
鍛えた稼ぐ力で、未来への投資ができるようになってきた中、潜むリスクとは?5年後、10年後、50年後を見据えるからこそ疎かにできない課題を労使で見つめ直した。
職場に漂う諦め
東崇徳 総務・人事本部長は、キャリア入社者の意欲の低下といった職場課題に加えて、トヨタで働くことへの満足度調査の結果を示した。
東本部長

「生きがい・やりがい」についての調査、「Well-Being サーベイ」を職場ごとに毎年実施しています。
結果を見ると、トヨタで働くこと、トヨタで社会貢献できていること、そのような企業で働けることへの満足度は、全社的に非常に高いです。
一方で、「個人の潜在能力を発揮できているか」という点は、肯定回答率が40%。これはグローバル平均に比べても、相当低い状況です。
そして、「ありのままの自分でいられるか」。これも47%です。このスコアを見ると、組織としてのトヨタはすごくいい会社だけれども、それぞれの職場で自分の力を生かしきれているか、メンバーを生かしているかという部分では大きな課題があると思います。
「何かを言って、変化を期待できるか」は43%。つまり、(トヨタの)半分以上が「職場で何か言っても変化はないだろう」と思っているということです。
トヨタを取り巻く環境に潜むリスク、中国メーカーの実情と日本との違い、トヨタでの働きがいにおける問題。それぞれで目線を合わせ、江下圭祐 副委員長は次のように受け止めた。
江下副委員長

まず山本さんにご説明いただいたリスクの部分に関しては、国際競争力を維持、強化していくためにも、今ある余力を使い、覚悟を持って未来に向けた投資を行っていく必要があると理解いたしました。
組合員自身も、未来の競争力につなげるために必要なことを考え、自ら提案、動いていくことが本当に必要だと感じております。
また、中国の競合リスクに関しては、圧倒的な労働力、モチベーションに加えて、中国政府からの強力なバックアップとか、非常に優位性の高い環境にあります。
同じようなやり方ではトヨタとして生き残りは難しく、我々の強みであるTPS(トヨタ生産方式)や一人ひとりが自律して働くことで、成果を最大化させていかないと生き残れないということを改めて痛感いたしました。
また、働き方、やりがいに対するリスクですが、やはりまだまだ変われていない状況を再認識いたしました。
背景にあるのは、階層、機能間の縄張り意識みたいなものがまだまだあり、それに阻害されて働く一人ひとりが自身の能力を最大発揮できていないことではないかと思っております。
階層のヒエラルキー
また組合からは、めまぐるしく変わる環境変化の中で、目の前の仕事に忙殺されているうちに、入社時に抱いていたクルマが好きという想いも薄らいでしまうという実情が語られた。
中嶋裕樹 副社長は「これをやりたいとなったとき、それを実現する行動を起こすため、たくさんの方々への根回しが必要でした」とかつてを振り返る。
今は役員の数も減り、スムーズに仕事ができるようになってきた。それでも中嶋副社長は「階層のヒエラルキーはまだまだ残っていて、上意下達でコミュニケーションが図られている。現場からの意見も、どんどんフィルターがかかって上がってくる」という。
中嶋副社長

要は、階層間での議論ではなく、直接のコミュニケーション。それが労使協であり労使懇でした。それらを今、一生懸命重ねている中でこのようなこと(階層のヒエラルキー)が改めてつまびらかになってきているのかなと思います。
昔のことが分かっているからこそ言いたいのは、「これが簡単に戻ってしまうのではないか」という恐怖感が会長以下、皆さんにある。
なぜかというと、先ほど申し上げたような事例は、わずか10年ほど前の話です。
何か困難が目の前にあったとき、戻ってしまった方が楽だよなという気持ちが、潜在的に我々の中にあると思います。
当時を知らない若手にも、10年後には同様のことが起こるかもしれない。中嶋副社長は警鐘を鳴らした。