トヨタが結んだ3つの約束 品質の豊田章男塾【前編】

2021.12.23

11月16日、「第56回オールトヨタTQM大会 特別企画『品質の豊田章男塾』」と題したイベントが行われた。

TQMはTotal Quality Management(総合的品質管理)の頭文字をとったもの。日本科学技術連盟の説明によると「顧客の満足する品質を備えた品物やサービスを適時に適切な価格で提供できるように、全組織を効果的・効率的に運営し、組織目的の達成に貢献する体系的活動」と定義している。

つまり、商品やサービスの質はもちろん、仕事やマネジメントの質も問われる活動である。

トヨタは1966年に協力会社や販売店らとともに「オールトヨタ品質管理大会」を立ち上げ、品質管理の徹底を推進してきたが、1995年に同大会を「オールトヨタTQM大会」へと発展させている。

TQMを「人と組織の活力を高める活動」と定義し、「お客様第一」「絶え間ない改善」「全員参加」の3本柱を行動理念として企業活動の質向上に努めてきた。

1974年の第9回オールトヨタ品質管理大会のようす。 壇上は開会あいさつを行う大会委員長の豊田章一郎副社長(当時)

例年のTQM大会ではトヨタの経営陣や社外の経営者が品質に関する講演を行い、ディスカッションをするのが恒例だが、今回はそれを「品質の豊田章男塾」として、豊田社長の品質にかける想いや価値観を伝える場とした。

それはなぜか? 今年、トヨタでは、不正車検や不適切な個人情報の取り扱いなど、さまざまな“ほころび”が出た。

この会社の危機にあたって、最終責任者としての意志や想いを自分の言葉で伝えることが必要だと考えた豊田社長は6年ぶりの出席を決め、自らイベントもプロデュース。

出席者は肩書ではなく、本当に話が聞きたい人を募集。デジタルサービスを使って事前に質問の記入と投票をしてもらい、出席者の多くが聞きたい話に回答することに。

また、小林耕士番頭、河合満おやじにも声をかけ、自らはMCも担当。グループや仕入先・販売店を中心にリモートで5000人が出席する2時間のイベントをシナリオやカンペもなしで取り回した。

品質のイベントというと堅苦しく聞こえるが、やりとりの大半は職場でのコミュニケーションや失敗への向き合い方など、円滑な組織運営や仕事の質に関わる話。

多くの人の気付きにつながるであろうトピックを、前後編にわたってトヨタイムズで一挙公開する!

質問1:サラリーマンは本音でモノが言えるのか

今回、参加者の中でいちばん得票数が多かったのは一見品質には関係の薄そうな「本音のコミュニケーション」について。

豊田社長は、自らが本音に向き合わざるを得なかったリコール問題でのエピソードを用いながら持論を述べた。

――サラリーマンが本音で物言うことはできるのでしょうか。いろいろなことが邪魔をして、つい忖度することが多い気がします。本音ってなんでしょう?

豊田社長

本音は「本当の音」と書きます。本音と建前と言いますが、本音は「本当の気持ち」「本当の心」であり、建前は「自分と相手の考えの違いを、不愉快にさせずに伝えるもの」と解釈しています。

建前は嘘かと言われると、嘘は「事実でないこと、人をだますための事実とは違うこと」です。

社長就任後、すぐに自分の本当の気持ちに寄り添わざるをえない出来事がありました。リコール問題でアメリカの公聴会に呼ばれたときです。

そのとき、世間と約束したことが3つあります。逃げない、嘘をつかない、ごまかさない。この3つを自分自身に言い聞かせて行きました。

アメリカに着くと、私が公聴会に出ると決まってからの3週間で、会社としてのシナリオが準備されていて、「日本の本社が悪い」という結論で戦うことになっていました。

しかし、本社の社長が出席するので、それでは戦えなくなり、私自身が弁護士を前に模擬公聴会をやって、答えていく内容を本番の回答にしていきました。

私の基本方針は「責任者は私」です。「知っていましたか?」と聞かれ「知りません。ですが、責任者は私です」と答えました。

この言葉が出てきたのは、まず「逃げない」。「トップとして、結果の責任を取る」ことが大事だと思ったからです。

2つ目が「嘘をつかない」。知らないことは正直に言いました。

もう1つが「ごまかさない」。嘘をついてなくても、自分の都合のいいように全部を言わない人は多いです。しかし、世間からはごまかしているととられると思います。

この3つをベースに答えるのが基本方針でした。

米国公聴会に臨んだ豊田社長と北米トヨタの稲葉良睍社長(2010年当時/写真:AP/アフロ)

私たちは製造業です。商品はそこに事実があり、嘘をつくことはできません。販売店であれば、お客様とスタッフ、仕入先であれば、部品や設備に事実があります。見ている商品・現場は1つです。そこにある事実をベースに語ってください

サラリーマンだから本音を言えないというのは逃げている、ごまかしていると思います。上司にだけいい顔をして大丈夫でしょうか。

トヨタは、年間1000万人の新たなお客様に我々の商品であるクルマを使ってもらっています。トヨタやレクサスブランドのクルマを買ってもらう信頼をみんなでつくり上げています。

(クルマをつくるまでに)組立や溶接などいろいろな作業がありますが、信頼の塊で1つの商品ができています。市場とお客様に向き合い、商品の真実・事実に迫った会話をしてほしいと思います。

