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2024.08.05

人への投資 浸透へ 仕入先の課題共有し深まる議論

2024.08.05

仕入先との労務費分も含めた価格設定は進んでいるのか。自動車産業の未来をより良いものにしていくため、課題が話し合われた。

自動車産業の持続的な成長のために、個社の垣根を越えて課題を共有し、対策を話し合う“拡大労使懇談会(拡大労使懇)”が7月22日、トヨタ自動車本社(愛知県豊田市)であった。

4月に続いての開催となった今回は、仕入先との労務費分も含めた価格設定や商習慣について議論。

トヨタ労使やデンソー、トヨタ紡織、アイシンの調達担当のほか、トヨタグループの労働組合連合会である「全トヨタ労働組合連合会(全ト)」、メーカー、車体・部品、販売、輸送などの組合が加盟する「全日本自動車産業労働組合総連合会(自動車総連)」から参加があった。

本音の対話を通じて見えてきた、仕入先が抱える悩み。参加者はどう受け止めたのか。話し合いの様子を紹介する。

ひざ詰めで行われた本音の対話

4月の拡大労使懇では、主に仕入先に向けた人への投資を浸透させるため、現場と本音の議論の重要性を共有。

今回トヨタ本社に集まった参加者は、さらに議論を深めるため、前回以上に距離を詰め、車座となって意見を交わした。

冒頭、宮崎副社長が6月に公表した認証問題について触れ、「仕入先の皆さまにはいろいろな面でご迷惑をかけています。生産計画もなかなかうまくいかず、計画から変動するということが続いておりまして、ティアの深いところの皆様には大きな変動になって、影響を出してしまっていることを深く反省をしております」と謝罪。

その上で、今回の話し合いを通じて、各現場の困りごとへの対策を講じていくきっかけにしたいと呼びかけた。

値上げの価格交渉をする文化がない

議論に入るにあたり、全トの西尾清人副会長が、3つの観点で現場の実態を示し、特に①労務費の価格転嫁の浸透に関する現状と困りごと、②労務費の価格転嫁以外の困りごと――について報告した。

全ト 西尾副会長

(①について)他の自動車メーカー含めてトヨタグループ全体の動きがどうなのか、というところを非常に横にらみしていて、なかなか実態として進んでいないなというのが正直な感覚かなと。

価格交渉するという文化が今までなかったという状況で、エビデンスなどをどうやって得意先に示したらいいのか、コストの示し方が分かりにくいという声があるかと思っています。

(②について)補給部品などの金型の廃棄や保管の問題については、声が大きく出ています。もちろん保管料を払っていただいているとか、保管していたものも目処をつけて廃棄するという活動も、各社がそれぞれ対応しているという声も出てきています。しかし、それが全てにおいて浸透しているかというと、まだ行き渡っていない。

ティア2からもティア1と話し合う中で、困っている声を上げているが、ティア1側の受け取った方が、この問題を社内の誰に伝えて、どう解決すればいいのか明確になっていない。結果として解決に至らないとの意見が出ています。

話し合いは、交渉の仕方やコストの示し方が分からないという仕入先に、いかに適正な価格での取引を浸透させていくかということから始まった。

業界の商習慣がグラデーション

こうした声に、まず取り組みを紹介したのは、トヨタ紡織の細江英昭 調達本部CPOとアイシンの伊藤博和 グループ調達本部理事。ともに仕入先への押し付けにならないように気をつけつつ、「こういった形で考えたらいかがですか?」と提案しやすいフォーマットを用意していることを紹介した。

発注する側のOEM(自動車メーカー)に対しては、デンソーの簗瀬久資 調達グループ執行幹部が、競合関係にある企業間の歩調合わせの難しさに理解を示しつつも、「『ティア1以降の取引先は複数のOEM系列のビジネスを持っており、一つのOEM系列で転嫁が進んでも他系列で進まないと、次のティアへの転嫁が進めにくい』との声をティア2取引先から聞いている。トヨタ以外のOEMでも同様に価格転嫁を進めること、つまり、OEM系列で横の広がりを揃えていかないと垂直の深い部分には浸透していかない」と語る。

左からアイシン 伊藤グループ調達本部理事、トヨタ紡織 細江調達本部CPO、デンソー 簗瀬 調達グループ執行幹部

平野康祐 自動車総連副事務局長も、産業全体を俯瞰し「全自動車メーカーの系列・系列外の部品企業400社からOEMに対する意見をいただいている。業界の商習慣が、OEMによってかなりグラデーションがあるので、ティア1やティア2にしわ寄せが行くという構図が非常に見えている状況です」と述べた。

トヨタの加藤貴己 調達副本部長は、OEMの立場として現場の声を聞き、常に解決策を話し合い、探り続けることが必要と説く。また同時に、日本自動車工業会で調達部会の部会長を務める立場としても、部品工業会と連携しているが一筋縄ではいかない現状を説明した。

トヨタ 加藤 調達副本部長

サプライチェーンへの浸透がみんなの課題。

深さと横の広がり、ということに関しまして、まず深さにつきましては、西尾さんからおっしゃっていただいたようなコミュニケーションによって、「そんな問題が起こっているんだ」と気づく。(現場の声を)いただきながら、ティア1と一緒になりながら、どういう解決の方法があるか、特に人への投資については、我々はPDCADoから始めており、浸透へのタイムラグはどうしても生じますので、(話し合いや情報発信を)『やり続ける』がキーワードだと思います。

横の広がりにつきましては、業界として下請法の問題なんかもありますので、自動車工業会で緊急点検や原価低減の在り方などを議論しておりますし、部品工業会とも常に連携しておりますが、業界として、なかなか簡単なことではない。

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