篤志家の「利他の精神」と「人間愛」で発展してきた日本の更生保護。制度75周年の記念講演にトヨタの早川茂副会長が登壇。「人間と人間のぶつかり合い」だった豊田章男改革について話した。
優しい心と考える力
商品を変える。働く人たちの心を変える。これが豊田章男改革の2本柱だったと思います。
この取り組みが結実するときがまいります。2020年のコロナ危機です。
世界経済、自動車販売の落ち込みはリーマン・ショックをはるかに上回るものでしたが、それでも、トヨタ自動車は赤字に陥りませんでした。
そして、迎えた5月の決算発表。今後のことなど、到底見通すことができない状況ではありましたが、全世界販売800万台、営業利益5,000億円という一つの「基準」をお示しいたしました。
そこには、豊田章男の強い意志がありました。
自動車はみんなでやっている産業。先が見えず、不安なときだからこそ、みんなが前を向いて仕事をするための「基準」が必要になる。それを示すのが我々の使命だ。
豊田の想いを受けて、トヨタ自動車の現場が自らの意志で動き出しました。
昼夜を問わず働かれている医療機関や地域の人たちのお役に立つものをつくろう。
その一心で、マスクや、フェイスシールドの生産を行い、さまざまな現場の支援に向かう仲間の姿がありました。
その年の株主総会で、豊田が当時の心境を語っておりますので、こちらの映像をご覧ください。
豊田章男が取り戻そうとしたもの。それはトヨタ自動車創業の精神です。
すなわち、自分以外の誰かのために闘う「強くて、優しい心」であり、その根底には、人間が持つ「考える力」への信頼があったと思います。
それは、保護司というお仕事にも、通じるものかもしれません。
法務省の方が、このようなお話をしてくださいました。
「保護司の方の多くが、更生される方との面談をご自宅など、地域社会の中でされている。それは、『ご近所付き合い』を通じて、更生を図ろうとすることであり、一人の人間として、向き合うということだ」
そう教えていただきました。
そこには、更生保護制度を支える「慈愛の心」があると思います。それは、まさに人を憂う「優しい心」だと思います。
ここにおられる皆様、おひとりおひとりの心ある行動が、今日の日本社会を支えていると思います。
皆様ご承知のとおり、トヨタグループは、今、認証不正問題に直面しております。豊田はこう言います。
「トヨタ自動車の歴史は失敗の歴史。人間の営みである以上、失敗はなくならない。失敗をした後にどうするか。それが大切だと思う」
「失敗をしたら、すぐに全員が立ち止まり、現場で、現地現物で、真因を追求し、改善を実行する。それがトヨタだと思う。トヨタらしさを取り戻す闘いに終わりはない」
何かを変える。それは簡単なことではありません。それでも、やり続けなければ、何も変わらないと思います。豊田はいつも言います。
「今、私たちがここにいるのは、喜一郎を中心とする創業メンバーが、自分のためではなく、お国のために、未来のために、日本に自動車産業を興すという挑戦をしてくれたからだ」
「先人たちは、苦労ばかりして、何もいい所を見ていない。いい所ばかりを見ている私たちが、リスク、リスクと言って、何もしなければ、先人たちに申し訳がたたない」
「私たちは皆、継承者。継承者こそ、未来を拓く挑戦者でなければならない。一人ひとりの意志ある情熱と行動によって、未来の景色は変えられる」
本日、ここにお集まりの皆様も75年にわたる更生保護制度の継承者だと思います。みんなで心をあわせて、この国の未来を変えていきましょう。
今の子どもたち、そして、これから生まれてくる子どもたちのために。
本日は、ご清聴ありがとうございました。