新しいセンチュリーの開発責任者およびチーフデザイナーによる開発インサイドストーリー。今回は、実車を前に「継承と進化」についてさらに掘り下げていく。
「ショーファー8割、ドライバー2割」をどうカタチに?
歴代センチュリーから継承すべき点として、ショーファーカーとしての乗り心地、静粛性にもとことんこだわり、持てる技術の全てを注ぎ込んだと、田中は胸を張る。
例えばボデー構造。一般的にSUVやミニバンなど乗員スペースと荷室が一体化し、バックドアの開口部が大きなハッチバック車は、セダンと較べて乗り心地や静粛性において不利だとされている。
乗り心地や走りの基本となるボデー剛性(強度)を確保するのが難しく、タイヤが発するロードノイズなども車室に侵入しやすいからだ。
田中
新しいセンチュリーは、外観はハッチバック車のようですが、実はボデー骨格構造としてはセダンに近いです。後席の背後には荷室とのパーティションとなる室内ガラスと、骨格構造が存在するからです。
その結果、高いボデー剛性が得られ、優れた静粛性やなめらかな乗り心地を実現しました。また、室内ガラスにより路面や荷室から侵入するノイズを抑えることもできました。
私たちには、VIPの方に荷物と同じ空間に乗っていただきたくない、荷物の出し入れで室内の温度を変化させたくないという想いもあります。その意味でも、このクルマがセンチュリーを名乗るうえで、パーティションは必要不可欠でした。
セダンと同様の骨格構造による高いボデー剛性は、「ショーファー8割、ドライバー2割」という豊田章男会長(当時は社長)の助言を具現化するうえでも重要だったと、田中はいう。
田中
強固なボデーを基本に、しなやかなサスペンション、余裕のあるPHEVのパワーユニットなど、とても性能素性の良い車両に仕上げています。
運転することも大変楽しいクルマですので、開発責任者として、ドライバーズカーとしてもドライブを堪能していただけると自信を持っております。
園田
例えば、これはミッドブラウンという茶系の内装色ですが、ステアリングにもカラーコーディネーションしています。
これはほんの一例ですが、意匠面においてもオーナードライバーの方にご満足いただけるよう仕上げました。
プロジェクトに関わったすべての人に、感謝……
新しいセンチュリーの開発を終えた今、田中と園田は、協力会社も含めこのプロジェクトに関わったすべての人に対し、感謝の気持ちしかないと口を揃える。
田中
センチュリーを創ることは、一切妥協をしないということ。 困難な課題も生じます。
先ほど園田が、Aピラーのキャラクターラインやアクリル製グリルなど、実現が難しいと思われた意匠を、生産技術側からの提案で解決した話をしました。今回のプロジェクトにはこのような事例がたくさんあります。
トヨタには「人中心」という思想がありますが、クルマづくりに携わる一人ひとりがどれだけお客様を想い、力を発揮するかによって、クルマの魅力は大きく変わってきます。
だから、新しいセンチュリーに携わった全ての人に、感謝の気持ちを伝えたいのです。
園田
昔は開発やデザイン、生産といった部署間にセクショナリズムという壁が存在しました。しかし、現在は存在しません。
今回のプロジェクトでも、「みんなで本当にいいものをつくろう」という共通の想いでつながっていると実感できました。
豊田会長が副社長時代から唱えてきた「もっといいクルマをつくろう」という想い。新しいセンチュリーの開発現場を見るに、この極めてシンプルな言葉が、クルマづくりに携わる一人ひとりに、着実に浸透しつつあるようだ。