メディアより一足早く行われた従業員向けの方針説明会。そのQAセッションは台本なし、NGなし、忖度なし? 数々の質問に新体制の8人が本音で答えた。
佐藤恒治社長らが、新体制の掲げる会社方針を示した7日、記者からはBEV(電気自動車)戦略やモビリティ・カンパニーへの変革に向けた取り組みなど、さまざまな質問が飛んだ。
その説明会に先立って、トヨタ自動車本社では3日、社内向けにも方針説明が行われていた。
7日と同様、佐藤社長や中嶋裕樹、宮崎洋一両副社長の3人がプレゼンテーションを実施。その後に行われたQAセッションでは、メディアとの質疑応答とはまた違った、“身内”だからこそ聞きたくなる直球の質問が寄せられた。
果たして佐藤社長をキャプテンとする、新体制のメンバーはどう答えたのか。トヨタイムズでは、和やかな雰囲気に包まれたQAセッションの様子をお伝えする。
北米から小川本部長、中国から上田本部長も参加
壇上に現れたのは、佐藤社長のほか、中嶋、宮崎両副社長、サイモン・ハンフリーズCBO(Chief Branding Officer)、長田准CCO(Chief Communication Officer)、新郷和晃CPO(Chief Production Officer)。また、北米本部の小川哲男本部長、中国本部の上田達郎本部長が中継で参加した。
司会の富川悠太キャスターに紹介され、6人がステージに並び、2人がスクリーンに映し出される。
「ざっくばらんな質問をお待ちしております」。富川が水を向ける。周囲の出方をうかがう空気を破って、一人の手が上がった。その質問とは…
「自分たちが頑張れば、クルマの未来が変わるかもしれない」。そのど真ん中にいるってワクワク
――これからのこと、すごくワクワクしていて、ワクワクをもっと広げるためにも、皆さんが今一番ワクワクしていることを、ぜひお伺いできればと思います。
富川キャスター
皆さん、ワクワクしていることは何でしょう。恒治さんからいきましょうか?
佐藤社長
もう毎日が、未知との遭遇の連続なので、ドキドキ、ワクワクしています。
今、クルマのあり方が変わろうとしていて、その時代の真ん中に我々がいると思うと、「自分たちが頑張って何かをやれば、クルマの未来が変わるかもしれない」と。
そのど真ん中にいる感じは、やっぱりワクワクですね。
登壇者からは、新しい布陣、新しいメンバーで「もっといいクルマづくり」へ挑戦できること、コロナ禍の行動制限が緩和され直接出会えることといった回答が続く。
そんな中、説明会の数時間前に同会場で開催された入社式の様子を見て、自身が入社した当時に想いを馳せたのは、新郷CPO。
新郷CPO
今日の午前中、この場で入社式があったんですよね。皆さんと同じぐらいの人数がここに座っていて、目を見ると、本当にキラキラしていて。自分が会社入ったころのことも、思い出すんですよね。
また新しいメンバーで一緒になって、これから新しいチャレンジをやっていけるのが、本当にワクワクしています。
富川キャスター
ありがとうございます新郷さん。恒治さん、やっぱり(新郷さん)爽やかですね。
佐藤社長
いや、もう本当にね、唯一の爽やかキャラですからね。
そのやり取りに、すかさず自分も爽やかだと自身を指さしてアピールする中嶋副社長だったが、「大丈夫です。みんな分かってると思います」と佐藤社長は笑顔で一蹴。
2人のやり取りに会場の空気が和んだのか、徐々に手があがり始める。
「究極のモビリティ」とは
未来創生センターから会場に足を運んだ従業員は、5年、10年後を考えて人の役に立つロボットを研究開発しているという。
そんな研究者からの質問もまた、未来を見据えたものだった。
――お伺いしたいのは、「皆さんにとって理想のモビリティっていうのはなんだろうか」ということです。究極のモビリティとして、「どこでもドア」みたいな動かないこと、オンラインでのトークもモビリティの一種なんじゃないかと思っていて、そういう中で実体のあるクルマをつくっている。「究極のモビリティ」とはどういったものでしょうか?