社長の話に小林番頭と河合おやじが続く。

小林番頭

いろいろな部署が一生懸命仕事をして商品ができる。商品は結果です。真剣に本音で語り合って、商品をつくり上げるのが私たちの任務であり、 商品が正直に本音を語っていると思います。

商品は逃げ隠れできません。お客様に喜んで使っていただいている事実があるならば、私たちは真剣に、本音で、仕事をして、語り合って商品をつくり上げていると言えるのではないかと思います。

今大会の発信拠点となったのは、トヨタグループの役員研修施設・KIZUNA。参加者のほとんどがリモートだったが、3人の登壇者の前には、トヨタとグループから参加した6人の社員が座っていた。

すると、豊田社長は目の前の参加者に「今の話を聞いてなにか思うことある?」と質問。1人の社員が「バッドニュースファースト」の大切さについての気付きを述べると、社長はこうアドバイスをした。

豊田社長

中には、バッドニュースを伝えると嫌な顔をする人もいると思います。(参加者の中で)上司の人は、バッドニュースを伝えられたときの最初の発言を意識してください初動を間違えると、二度と言ってもらえません。それがとんでもない大きな問題につながるので。

「自分はあまり付加価値のある仕事についていない」と思うかもしれませんがそんなことはないですよ。

言う人も勇気がいると思いますが、聞く人が大事です。これは本当にお願いしたい。今のを聞いて、ヒヤっとした人。ゼロではないと思います。明日からの言動に気を付けてください。

部下の人なら、自分が上司になったときに、その初動を心がけてほしいし、嫌な上司がいれば、反面教師にしてほしい。そういう伝統を一人ひとりがつくり出したら、いい会社になると思います。

質問2:失敗への良い向き合い方

その他、上位に上がった質問の1つが「失敗への向き合い方」について。豊田社長は失敗に対してポジティブな見方を示し、積極的に挑戦することの重要性を訴えた。

――「失敗をしてもいい」とお話しされていますが、恐れているのは失敗ではなく、それが許されないこと。つまり、上司や周囲の受け止め方だと思います。上司としての失敗への向き合い方をお聞かせください。

豊田社長

失敗をしているのは、チャレンジしているからです。失敗しないのは目標値が低く、チャレンジをしていない安全な環境にいるからだと思ってください。

以前は「10打数0安打だったら打席に立たない方が評価されるトヨタ自動車」と嫌味を言っていました。

でも、今のトヨタは違ってほしいと思っています。たとえ10打数で0安打でも、打席に立ってくれる人をみんなで応援する風土をつくり上げてほしいと思うんです。

失敗もします。でも失敗して理由を考え続けるうちに成果は出ます。チャレンジし続ける、打席に立ち続けることが大切だと思います。

上司の方にお願いですが、なかなか結果が出ない仕事は多いです。特に今の時代、正解があるわけじゃない。

かつては市場が伸び、1台でも多くクルマをつくり、先頭を走る会社を追えばよかった。ところが、正解がわからないCASEの時代に、分かるまで打席に立たなかったら、完全に世の中から遅れてしまいます。

失敗した人こそ、最初の正解に近づけると思います。是非ともチャレンジをして、失敗はいいことだと思ってください。

失敗したら叱られるでしょう。でもいいじゃないですか。叱っている上司を見ている人も出てきます。

同僚であれば、「上司には叱られたけど、チャレンジしようよ!」「失敗したのはチャレンジした証拠だと社長も言ってたじゃない。応援するから頑張ろうよ!」と声をかけてあげてください。そうすれば、チャレンジする風土が皆さんの職場で少しずつできてくると思います。

続けて、河合おやじが自らの体験を交え、上司の取るべき行動について意見を述べた。

河合おやじ

さっきの本音と一緒で、上司との間柄によっては、なかなかチャレンジもできない。

思い出に残っているのは、自分が組長だったとき、(上司の)工長に「やりたいことがある」と伝えたら、「そんなこと、できないかもしれないけど、やってみろ」と言ってくれたこと。そして、やってみたら大失敗。

工長は課長・部長に報告して、ものすごく怒られていた。でも、僕には何も言わなくて、「見返すために一緒にやるぞ!」と言ってくれた。

1カ月後に成果が出て、部長と課長を現場に呼んで見せつけてくれた。「こんなおやじになりたい」と今でも印象に残っています。

それが本当にうれしかったし、それで自分も部下が失敗しても怒らないと決めた。

「今度は失敗するなよ」とは言うけど、「もう一回挑戦しろよ、任せたぞ」と再挑戦させてあげられる言い方をすると、任せてもらった方は「今度は失敗できない」とすごく頑張ってくれる。そして、成功すると自信になる

上司が部下をしっかり見てあげる、本音で言える環境をつくっていくことを考えないといけないと思います。

これに、豊田社長が補足した。

豊田社長

やってみて、うまくいかないこともあります。でも、決めてやってみるから見えてくることもある。議論ばかりでチャレンジしなかったら次の頂は見えてきません。

勇気を持って続けていった方が、絶対に長い目で見て競争力、実力がつくと思います。部下を持つまでの間にどんな体験をしてきたか失敗の引き出しが多い人の方がいいと思います。

続く後編では、トヨタパーソンが使いがちなNGワード、豊田社長自ら進めてきたコミュニケーション変革、トヨタが守るべき優先順位などのトピックについて取り上げる。

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