「新しいカタチのスポーツSUV」として登場したクラウン スポーツ。同車における「もっといいクルマづくり」のためのさまざまな挑戦について、開発メンバーに話を聞いた。
2人の若手の奮闘により実現した、アシンメトリーな内装
「乗って」“WOW”を感じてもらえるよう挑戦したのが“アシンメトリーな内装”だ。クルマ開発センター カラー&感性デザイン室に在籍し、内装の表面処理や表皮のデザインを担当した小林愛理に、まずアシンメトリーな内装のコンセプトについて聞いた。
小林
クラウン スポーツの外形デザインはスポーティでありながら、優雅に見えたり、セクシーな印象を受けたりするので、内装でも同様の要素が感じられるようにつくり込みました。
クラウン スポーツでは、ドライバーはもちろんのこと、助手席のパッセンジャーもワクワクするようなスポーティかつエレガントな内装というテーマのもと、左右非対称のカラーを採用。
コックピットは運転へのコンセントレーション(集中力)を高める黒い内装とし、助手席には、おもてなしの意味を込めて華やかなレッドの表皮を用いることで、特等席のように仕上げた。
特に小林がこだわったのが、センシャルレッドと名づけられた赤色の表皮だという。表面に光輝材という材料を混ぜることで、パールが入ったようにオレンジ色に光るのが特徴だ。
小林
クラウン スポーツの赤いボディカラーは陰影が印象的ですが、内装の表皮も同じように美しい陰影が出るのが魅力です。
一方、車両設計部に籍を置き、クラウン スポーツの内装設計を担当した山本彩加は、この表皮の難しさについて、以下のように語る。
山本
私の仕事は、デザイナーの目指す意匠を実現するために、部品の成形から、生産ラインでの組みやすさや安全性まで、さまざまな要素を考慮しながらカタチにしていくことです。
今回の赤い表皮では、試作段階でダッシュボードの曲面にシワが発生したり、鋭角な形状の部分が白化したりするなど、さまざまな問題が発生しました。
表皮を内装部品に貼り込む工程は、仕入先となる会社様に担当していただくのですが、協力を得ながら、現地現物で試作を繰り返しました。
山本たちは、表皮となる合成皮革の繊維に着目し、編み込みの強度を緩めたり、糸の太さを変えたりして表皮自体に伸縮性を持たせることで、シワや白化が発生しない最適なポイントを探った。
同時にデザインチームからも協力を得て、シワが発生するダッシュボードの曲率を、奇麗な意匠をキープしながら緩やかにしてもらうなどのトライアルを繰り返し、安定的に品質を担保できるような形状に調整したという。
そうした地道な作業によって、深い陰影が印象的な赤い表皮を用いたアシンメトリーな内装色が実現したのだ。
山本
従来のクラウンは年齢層が高い方が乗るイメージでしたが、クラウン スポーツの内装を初めて目にしたときに、若い男性や女性にとっても魅力的な意匠だと感じました。
この赤い表皮のアシンメトリーな内装をなんとしても形にして、お客様にお届けしたいとの想いで開発に取り組んできました。
お客様にタイムリーに商品をご提供すべく、開発期間にこだわり、チャレンジングな業務を推進したことにより、自身の成長にもつながりましたし、実現できて本当に安心しました。
驚くのは、デザイナーの小林も、内装設計の山本も入社5年目であり、新型車のプロジェクトを担当するのは今回が初めてということだ。そんな若手でもチャレンジができる空気が、現在のクルマづくりの現場にはあると、2人は口を揃える。
小林
トヨタ車のなかでも歴史があるクラウンということで、保守的にもなりかねないのですが、もっと新しいことに挑戦していこうという意識が部署を問わずあって、私たちのような若手でもチャレンジがしやすいと感じています。
山本
クラウンのプロジェクトチームは、ワンチームとして一体感があるんです。
業務の効率化を図りながらよりいいクルマをつくるために、一緒に力を合わせてさまざまな困難に挑戦していこうという想いを、部署を越えて共有できているからだと思います。
後編では、「走って」“WOW”を目指してこだわった「上質でありながらもワクワクするような俊敏な走り」を実現すべく力を合わせたシャシー設計エンジニアと評価ドライバーの挑戦をピックアップ。
さらに車両全体の開発とりまとめを務めた本間裕二への取材を通して、クラウン スポーツにおける「革新と挑戦」について掘り下げていく。