中嶋副社長
究極のモビリティというのは、人それぞれに回答があるんではないかと思います。
人や物や情報がボーダレスで動いていくということ。このMoveがモビリティだと認識しています。
クルマに乗ってワクワクドキドキするというモビリティもあるでしょうし、今おっしゃっていただいたように、「情報という形で伝わる」といったこともモビリティかもしれません。
皆さんの定義があると思いますけど、(トヨタは)それを一緒になって実現していく、良い会社だと思っています。
佐藤社長
今の投げかけって、すごく根源的な「Moveってなんだ」という質問で、ブスっと刺さりました。
動いているのは自分じゃない時代が来るかもしれない。環境のMoveっていうのをモビリティの概念の中で考えたらどうかっていう投げかけだと思うので、ぜひ一緒に考えましょう。
富川キャスター
モビリティと考えていくと、サイモンさん、デザインのことも関係してくると思うんですが。
サイモンCBO
今の質問の答えは多分、全員に聞くと、全員違う答えが出ると思うんですよね。結局好みなんですよ。僕らの仕事はどうやってその好みに応えていくか。
この難しい課題に対して、それぞれの人が「こうなると良いな」という考えを持っていれば、質問の答えは出てくるんじゃないかな。optimistic thinking(楽観思考)ですが、そういうことを考えています。
「Mobility for All」は道半ば
――海外(戦略)について今後の方向性について伺いたいと思っています。継承と進化の観点で、進化の部分に関しては、今までと何が違って、今後力を入れていくところがあれば教えていただきたいと思います。
こう問いかけたのは、海外出向の経験もある従業員。宮崎副社長と地域CEOである小川、上田両本部長からは共通の課題感が示された。
富川キャスター
宮崎さん、地域軸経営の観点からいかがでしょう?
宮崎副社長
ここまで各地域がバランスよく、ミックスできるように伸ばしてきたんですけれども、「Mobility for All」と言っておきながら、カバーできていない方々が、まだいろんなところに残っていらっしゃるのが、今の実態だと思うんですね。
我々新車を販売して何となく満足した気持ちになっているんですけれども、自分たちがケアできていない人たちが、グローバルにどれだけ残っているか、もう一回考えなきゃいけないなと思っています。
「Mobility for All」というと、「いつでも」「どこでも」「みんなが」(という言葉)がつかなきゃいけないと思う。どんなシチュエーションにおいても、移動を支えるようなことをやっていかなきゃいけない。
まだまだやり残しているエリアがいっぱいあるので、今後、モビリティ・カンパニー(への変革)に向けて、チャレンジしていきたいと思っています。
ただ、これは本社が考えていても、地域(の実態)は見えないので、やっぱり地域の皆さんが「こういうモビリティを必要としているよ」「こんな人たちをサポートしたいよ」というのを、どんどん本社に言ってもらって、本社はそれにしっかり応えていくことを、やらなきゃいけないんじゃないかなと思っています。
宮崎副社長は続けて、さまざまな地域と情報のやり取りをするうえで、小川、上田両本部長の存在が「本当にありがたい」と語った。
富川キャスター
せっかくですから、お二方から一言ずつ進化についてどう考えているのかお聞きしましょうか。小川さんいかがでしょう?
小川本部長
今宮崎さんがおっしゃった「Mobility for All」の「All」の部分は、まだまだだと思います。
北米で取り組んでいるところとしては、ロボットタクシー、あるいはJoby * も西海岸にありますので、トライする領域は、まだまだあると思っています。
*Joby Aviation社、トヨタと協業して電動垂直離着陸機の開発・実用化を進めている。
富川キャスター
小川さんありがとうございます。アメリカもそうですけど、中国では上田さん、いかがでしょう?
上田本部長
先ほど宮崎さんが言われた通り、今までは「中国でのトヨタの進化をどうするか」と考えたとき、日本で日本人が企画したものが中心になっていたかと思います。
豊田新会長が社長時代からずっと地域軸経営をやってきて、新体制でやっと中国人が中国で「自分たちの進化とは何だ」と提案できる土壌をつくっていただいたと思っています。
今度は我々がしっかりと「ここは我々がやるので、本社はここを助けてください」と言えるような地域にしていきたいと思っております。
富川キャスター
やはり「町いちばん」を目指すにあたって、継承という土台があるから進化できる。継承ありきの進化だというのが伝わってきましたね。