認証問題に対してこれまでどのような取り組みを実施し、再発防止へどうアプローチしていくのか。議論の前に、労使は現在地を見つめ直した。
人への投資積み増しに込めた想い
中嶋副社長が言及した設備や建屋の老朽化対策は、今年の労使協議会(労使協)で佐藤社長が打ち出した「総合的な人への投資」の一つ、モノづくり環境の整備の一環だ。
11月6日の中間決算では、認証問題などによる減益を、改善努力や生産回復でリカバリーしていくことについて触れると同時に、この「人への投資」も1,300億円追加することが発表されている。
この積み増しについて、決算説明会の記者との応答の中で、山本正裕経理本部長、宮崎洋一副社長からは、次のような言葉があった。
「マネジメントが会議室にいて資料を待つのではなく、現場に行って、困りごとを聞くことで、やっと声が聞けるようになり、『人への投資』を(具体的に)進めていけるようになりました。そして、即断即決で(困りごとを)解決しようという動きが始まっています」(山本本部長)
「中長期的に多くのステークホルダー、(自動車産業)550万人の皆さまを含め、いかに日本の自動車産業を発展させていくかという想いです。『人への投資』の積み増しについて、迷いはありませんでした」(宮崎副社長)
労使懇では、林秀明 経理部長が「『必要なところには意志を持ってお金をつけていく』という判断」と、あらためて積み増しについての想いを説明。人への投資の対象の一例として「育成のための出張旅費」や「工場の暑熱・寒冷対策」を挙げ、これからも働きやすい職場づくりをサポートしていく決意を示した。
林部長
以前は「予算一律削減」「目標必達」という考えを、現場の声を十分に聞かずに展開していました。現場の皆さんにはお金を使わず、工夫して何とか自分で頑張るというガンバリズムを強いてしまい、過度なプレッシャーを与え、「できない」という声を上げにくい状況をつくり上げてしまったと思っています。
まだまだ道半ばではありますが、まずはマイナスからゼロへ速やかに実行し、それを乗り越え、トヨタの現場らしく改善し、競争力向上につなげていきたいと思います。
現場の皆さんには、やるべきことを集中してできる職場環境をいち早く実現できるよう、お金、人に関して、しっかりサポートしてまいります。
ここまで、経営陣が語った、認証問題に対する再発防止の取り組み、人への投資への想い。
組合の江下圭祐 副委員長は、「現場が向き合う課題に一緒に向き合って、迅速に措置いただいていることに、職場からは多く感謝の声をもらっています」と報告。ガンバリズムからの脱却に向けては「企画調整部署にもしわ寄せがいくので、労使で留意しながら、一緒に進めさせていただきたい」と続けた。
労使による課題共有・議論は、ここからスタート。
8月の労使懇では、「まず丁寧に声を拾う。そしてその裏にある課題をあぶり出し、話し合って、アクションにつなげていくことにこだわって、今後も活動していきたい」と語っていた鬼頭委員長。
3カ月にわたって職場の声を集める中、聞こえてきたのは、変わらない現状に疲弊をしているという深刻な状況。職場の本質的な課題にもつながる議論の模様は、後半でお届けする。