肩書でなく役割で選ばれたトヨタグループの現場のリーダーたちが一堂に集結。「責任者として変革をリードする」と宣言した豊田章男会長との本音の対話をレポートする。
板挟みにあう中間層へのアドバイス
――現場のリーダーも現場と経営、グループや関連会社の中間に立っている人たちも多いと思います。右往左往して悩んでいる人へのアドバイスをください。
豊田会長
非常にシンプルで「自分は何がしたいのか」です。
組織やビジョンは羅針盤として必要ですが、船を動かすのは自分。だから、「どんな人になりたくて、何がしたいの? 何をしていると幸せなの?」と自分に語りかけてみてください。
中間層のリーダーは、自分を見失っている時間が多いと思いますが、将来、もっと大人になった自分から今の自分が褒めてもらえる行動をすればいい。誰かに評価されなくても、その方が自分の軸もできてくると思います。
組織や会社方針なんて、時の権力者が決めているものです。1年ごとに変わったりもするでしょう? 振り回されていたら、やってられませんよ。
会社に属してやっている以上、ルールはあります。だけど、何をするかは自分の心に聞いてあげた方がいい。そうやって今日から生活してみてください。見え方が変わるかもしれません。
孤独との向き合い方
――日本にはかつて「切腹」という「死んで責任を取る」文化がありました。ですが、章男会長は「生きてこそ責任が取れる」と考えて、こういう場も設けてくださいます。一方で、「孤独感」という言葉もよく聞きます。それはときに敵意も生んでしまうと思います。そのはざまで心を開くことに葛藤はないか、どう向き合ってるのか教えてください。
豊田会長
難しいこと聞くね(笑)。切腹じゃなくて、生きざまを見せることの方が大事な気がします。
私自身、「あなたにはできないでしょう?」というレッテルを貼られてきた。「早く社長を辞めて、赤字の責任を取りなさいよ」と言われてきたような社長だったので、言葉を選ばずに言えば、見返したいと思いました。
ただ、何度も何度も心が折れるんです。孤独です。
そうしたときに、一部の誹謗中傷者を世間と見るか、そうではなく、サイレントだけど自分の生きざまを応援してくれている人を世間と見るか。
私がやっていることは、世間の常識とは外れていて、ちょっと異常だと思います。だけど、共感してくれる人も多いんです。
モータースポーツの現場に行ったときに出会うモリゾウファンもそうだし、トヨタの商品に対して「ありがとう」と言ってくれる人も増えました。
今、モリゾウの人気と強い商品があるときに、トヨタグループを心ひとつにしなければならない。世間から「一緒に未来をつくっていきましょう」と言ってもらえるリーダーがたくさん出てくることが必要で、それが私の仕事だと思っています。
そうは言っても、孤独はつらい。そんなとき、1人になれる場所と友人が必要です。会社の人は無理ですよ。基本的に自己中ですから(笑)。会社とは関係のない友人を持つこと。
やりたいことがわからない部下との向き合い方
――部下に「自分がやりたいことがわからない」「答えがない仕事はできない」と言われたことがあります。私なりに相談には乗っていますが、ちょっとしんどいな…とも思います。やりたいことを見つけてもらうにはどうしたらいいでしょうか?
豊田会長
まず、自分の上司目線を捨てることです。人間と人間で、相手に興味を持ってあげて、自分に興味を持ってもらうこと。
「やることがない」と言っても、毎日24時間、生活しているわけです。「週末は何をしているの?」と相手に興味を持つ。「それって楽しいの?」「私にも教えてよ」と聞いてみる。
絶対どんな人にも自分の得意分野や好きなことがあるんです。寝ていることが趣味の人もいます。
でも、「何時間寝ているの?」「え、10時間?」「夢は見るの?」「どうしてそんなに寝続けるの?」と聞く。それがスタートだと思います。仕事として聞くから「やることがない」となってしまう。
もう一つはその仕事に興味が持てないんです。だから、興味が持てる仕事にしなきゃいけない。
24時間のうち、ほとんどの時間を会社に費やしているんです。それを単に「仕事だから」と追い詰める権利は誰にもないと思う。
それよりも自分から「おもしろい」と思えるよう、魅力を引き出してあげることが重要な気がします。ぜひ、上司目線を捨て、自分が興味を持つという姿勢を見せること。そうすれば、変わってくると思いますよ。