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「下請け」でも「仕入先様」でもなく「仕入先さん」 6万社と共存共栄へ 想いと実態

2024.10.10

トヨタの調達本部は、仕入先とどう向き合ってきたのか? 現在のサプライヤー数や改善の取り組みは? さらには創業時から受け継がれる心得に迫った。

競争力と労務費の価格転嫁

もう一つ近年話題になっていることが、労務費の部品価格への転嫁。従業員の賃金などが反映される労務費は、少人化など原価低減の努力で高めてきた個社の競争力でもある。

仕入価格に反映することの難しさを、熊倉本部長は次のように語る。

熊倉本部長

エネルギー費とか原材料費というのは、誰が見ても世の中で上がっているのが分かりますよね。でも労務費というのは、モノをつくるときの競争力の一つなんです。1秒にこだわって生産性を突き詰め、いかに少ない時間でモノをつくる工程を構えるかに各社の工夫が現れます。

それを何%上げるということは、その会社の競争力が落ちるということなんです。

だから今までは、そういうことをやらずに「改善で吸収しましょうね」というのが大きな流れでした。だけど今、もっと賃金を上昇しなきゃいけないという流れの中に一歩踏み出さないといけない。

そうしないと、みんなで労務費を上げていきましょうという流れにつながらないだろうということもあって、今までは競争力を改善して頑張りましょうとやってきたものを、労務費でお困りではないかと、あえて明示的に記載したレターで全仕入先さんに問いかけました。

そういう意味で、労務費と他の費目は性格が違います。労務費は、日ごろの改善の中で取り組んでいくことの一つだったわけです。

ですから、労務費の転嫁と競争力確保のバランスは非常に難しい。難しい中ではありますが、人手不足を乗り越え、産業全体の魅力の引き上げのためにも、サプライチェーン全体への波及・浸透を含めて進めていきたいと考えています。

あらためて「今の課題は?」と問うと、「競争力とTierの深いところへの浸透がどうかというところ。Tierの深いところまで一緒になって、みんなで活力を持って、モノをつくっていくことが、最終的にはクルマの競争力につながっていくと思っています」と応じた。

仕入先さん

インタビュー中、熊倉本部長と加藤副本部長がたびたび使っていた印象的な言葉がある。“相互信頼”、“イコールパートナー”、そして“みんなで”。

やはり一般的には、トヨタが発注者側という立場もあり、仕入先に無理な要求をしているイメージが持たれやすい。そういうことも適正価格の浸透などが進まない一因になっていると考えられる。

そんな空気を察したのか、加藤副本部長が2つのエピソードを披露してくれた。トヨタと仕入先の関係を理解する上で大切にしたい心構えを感じさせる会話を紹介したい。

一つ目は加藤副本部長が、かつて先輩からもらった言葉について。

加藤副本部長

先輩に“強者の論理、弱者の心理”という言葉を教わりました。今でも帳面に残しています。

はたから見ると(トヨタは)強者かもしれない、(仕入先は)弱者かもしれない。弱者の心理として、「『なかなか言い出せないな』とか、『言いにくいよな』ということを、ちゃんとお前たちはわかっておけ」と教わりました。

それってトヨタの調達と仕入先さんの関係においてのみならず、上司部下もそうかもしれません。ですので、極力僕たちは扉を開いて、いつでも困りごとの相談は、ウェルカムなんです。

熊倉本部長

その人は、トヨタの外に出たときに感じたんだそうです。

(規模の)大きな仕入先さんは、同じ考えかもしれませんが、小さなところはそこまで考えられないこともあります。

「とにかくトヨタから言われたから、やっていかなきゃいけない」。そういうところが多いです。強者から正しい理屈を言われると、ぐうの音も出なくなります。

だからこそ“強者の論理、弱者の心理”は大事な言葉だと思います。

今どうやって価格を上げていいのかわからない人もたくさんいらっしゃいます。「(仕入先さんに)こういう情報をください」と言って、それをぽんと先方に投げるだけでは何も言えないんです。

私も織機からトヨタに戻ったときに、豊田社長から、そういった観点でも「外から見たトヨタの経験を活かしてほしい」と言われました。

調達で働く従業員は今、それぞれが担当する部品メーカーに価格転嫁の方法を丁寧に説明しているという。

もう一つのエピソードは、数年前の労使協の実施前にあった豊田会長(当時社長)と熊倉本部長の会話。仕入先の呼び方一つからも、その関係性が伝わってくる。

加藤副本部長

会長が熊倉さんと話していた言葉で印象深かったことがあります。

「熊倉さん、トヨタは“下請け”って言わないよね?」と。熊倉さんは「言わないです。“仕入先さん”って言います」。

こんなやり取りがあって、会長にもそういう(仕入先さんへの)お気持ちがあります。

――“下請け”と言わないのは、トヨタ特有ですか? 他のカーメーカーも使わないのでしょうか?

熊倉本部長

どうでしょう…。下請けという人はあまりいないんじゃないかと。「下請法」がそういう名前なので、法律の名前として使っているだけと思います。

(加藤副本部長に)僕らは使ってなかったよね? “仕入先さん”と言います。

加藤副本部長

“仕入先様”とまで言うと、少し慇懃な感じ。

熊倉本部長

それは逆に(先輩から)言われたことがあって「『仕入先様』って言うな。それだと全然親しみがないんだ」と。

だから仕入先様とは言わない。親しみを込めて仕入先さん。

2つのエピソードは、『購買係心得帳』を記した喜一郎がトヨタ自動車を創業したころの、トヨタの調達マンの心得が、今も受け継がれていることを感じさせる。

では仕入先さんは、トヨタと一緒にどのように原価低減に取り組んできたのか。次回は実際の改善例を交えつつ、現場の声を紹介したい。

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