10年先の働き方を今つくるために、話し合いを重ねてきた労使。会社からの回答に際して、佐藤恒治社長が語った"ブレない軸"とは。
労使協は「未来のつくり方」を一緒に考えていく場
佐藤社長
今年の労使協議は「550万人の仲間への感謝」と「10年先の働き方を今つくろう」という2つの想いをもって進めてまいりました。
賃金・賞与に対するさまざまな声もある中で、私たちはブレずに、話し合いを重ねてまいりました。それは、私たちの労使協議は、「過去の頑張り」を確認する場ではなく、「未来のつくり方」を一緒に考える場であったからだと思います。
組合の皆さんは、未来のために、根深い職場の課題も含めて、勇気をもって声を上げてくれました。課題を伝えるだけではなく、「マネジメントの役割や育成のあり方を変えてほしい」という具体的な提言もありました。
「困っている」と言うだけでなく、意志をもって、一緒に行動しようとする皆さんがいることを、大変心強く思いました。本当にありがとうございます。
そして、第3回の労使協議会での鬼頭委員長の言葉は、全組合員の想いとして、私たちの心の奥深くに届きました。
「労使共通の基盤」の意味に向き合って長年、相互理解・相互信頼を深めてきたからこそ、私たちは、具体的な取り組みについて話し合うことができたのだと思います。
それでは、話し合いを踏まえた「総合的な人への投資」について、3つの切り口で回答を申し上げます。
スライドをご覧ください。
1つ目は、モノづくり環境の整備による「人への投資」です。
工場の暑熱対策や老朽更新をはじめ、安全安心を最優先にした工場の環境整備に取り組んでいきます。
また、寮のリニューアルなど生活環境の改善や、期間従業員の方々の食費の補助など、働きやすさを感じていただける環境をつくっていきます。
リソーセス面での新たな取り組みとして、ベテランの方のスキルをもっと活かしていただけるよう、再雇用の方の処遇改善や、職場ニーズに基づく65歳以上の方の雇用継続や再雇用を進めます。
これら労働環境の整備については、「働きやすさ」の観点で我慢させてしまっていた課題への対応として、すぐに実行に移します。
2つ目は、やりがい・成長を後押しする仕組みづくりによる「人への投資」です。
全職種を対象とした職種変更制度の導入や、組合から提案をいただいたマネジメントの役割・育成・評価の見直し、誰もが自ら選べる研修プログラムの拡充など、マネジメントの皆さんも含めて、全社的な取り組みとして、一人ひとりに寄り添った多様な挑戦、多様な成長を促す施策について労使でしっかり話し合って、具体化を進めていきたいと思います。
3つ目は、賃金・賞与です。
未来に向けて、トヨタで働く全員の「人の力」を高めていきたいという想いを込めて、賃金・賞与は、「組合要求通り」の回答といたします。
賃金については、賃金水準の引き上げ、家族手当の引き上げの実施に加えて、「未来を担う世代への投資」として、若手に重点的に配分いたします。また、新入社員の初任給についても、すべての職種で引き上げます。
組合の要求に対する回答は、以上となります。
最後になりますが、今回の話し合いを通じて、労使で再確認できたことが2つあると思います。
1つ目は、労使の相互信頼です。
一律の数値目標が無理を重ねることにつながってしまっている現場の本音を聞き、伊村(隆博・生産本部)本部長は「職場を健全化するために、能率・生産性などの指標による管理を1年間凍結する」決断をしました。
その発言には、「競争力が失われないか」という懸念もありました。
しかし、組合の皆さんは、「生産性こそが競争力の原点である」という考えは絶対にブラさない。たゆまぬ改善を進めていく。そんな意志を伝えてくれました。今の労使関係を象徴する、相互信頼があるからこその決断であったと思います。
もう一つは「やりがい」の大切さです。
前回の話し合いで、宮崎(洋一)副社長から、「教えてもらう機会がないという声もあるが、自分の成長は自分で取りに行くものだ」というコメントがありました。
組合の皆さんからも、「仕事のやりがいは、自分でつくっていくもの」「あらゆる層で自分がやりたいことを実現しようとする姿勢を持てば、職場全体がイキイキし、活躍できる場になる」というお話がありました。
本当にその通りだと思います。
挑戦の原動力は、やりがいをもって、さまざまな形でクルマづくりに向き合う「人の熱量」です。
「人への投資」のあり方を話し合ってきたからこそ、「やりがい」という、本質的で、最も重要なテーマにたどり着いたのだと思います。
こうした話し合いができる労使関係は、決して当たり前にあるわけではない、私たちの大切な土台であると思います。
2019年の労使協議、その回答日に、当時、豊田(章男)社長はこう話しました。
「何年か経ったあと、『トヨタの話し合いが、家族の会話に近づいたね』『それは2019年の労使協があったからだね』労使でそう話せる日が来ることを願ってやまない」。
この想いを胸に、みんなで労使関係のあり方に向き合ってきたからこそ、今の私たちがあると思います。
昨日、豊田会長と会話をした際、「明日は回答日だね。すべてを一度に解決しようとせずに、ブレずに話し合っていけば良いと思うよ」と言われました。ブレない軸を改めて確認して、労使関係の大切な土台を守り育てていきたいと強く思いました。
本日から、年間を通じた話し合いがスタートします。
全員が当事者となって、具体的な行動につながる話し合いを重ね、「私たちのやりがい」を労使で一緒に追求してまいりたいと思います。
みんなで、笑顔で、行動していきましょう! 本日はありがとうございました。
佐藤社長からの回答を受けた鬼頭委員長。550万人の仲間に貢献できるよう課題解決を進めていくとともに、従業員一人ひとりが解決を待つのではなく、主体的な行動と各職場で話し合う必要性を強調した。