水素カローラがスーパー耐久選手権(S耐)で走り始めて3年。水素社会の実現に向け、2024年のS耐最終戦で発表された新たな取り組みとは。
水素で走るクルマは、当初、爆発のイメージが付きまとい、とにかく危険な燃料を積んでいると思われていた。そんな中、モリゾウこと豊田章男会長が自らスーパー耐久選手権(S耐)でステアリングを握り、レースをして、水素のイメージを「爆発・危険」から「未来」へと変えてきた。
レースに合わせた開発で加速する水素社会
2024年11月16日、17日に富士スピードウェイで2024年S耐最終戦となる「第7戦 S耐ファイナルFUJI 大感謝祭」が行われ、予選の合間にあったメディア懇談会で豊田会長はこのように話した。
豊田会長
水素社会をつくろうと、いろいろなインダストリーが、それぞれに思いを持ってやってきていますが、S耐のST-Qクラスでレースをしながらやることで、サポーティング企業は、当初6社ぐらいだったのが、今では30社近くになっていると思います。
そういう意味で、「未来はみんなでつくるもの」というのが、レースに出ることによって進んでいるんじゃないかと思います。
年に何回かレースがあります。そうすると、開発の納期が決まります。納期が決まると、そのときまでに水素の充填の量をどうしよう、最高速度をどうしようとか、いろいろな開発目標がアジャイルに出てきます。
それをレースで競争しながら、今どこにいるのかが見えるというのが、わかりやすいんです。
国の方も、規制のスピード感ではちょっとまだお互い相いれないところはありますが、水素社会へかつてないほどの協力関係ができています。
スピードが課題だと思います。こういうこと(水素)を最初に始めた日本が、気がついたらとっくにどこかに抜かれていたということにならないように、いろいろな方から応援いただきたいなと思います。
この懇談会に同席したトヨタ自動車の中嶋裕樹副社長と宮崎洋一副社長もこのように続ける。
中嶋副社長
まさにレースを主軸に、(水素を)「つくる」「はこぶ」「つかう」の「つかう」ところを、モリゾウ選手が本当に体を張ってやってくれたと思います。
「はこぶ」でも、最初は全然運べなかった水素が少しずつ運べるようになり、経産省の後押しもあって、だんだんその量が増えていきました。規制との戦いもありました。やればやるほど、次の山がまた見えてきます。
次の納期までに何をしようかと開発陣が考えてくれますので、モータースポーツの場で、結果として「はこぶ」(が進化していく)。
「つくる」についても、水電解で水素をつくる取り組みをグループ多くの仲間とやっています。
思い起こしたのは3年前。たった3年で大きなムーブメントになったというのは、今日お集まりの皆さんの力強いサポートがあったからであり、それに応えようという開発者の意気込みがあったからだと思います。
宮崎副社長
水素社会に向けて、水素の値段を下げていく取り組みをしなきゃいけないと思っています。
国の皆さんのお力添えをいただかなくてはいけませんが、規制とあわせて、いかに効率よく水素をつくっていくか。
どうやってうまく運ぶかを自治体の皆さんの協力をいただきながら、いろいろなところで、さまざまな観点で今、実験・実装をさせていただいています。
海外に量では負けてしまいますが、日本で水素の値段を下げる取り組みをしっかり手の内化して、海外に持っていき、日本のテクノロジーと知恵で水素社会を切り開いていく取り組みにしていきたいと思っています。
CNの選択肢はお客様が決める
この懇談会のなかで、メディアからカーボンニュートラル(CN)の選択肢と水素社会実現へ向けたスピードアップのために必要なことを聞かれた豊田会長はこのように答えた。
豊田会長
(CNの選択肢は)お客様と市場が決めることだと思います。我々は選択肢をたくさん用意する体力を身につけることができました。
いろいろな選択肢を提供できていますが、どこの会社でもできるわけではないので、何がいいとかではなく、その国のエネルギー政策、インフラの整備、エネルギー価格の中で、市場とお客様が(選択肢を)決めて未来をつくっていくことが大事だと思います。
国によって異なるCNのソリューション
会場には、経産省経済産業政策局審議官の河野大志氏の姿もあった。4年前まで経済産業政策局で自動車課長を務めていた河野氏は、司会から話題を振られ、このように話した。
河野氏
豊田会長がおっしゃった通り、エネルギー政策は国の置かれている地政学的条件によって、最適なソリューションが変わってくると思っております。
日本にとって最適なソリューションが他の国にとって最適ではないと思いますし、他国の採用する施策が日本にとって最適だとは思っていないという前提で考えていかなければいけないと思っております。
CNの方向性は確固たるものがあると思いますが、国によって考え方が異なってしかるべきで、私が自動車課長をやっているときから、CN化のやり方はそれぞれあっていいという前提で我々は政策をこれまで組み立ててきましたし、今後もその方向性は変わらないと思っています。
どの技術が最終的に採用されるかは、イノベーションの競争だと思いますし、市場が選択をすることになると思いますので、その舵取りを短期的な視点よりはむしろ中期的な視点も入れながら、考えることが大事だと思っております。
水素に関しては、まさにそのスピード感が大事ということだと思っております。どこでつくり、どこにはこび、どこにつかうという地理的な特殊性が出てくると思いますので、クルマ以外も含めた利用の裾野を広げるチームをつくっていただいて、その一定程度の価格差を中期的に見るという前提で、プロジェクト化をしていく。
その拠点も整備していきつつ、必要な規制も緩和して政策資源を集中していくことを考えたいと思っております。