肩書でなく役割で選ばれたトヨタグループの現場のリーダーたちが一堂に集結。「責任者として変革をリードする」と宣言した豊田章男会長との本音の対話をレポートする。
“素人”への期待
――トヨタ不動産で、富士スピードウェイホテルの担当をしています。私たちとしても初めてのプロジェクトで、へこむことも多いです。仲間を鼓舞するためにも、会長が期待していることを教えてください。
豊田会長
どういうキャリアなの?
(元々グループの会社で給与計算をやっており、人事として入社。その後、事業部に異動しました。)
だったら「自分は素人だ」と思うことです。お金の計算や人のマネジメントは学んできたけれども、ディベロッパーの仕事は素人だと思ってください。
昔、ある上司に「素人は『知ろうと』思えばいいんだ」と言われたことがあります。「知らないから知りたい」と思うことを出発点にすればいいんです。
「ディベロッパーの仕事って何だろう」と知ろうとしたらいいんじゃないのかな?
富士スピードウェイホテルにはどんな人が泊まっているのかな? どんなものを食べているのかな? 会長(私)は何日泊まっているのかな?
私が泊まっているときに何をしているか、答えられます?
(すみません。答えられないです)
トヨタ不動産の出発点はそこ。今までは、グループのホールディング会社、グループへの賃貸ビジネスという2本の柱がありました。そこに、山村(知秀)社長と私が、ディベロッパーという新しい柱を立てようとしています。
そこに対しては、素人集団だけど、「素人でもいいじゃないか」と思っています。素人が知ろうとしてやったことには、今までの不動産会社と違った味が出てくるはず。
だから、まず自分の好奇心からスタートしてほしいと思います。
挑戦する人への助言
――私が入社したころ、上司や先輩に「お客様第一」と言われ続け、モノづくりをすごく大切にしてきました。ただ、職制になって業務や納期に追われ始め、その言葉を置き忘れてしまっていた気がします。会長は過去に置き忘れてきたものはありませんか?
豊田会長
置き忘れてきたものはありません。ただ、間違いばかりしてきました。でも、その実績が危機対応における引き出しをつくってくれたと思います。
失敗したら、勉強できたと思えばいい。とんでもない失敗だけはしないように。
そういうと、プレッシャーになるでしょ(笑)。だから、これだけはしないというルールをつくることでしょうね。人を不幸にしたくないとか。
納期は重要だけど、もっと大切なものもあるはずですよね。きっと今の立場でそんなことを言っても、誰も話を聞いてくれないと思うし、「納期を守るのがあなたの仕事だろう」と言われるでしょう。
今は飲み込むしかないかもしれないけれど、自分がもうちょっと上の職制になったら、同じことをしないようにと思うこと。
それが、職制になったとたん、やられたことを倍返しする人がいるんです。そういうリーダーにはなってほしくない。
自分が誰かの役に立ちたいという気持ちさえあれば、絶対にチャンスが来ます。68年生きていてそう思うんだから、その実績を信用してください。
チャレンジすれば失敗する。でも、失敗はチャレンジしている証なんです。目標設定も低く、絶対に達成する目標をつくっていても、ほとんど成長はしていない。
長い目で見て正解に持ってくことを考えてみてはどうでしょうか。