
鍛えた稼ぐ力で、未来への投資ができるようになってきた中、潜むリスクとは?5年後、10年後、50年後を見据えるからこそ疎かにできない課題を労使で見つめ直した。

トヨタの2025年労使協議会(労使協)が2月19日、トヨタ本社(愛知県豊田市)で始まった。
12日の申し入れでは、これまでの「議論項目」「賃金」「一時金」に加え、「総合的な人への投資」を追加している。組合の鬼頭圭介委員長は、将来に向けた全員活躍の加速や、未来への投資につながるアイテムについて、労使協を皮切りに議論していきたいという意図を語った。
挑戦のための余力創出と足場固めに取り組んできた労使。さらにやりがいを持って働くために、そして自動車産業550万人の仲間とともにクルマをつくり続けるために、何が必要なのか。
2時間近くに及んだ話し合いの終盤、佐藤恒治社長から、次回の労使協について異例の提案がなされた。各本部・カンパニー単位で
「第2回の労使協議のあり方について、本部別の開催を提案したいと思います」
通常労使協は、各職場で話し合った内容を支部長ら代表者が持ち寄る形で開催されている。それをあえて職場ごとに開催するという。
これは「人も職場も一律ではない」という想いのもと、それぞれの職場環境に合った、解決すべき課題や未来に向けて取るべき行動を具体的に話し合うため。
同時に、ふだん労使協の議場にいない従業員も当事者意識を持ち、危機感を持ってほしいという想いがある。
話し合いを始めるにあたって、鬼頭委員長と佐藤社長の間で次のようなやり取りがあった。
鬼頭委員長

自動車産業は100年に1度の大変革期と言われて久しいですが、昨今は私たちの想像を超えるスピードで変化をしており、職場のメンバーもその状況は認識しつつも、厳しい職場運営に追われる中で、危機感というより不安感の方が強く、とにかく目の前の仕事を必死にやり切っている状態の職場があるというのも現実です。
まずは、申し入れ書に記載させていただいた通り、自動車産業が大きなうねりを迎えるなかで、私たちが置かれている状況、課題、そして、その対応の方向性について会社の考えをお聞かせいただき、共通の目線に立って、全員で行動に移していきたいと考えています。
また、未来を考える上で、決して忘れてはいけないのは、550万人の仲間の支えがあって、我々は仕事ができているということです。
しかし、先ほど申し上げた通り、足元の職場運営に必死になり、トヨタのなかで最適化を図ろうとすることで、結果的に550万人の仲間にしわ寄せが行き、厳しい環境に追い込んでしまっているということが、現実としてあろうかと思います。
550万人の仲間と心をひとつにできていない状態で、持続的な成長を成し遂げることはできません。
そういった現実から目を背けることなく、トヨタで働く一人ひとりが、5年先、10年先、50年先の日本と自動車産業の未来と笑顔をつくっていくために何をすべきか、何ができるのかを考え、行動していかなければいけないと思います。
佐藤社長

この1年、労使で足場固めに取り組み、話し合いを続けてまいりました。その話し合いの総数は、全体で100を超える回数に及んでいます。
労使で現場の努力、あるいは、苦労、課題に対する理解を深めることができたと思います。
皆さんの頑張りは十分に理解をしているつもりです。現場力があってこそ乗り越えられた1年だったと思います。心から感謝申し上げます。
先ほど鬼頭委員長から、さまざまなお話をいただきました。
危機感よりも不安感が強く、目の前の仕事に必死になっている状況も、現場の偽らざる事実なのだろうと思います。
全体として話し合いが進んでいても、まだ一人ひとりの困りごとに寄り添えていないという実態があるのだと思います。
しかし、行動することのみが不安を取り除く唯一の方法であると思います。今の経営基盤を当たり前に存在するものだと思わず、気を許せば、すぐに失われてしまうものだと危機感を持ちながら、だからこそ、この労使協議会では、未来志向でこれからの行動について話し合いをしてまいりたいと思います。
佐藤社長は今の経営基盤を「気を許せば、すぐに失われてしまう」という。
5日に公表した2025年3月期 第3四半期決算では、見通しを上方修正するなど、足場固めは着実に進んでいるようにも見える。
だが、そこに安住することなく、将来に向けたより一層の働きがい創出へとつなげていくため、労使は今回の業績に潜むリスクや、トヨタを取り巻く環境について認識を共有した。