
本部・カンパニー単位での開催が決まった第2回労使協議会。この異例の提案の狙い、込められた想いは何だったのか? 当日を前に、佐藤恒治社長、東崇徳 総務・人事本部長にインタビューした。

「第2回労使協のあり方について、本部別の開催を提案したいと思います」
2月19日に実施したトヨタの第1回労使協議会(労使協)。議題の総括に入ったところで、佐藤恒治社長から異例の提案がなされた。

組合の支部長ら代表者が、各職場で話し合った内容を持ち寄る形で開催されている労使協。それをあえて、本部、カンパニーといったくくりで職場ごとに行うという。
なぜ、このような対応をとることにしたのか? どのような話し合いを期待しているのか? 第2回労使協の前に、佐藤社長と東崇徳 総務・人事本部長にインタビューした。
狙い:労使協を本部別で開催するワケ
佐藤社長は、本部・カンパニー別での新しい労使協の形を提案した際、次のように問題意識を語っていた。
「全員野球」だとすると、もう少し職場単位に寄り添って、この話し合いをすべきではないか
それぞれの職場環境に合った、今、解決すべき課題、未来に向けて取るべき行動について話し合って、一つでも、二つでも、実際のアクションにつなげる、決断できるようにしてはどうか
この点について、改めて解説を求めると、佐藤社長は「健全な危機感」をキーワードに背景を説明した。
佐藤社長

去年1年、労使で100回以上もさまざまな形で話し合いをし、「頑張っているかどうか」は本当によくわかりました。だから、未来志向の話し合いがしたいと思っていたんです。
もう一つ、労使協の温度感が職場まで伝播しないという問題意識がありました。労使懇、労使協に出てくる人たちは、すごく熱量が上がっている。
だけど、実際に職場を回ってみると、その熱量はまだら模様。「大変だ」という主張はあっても、当事者としての意識が見えないと思うこともありました。
例えば、「このままだと中国メーカーとの競争に勝てない」という人がたくさんいます。仮にそうだとして、じゃあ、私たちはどうするのか。「勝てない」と言っているだけでは会社が潰れてしまう。
どれだけ労使協の場で、労使の認識を合わせても、会社全体として当事者意識を持つことができない。
組合執行部からも「組合員一人ひとりで見るとまだまだ意識にムラがある」という話もありました。
私が今年の第1回労使協で意識していたのは「健全な危機感」でした。好業績だから、足元に潜んでいるリスクに目が行きにくくなる。
だから、「健全な危機感を全員が持とう」「当事者意識を全員で持つことができる労使協にしよう」「健全な危機感と当事者意識のもと行動に移そう」。この三つが、今回の労使協で実現していきたい要素です。
こういうことを考えて、会長からもアドバイスをもらい、「話し合い」という軸はブラさない。単に「頑張り」を話し合うのではなく、これから自分たちが「何をするか」を話し合おうということになりました。
こうした問題意識を佐藤社長が強くしたのは、昨年12月8日、トヨタスポーツセンター(愛知県豊田市)で行われた社内駅伝の日。
建て替えが進む体育館を前に、東本部長が「僕たちは、50年後の後輩に何を残せますかね」とつぶやいたという。
東本部長

スポーツセンターに体育館が建ったのが、ちょうど50年前だったと知ったんです。聖光寺 * (長野県茅野市)も(2020年に)50年を迎えました。
*交通事故で亡くなった方の霊を慰めるとともに、負傷した方の再起と交通事故の撲滅を願って、トヨタ自販の神谷正太郎社長(当時)が建立を発願。毎年7月に催す夏季大祭にトヨタのトップ、全国の販売店やトヨタグループの代表が足を運び、交通事故ゼロを目指して祈りを捧げる。
50年前、今ほど儲かっているとは言えないはずのトヨタが、こんな投資をよくやったなと感じて、「これからつくるものも50年続くわけですよね? すごいですよね」と話しました。
でも、それが今回の労使協に向けた一つのキーメッセージだとも思っています。
この2年間は、「追加で700人採用するぞ」「働きやすい環境にするぞ」とさまざまな投資をしてきました。
今年度、人や成長領域への投資で8,300億円。その一方で、僕は非常に怖さを感じています。こんなに投資をしているということは、固定費が膨らんでいるということでもある。

これらの投資は、あくまで、トヨタで働く全員がパフォーマンスを上げていくことを前提にしているもの。特に賃金は単年だけではなく、将来ずっと背負っていくもの。
「頑張り」だけじゃなく、将来に向けた「覚悟」をもって、みんなが行動宣言をしていかないといけないと思ったんです。
50年後、「あのとき何をしていたんだ」とならないように。
でも、(労使の)トップが労使協で覚悟を示しても、各職場の覚悟がない限り変わらない。上っ面の覚悟では怖いと思いました。
1回目の話し合いの中で、各職場でやった方がいい話題だなと思うことがいくつもありました。最後は佐藤さんの判断で、「2回目は各職場で」ということになりました。