「カーボンニュートラル」と「移動価値の拡張」。新経営陣が示した2つのテーマを、一問一答で掘り下げる。
テーマⅡ:移動価値の拡張(モビリティ・カンパニーへの変革)
もう一つ、トヨタがこの日打ち出したのが、「トヨタモビリティコンセプト」。
モビリティ・カンパニーへの変革を進める中で、トヨタが取り組む3つの領域として、「クルマの価値の拡張」「モビリティの拡張」「社会システム化」を挙げた。
電動化、知能化、多様化が進み、クルマが社会とつながることで、トヨタが今後どう変わっていくのか――。出席者からの質問が続いた。
――トヨタモビリティコンセプトの実現を目指す中で、トヨタをどう変えていきたいか? どうなれば、モビリティ・カンパニーへの変革が実現できたと言えるのか?
佐藤社長
自動車産業は今100年に一度の転換期にあります。
これから先も魅力ある産業であり続けるためには、これまで我々が積み上げてきたクルマづくりのコアコンピタンス(企業活動の中核となる強み)をベースに、産業自体がもっとオープンなコミュニケーションをして、社会システムの一部となる進化を遂げていくべきだと考えています。
そのためには産業内連携、産業をまたいだ連携を積極的に実現しながら、社会におけるモビリティのあり方という視点で、クルマの進化を考えていくことが大切です。
原点をクルマに置きながらも「クルマを進化させていくことが我々の使命だ」ととらえ、そのためにやれることを多くの仲間と考えながら、どんどん実践をして、検証、改善をするサイクルを回していく。
そのような取り組みをしたいという想いを込めて、トヨタモビリティコンセプトを示しました。
具体化しなければならないことはまだたくさんありますが、まずは、ベクトルを合わせて前に進み始めたいと思っています。
――商品に軸を置いたときに「継承」に対して「進化」する部分はどこか? 今後の商品にどのような想いを抱いているか?
佐藤社長
一番継承しないといけないことは「トヨタのクルマづくりの哲学」だと思います。
「もっといいクルマをつくろうよ」という言葉に代表されるように、いいクルマ(づくり)には終わりがありません。定義も一つではないと思います。
ただ、一人でも多くの方に安全・安心で楽しく移動いただける乗り物であるという原点を追求していくのは、変わらずやっていくべきことだと思います。
社会が多様化し、お客様の嗜好もどんどん多様になっています。我々は量産を大切にしている会社なので、特定の価値を押しつけるのではなく、多様化するニーズに多様にお応えしていく。
そのうえで、何を進化させていくべきか? クルマの付加価値をさらに高め、追求すべきだろうと思っています。
例えば、クルマは所有していても80%くらいは止まっています。その利活用の頻度、クルマを通じてできる体験価値は、まだまだ限られていると思います。
こういうところに新しい付加価値を乗せていくことで、クルマが持っている可能性が広がり、クルマのあり方が変わります。
今日申し上げたことを、1つ、2つ実現して積み上げていく。これが我々で成し遂げていかなければならない進化だと思います。
未来の付加価値を高めること、クルマの本質的な価値を守り抜くこと。それを「継承と進化」と捉えて取り組んでいきます。
中嶋副社長
BEVでも、HEVでも、ガソリンエンジンでも、ディーゼルエンジンでも、お客様にとって一番重要なことは「乗って楽しい」ということだと思います。
量産を軸足に据えながら、一人ひとりのニーズに応えて、そういうクルマづくりをしていきたいというのが回答です。
今まで私たちは、ハードしか武器を持っていませんでした。
その中で、どうすればより魅力的なクルマができるかチャレンジしてきましたが、これからの時代はクルマのOS化、さらに、さまざまなアプリケーションを融合させることで、お客様一人ひとりにとっての特別な一台を、提供しやすくなってくるのではないかと考えています。
トヨタ自動車の場合、ロングセラーカーと呼ばれるクルマがたくさんあります。(販売が終了した旧車など)もう手に入らないクルマもあるかもしれません。
ですが、ソフトウェアの技術を活用すると、新しいBEVで昔のクルマの乗り味を再現することも可能です。
そういったクルマと人のつながりを過去から未来につなげていくようなソフトとハード両輪でのクルマづくりが今後できる。
これがますます私をワクワクさせています。そういったクルマづくりにまい進していきたいと思います。
――モビリティ・カンパニーとして、社会課題の解決に貢献するとのことだが、ビジネスとしてどのように成り立たせていくのか?
宮崎副社長
工業団地をイメージいただきたいのですが、毎朝、従業員が通勤します。シャトルバスを使う人、自家用車で来る人、それぞれいます。
シャトルバスを使う人は、例えば、スマホで何時にどこで乗りたいかを入れると、カーボンニュートラルのバスが迎えにきて、団地まで運んでくれる。
マイカーで通勤する場合、カーボンニュートラルなクルマに乗る人は、近い駐車場に停める。
さらに再エネを使いながら、どの駐車場が空いているか示すシステムをつくっていく。水素も含めて「つくる」「はこぶ」「つかう」もでき、消防車も救急車もある。
我々の持つテクノロジーを使い、活用できるものをつくり上げていくことができると思います。
これを工業団地の一つでつくれば、港でも、空港でも、いろいろな所に適応できるので、インフラとしてシステム設計、販売など、ビジネスモデルの構築をしていける可能性は十分にあると思っています。
――自動車業界は「生きるか死ぬかの厳しい競争」と言われるが、モビリティ・カンパニーへの変革でトヨタは生き残れるのか? 取引先との仕事のあり方など、自動車産業全体の変革を引っ張る決意は?
佐藤社長
自動車産業には、まだまだ本当に多くの可能性が残されていると思います。私たちが構造改革をする勇気を持って行動できるかどうかだと思います。
我々の進んでいく道筋は、自動車産業の構造を改革しながら、クルマの持つ付加価値を高めていくこと。
あるいは、クルマが社会システムと一体化することで新しい価値を創造していくこと。
そうやって自動車産業がこれまでの産業構造から一歩外へ出て、多くの連携をしていくことが、今後も未来に期待が持てる産業としていく唯一の手段だと思っています。
多くの方々と必ずや自動車が魅力ある産業になるよう、一歩ずつ、一つずつ、変えていく努力をしていきたいと思います。