定標準化コンソーシアム」(20224月設立)が、車いすの下部に取り付けたアンカーバーの規格化を支援。

今回トヨタは、このアンカーバーを車両側に設置したワンタッチフックで固定する装置を開発した。この装置は、車いすを所定の位置まで移動させた後、スイッチを押すだけで、アンカーバーをつかんで固定する。

トヨタが開発を進めるワンタッチ固定装置。右側の写真中央、白いワンタッチフックが、車いすに取り付けられたアンカーバーをつかんで、上から押し下げて固定する。スイッチを押して固定にかかる時間はわずか2秒

これまでは、車いす利用者が公共のバスなどを利用する際、車内の所定の位置まで移動した後、運転手が3本のフックが付いたベルトを使って固定する方法が主流だった。

この方法では、作業に慣れた運転手でも2分程度の時間を要し、その間、ほかの乗客を待たせてしまうことにもなる。周囲の視線が気になり、車いす利用者の心理的負担になっていたという。

また、運転手もしゃがんで作業する負担があった。「ワンタッチ固定装置」では、立ったままスイッチを押すだけなので、誰でも、簡単、確実に固定できる。

また、車いすが所定位置に着きさえすれば、2秒で固定できるため、車いす利用者にとっても気軽に移動できる。

将来的には船や飛行機などさまざまなモビリティにも展開し、車いすのままストレスフリーで自由な移動を目指す。

クルマづくりの技術を生かして凸凹も何のその

JUU」は、2022年の国際福祉機器展にも出品された電動車いすだ。

最大の特徴は、座ったまま16センチの段差(奥行き30センチ)の上り下りを可能にしている点。

階段を上る際には、背もたれの後ろにある“しっぽ”と呼ばれるリアフリッパーが倒れて車いすを支える。こうすることで、利用者は介助なしで段差を上ることができる。

下りるときも同様に、しっぽが車いすの傾きを抑え、安定した姿勢を保ったまま、後ろ向きに進んでいく。

駆動システムには、クルマにも使われている電動パワーステアリングのモーターを採用。トルクをかけて、上り下りの際にタイヤが逆回転しないよう安全性を確保している。

駆動系には2系統備えられていて、万が一片方が故障するようなことがあったとしても、もう一方の系統で走行し続けられる。

次世代モデルでは、ほかにもクルマに使われている部品を使用予定。車載部品を採用することで、高い信頼性とコスト面でメリットを出せるという。

同時にモダンでスタイリッシュなデザインも盛り込まれ、移動がより楽しくなるように配慮した。

JUU」では、これまで介助なしでは諦めざるを得なかった、神社や仏閣への参拝も想定されている。

車いす利用者の独力での移動範囲の拡大と移動の自由を増やしていくことを目指して、開発が進行中だ。

「コンビニに行く」時代から「コンビニが来る」時代へ

モビリティ・カンパニーへの変革のアイコンでもある「e-Palette」の最新情報も公開された。

今回お披露目されたのは、社会実装を控えた運転席があるタイプ(手動運転も可能)と、将来の無人自動運転を見据えた運転席がないタイプ(自動運転)の2種類。広い車内空間を用途に応じて使い分け、多様なモビリティサービスに応えることができる。

まずは、2020年代前半に実社会でのサービス提供を運転席があるタイプではじめ、運転席がないタイプはWoven Cityなどを見据え開発が進んでいる。

6月のワークショップでは、「コンビニ仕様のe-Palette」が登場し、ペットボトルのドリンクやお菓子などが並んだ。コンビニ以外でもカフェなどに内装の変更が可能で、以前トヨタイムズでも、移動式宅配ロッカーやアパレルショップに模様替えした「e-Paletteを紹介している。

広い車内空間を活用し、さまざまなモビリティサービスの提供が期待される「e-Palette」。会場ではコンビニ仕様が公開された

自動運転技術に関しては、トヨタ、ウーブン・バイ・トヨタ、デンソーで開発中のシステムを搭載。

長年蓄積してきた安全への知見と、大量のデータによる高度な知能化で、クルマ屋ならではの自動運転の実現に向けた取り組みが進められている。

さまざまな事情によって移動が難しい人や山間部、過疎地にコンビニの方からやって来る。行くだけではない移動の自由がある。そんな未来が近づいてきていることが感じられた。

「移動価値の拡張」を実現する技術

「すべての人に移動の自由を」。多様化が進む社会の中で、一人ひとりの事情に寄り添い、実現するのは言葉で言うほどたやすくない。

しかし、ワークショップの現場には、それを単なるスローガンで終わらせず、本気で向き合い、技術の力で乗り越えようとするクルマ屋たちの姿があった。

移動を取り巻く障害をなくし、夢を叶えるための可能性に変えていく。モビリティ・カンパニーへの変革に向けたトヨタの決意が表れていた。

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