篤志家の「利他の精神」と「人間愛」で発展してきた日本の更生保護。制度75周年の記念講演にトヨタの早川茂副会長が登壇。「人間と人間のぶつかり合い」だった豊田章男改革について話した。
保護司という仕事
読者の皆さんは「保護司」と聞いてピンとくるだろうか?
更生保護、つまり、犯罪や非行をしてしまった人が善良な社会の一員として自立し、立ち直っていけるよう、地域で支える民間ボランティアである。
日本の更生保護は「慈愛の心」に基づく明治時代の免囚保護事業をルーツとし、戦後、現在の制度の骨格がつくられた。
そこから現在に至るまで、「利他の精神」と「人間愛」にあふれた篤志家の努力で制度として発展している。
欧米の多くの国では、もっぱら保護観察官などの専門職が更生の指導をしているのに対し、日本では、ボランティアである保護司が保護観察の実施者としてその大部分を担当。
犯罪や非行から立ち直ろうとする人たちと家族のような関係を築き、地域社会の中で、長期にわたって立ち直りに関わっている。
世界に類を見ない官民協働態勢を築き、安全・安心で、誰ひとり取り残さない社会づくりを行う仕組みは、諸外国からも注目を受けている。
だが、保護司の仕事も、近年は担い手の減少と高齢化が深刻になっており、今年1月1日現在、60歳以上が78.3%に。「持続可能性」が重要な課題となっている。
そんな中、10月2日、都内で更生保護制度施行75周年を記念する全国大会が行われ、トヨタの早川副会長が演台に立った。
会を主催する法務省保護局 押切久遠局長はトヨタに講演を依頼した理由を次のように話した。
「トヨタ自動車様は、更生保護とも大変ゆかりの深い企業であられ、昭和12年の創業からしばらく、何人もの役員の方々が司法保護委員や保護司を務めてくださっていたほか、平成の時代には、豊田章一郎様らが日本更生保護協会の理事長を務めてくださり、現在も、愛知県をはじめとする全国各地で、トヨタグループ様が更生保護に対する多大なご支援を展開してくださっております。もしかすると、トヨタ自動車様の理念や活動と更生保護のそれとは、相通じるものがあるのではないかと私は考えております」
「あらゆる業界・分野で『持続可能な発展』がキーワードとなっている昨今、(中略)更生保護制度の今後を考える上で、私どもに大きな多くのヒントをいただける貴重な機会になるものと期待しております」
テーマは「豊田章男の挑戦 トヨタらしさを取り戻す闘い」。一人の人間として、一人の人間に向き合う更生保護関係者へ届けられたメッセージを紹介する。
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