水素カローラがスーパー耐久選手権(S耐)で走り始めて3年。水素社会の実現に向け、2024年のS耐最終戦で発表された新たな取り組みとは。
実証実験が進む水素テクノロジー
水素貯蔵モジュール、燃料電池(FC)小型トラック、大型トラック、船舶での水素エンジン利用、FCバス高速輸送システム(BRT)、FCゴミ収集車、FC救急車、水素を活用した発電とさまざまな分野で実証実験が進められている水素テクノロジー。
このS耐の最終戦で新たに進化した技術として紹介されたのが、世界初となる水素エンジンのハイブリッド化だ。
2023年のS耐最終戦でお披露目された水素エンジンハイエース。V6エンジンにターボを積んで水素を燃焼させて走るこのクルマはオーストラリアで1年間の実証実験が進められてきた。
現地で使ったお客様からは「非常に使いやすい」、「振動も少ない」などAcceptable(容認できる)という意見だったという。
一方で課題として上がってきたのが水素ステーションの少ない現状では、航続距離が短いために給水素が心配という声だ。
その課題の解決に向け、つくられたのが今回発表された水素エンジンハイブリッドのハイエースだ。
トヨタハイブリッドシステム(THS)と水素エンジンを組み合わせることにより航続距離を従来から25%アップさせ250kmに。モーターのパワーで加速性能も25%アップさせた。
公開された水素エンジンハイブリッドハイエースは、短期間での開発、評価を行うための試作車で、今回は助手席にバッテリーを搭載しているが、商用車として、使い勝手で改善する点は様々あり、今後、改善、開発を進めるという。
この助手席を潰さないようにするためのバッテリーパックの小型化や再配置が今後の課題だという。
さらに、このクルマはただハイブリッド化しただけではなく、水素エンジンで出てしまう微量の窒素酸化物(NOx)をディーゼルエンジンで培った触媒のテクノロジーで抑え込み、規制値を満足させることが可能となった。
このハイエースの実証実験をオーストラリアで続ける理由について、中嶋副社長はこのように説明する。
中嶋副社長
オーストラリアは右ハンドルで、日本車とも親和性が高く、水素もたくさん獲れる国です。
オーストラリアの商用の現場で実証を行っていますが、街中から郊外に出るとすぐに舗装されていない道があり、砂漠地帯も近くにあるので砂埃もたくさん出ます。
日本にはないタフな環境下で、水素エンジンにどのような影響があるのかを確認することができます。新しい技術を評価し、鍛える場としてオーストラリアの過酷な環境こそが非常にいいと思っています。
水素の積載量を増やすために
そして、このクルマの航続距離をさらに伸ばすための技術が2023年にテクニカルワークショップで発表された異形水素タンクやS耐で水素エンジンカローラが使用する液体水素だという。
中嶋副社長
現在のタンクは圧力を均等に掛けるので、円形ですが体積効率がよくありません。円筒形なので四隅は捨てられてしまっています。
現在のタンクだと円形なので幅も決まってしまいますが、幅に余裕があるのであれば、楕円にした方が効率がいいとか、小さなタンクをたくさん並べた方が効率的ということもあると思います。
もっと航続距離を伸ばすためには、水素の充填量を増やすことになります。そこが大きな課題となります。
これは、本当に難しい技術なのですが、気体のタンクをより体積効率を良くした形に出来るように一生懸命やっています。
もうひとつは、液体水素という方法もあると思います。液体水素は気体よりも体積効率が良い。今、S耐の水素エンジンカローラでも液体水素を使っていますので、これは次のステップとして真剣に考えております。
液体水素は非常に低温で貯蔵しなければならないので、魔法瓶のような構造をしています。
圧力は低いのですが、断熱性を上げるために断熱材で厚みを増さなければいけないので、そうなると水素の充填量が限られてしまいます。
液体水素はイメージとしては大きなトラックから活用していくのかなと考えていますが、異形タンクと魔法瓶の構造というのが、次の大きなチャレンジになると思っています。
水素を大量に消費するトラックで水素をつかってもらえれば、水素ステーションが安定稼働できるようになります。
そうなれば、その水素ステーションを我々の乗用車で使わせてもらえるようになるので、まずは社会インフラが安定して成長していける環境をクルマ側からも一生懸命アプローチします。
一方で水素を運ぶカートリッジもできてきましたので、水素ステーションでクルマに給水素する以外にもカートリッジに充填させて、港に運んで船舶に積むなど、水素自体をはこぶということと合わせて、ハブとなる水素ステーションから近隣にはこぶことを考えています。
もうひとつは水素で発電するということです。水素はためることができます。残念ながら再生可能エネルギーがまだ、たくさん捨てられているという問題があります。
再生可能エネルギーを一旦、水素にし、それを運び別の場所でつかってもらう。
そのために水素自体をつくったり、水電解で水素をつくるといった取り組みも行っていますし、水素で発電する取り組みも行っています。
まだまだ規模は小さいですが、エネルギーの乏しい日本としては、水素は究極のエネルギーだと思いますし、時間が掛かっても、皆さんのご協力を得ながら一歩ずつ、歯を食いしばって進めていきたいと思っています。