認証問題に対してこれまでどのような取り組みを実施し、再発防止へどうアプローチしていくのか。議論の前に、労使は現在地を見つめ直した。
認証は、企画・開発から生産・販売まで、多くの部署が関わる仕事です。再発防止の取り組みにおいても、TPS自主研で活動いただいているように、プロセス全体を見て、自分の前工程・後工程の困りごとを理解したうえで、改善を進めていくことが大切であると思います。
これまで現場の状況を確認してきた中で、正しい仕事をしていくためには、現場の負担を下げていくこと、変化に柔軟に対応できる環境をつくることが大変重要だと感じています。
引き続き、一つずつ改善を重ねて、正しい仕事を実践し続けられる環境を全員でつくっていきましょう。
11月25日、トヨタは認証問題 * の再発防止策の取り組み状況を国土交通省に報告した。
*クルマの量産に必要な型式指定を申請するための認証試験などで、国が定めた基準とは異なる方法で試験を実施していた問題。今回の取り組み状況の報告は、8月9日の再発防止報告書提出に合わせて取り決めた、四半期ごとの実施状況報告の第1回にあたる。
冒頭は、初回の報告を終えた佐藤恒治 社長が、従業員に向けて発信したレターだ。
この報告からさかのぼること約10日。愛知県豊田市のトヨタ自動車本社では、労使懇談会(労使懇)が開かれていた。
8月の再発防止報告書提出の直前に実施された前回の労使懇では、リードタイムを短くし、異常に素早くアクションできる体制づくり、本音のコミュニケーションが取れる現場といった観点で話し合った労使。それから約3カ月、どのような取り組みが行われ、課題は共有されてきたのか。
組合の鬼頭圭介 委員長は前回の労使懇以降、さらに踏み込んで職場の実態、生声を聞く活動を行ってきたとし、今回は「動いてきたからこそ見えてきた課題に対して、再発防止策を確実にやりきるための今後のアクションを明確にする場にしていきたい」と位置付ける。
話し合いに先立ち、認証問題をめぐるこれまでの経緯や、先日発表された決算に込めた想いについて会社から説明。そんな中、豊田章男会長がリードする「法規認証TPS(トヨタ生産方式)自主研究会」について、国内販売事業本部 友山茂樹本部長が、「TPSという共通の価値観が育まれている」と語る場面があった。
まずは、友山本部長の言葉からご覧いただきたい。
共通の価値観
友山本部長
この自主研をスタートさせるときに、豊田会長が言ったことは「一連の認証問題を単なる再発防止策で終わらせてはダメだ」「TPSのやり方で企画から開発、量産に至る全ての工程の問題を洗い出して、根本から、仕組み、風土を改革し、人材育成して、トヨタグループの競争力強化につなげたい」ということでした。
ここで重要なことは、そこにはTPSという共通の価値観が育まれていることだと思います。共通の価値観の一つは、最終的にはリードタイムの短縮を目指すことです。「早くやれ」「急いでやれ」ではなく、物や情報の停滞をなくす。
事実、各社とも「物と情報の流れ図」を書いてみると、開発から認証取得までのリードタイムの半分は、手戻りややり直しによる停滞でした。
そういう停滞をなくして、設計や試験の現場を楽にする。そして、もっと意味のある仕事をしてもらうようにしたいということです。
共通の価値観の2つ目は異常がわかる、異常で止められる職場、現場にしたいということでした。
異常とは何かというと、品質の基準から外れたこと。事技系の仕事でも、各工程に品質の基準があるべきで、その品質をつくり込むための良品条件がなければならない。
そういうことに関して、労使が価値観を共有しているので、この活動は軸がブレることなく、経営と現場の意志の入った競争力に資する活動になっているんだと思います。
2022年からトヨタグループで相次いで発覚した認証問題を繰り返さないよう、今年2月、豊田会長が立ち上げたのが「章男塾法規認証TPS自主研究会」だ。
当初は豊田自動織機、日野、ダイハツの3社だったが、9月からトヨタ、トヨタ車体、トヨタ自動車東日本も加わり、6社の社長、副社長、関係役員、管理監督者、そして現場の担当者が会社や職域を越えて課題を共有している。