「世界一速いクルマに乗れるかも」――。子どもたちが夢を抱けるように、モータースポーツ発展のために、HaasとTOYOTA GAZOO Racingが手を結ぶ。そこに込めた豊田章男の想いとは。
トヨタでは一度は閉ざされてしまった“世界一速いクルマ”への道筋。レーシングドライバーにとっての夢の扉は再び開くのか。
10月11日、TOYOTA GAZOO Racing(TGR)と、2016年からF1に参戦しているMoneyGram Haas F1 Team(Haas)が、人材育成およびHaasの車両開発の分野で業務提携に合意したことを発表した。
これまでもモータースポーツの現場で、ドライバーからのフィードバックを市販車開発に織り込む、「ドライバーファーストのクルマづくり」を続けてきたトヨタ。Haasとの提携により、TGRの若手ドライバーやエンジニア、メカニックが世界最高峰の舞台に挑戦する機会を得るとともに、蓄えた知見、養った技術をもっといいクルマづくりに反映させていく。
子どもたちの夢、憧れ
同日、富士モータースポーツフォレスト(静岡県小山町)で、両者による会見を実施。GAZOO Racingカンパニーの高橋智也プレジデントが、「ドライバーファーストのクルマづくり」の3要素(People、Pipeline、Product)*について説明した。
*People:人材育成、Pipeline:データ解析・活用、Product:車両開発
高橋プレジデントによると、今回の提携を通じてTGRとHaasは「ドライバー育成プログラム」を新設。TGRの育成ドライバーがF1のテスト走行に加わり経験を積む。また、エンジニアとメカニックもレーシングカーの空力開発に参加し、極限の環境下での使用を想定したシミュレーションやカーボン部品の設計・製造を行う。(People)
またエンジニアやメカニックは、Haasが持つレース中の膨大なデータを即座に解析、タイムリーに戦略立案へ生かすノウハウ(Pipeline)を習得。そうして得た知見を車両開発(Product)につなげていくという。
人材育成の面ではほかにも、「F1でのドライバー、エンジニア、メカニックの活躍は、子どもたちにとって、夢、憧れ、目標となります。将来の自動車産業を担う子どもたちに、そのような希望を与えることは非常に重要なことだと考えています」と語った。
今回提携を結んだHaasは、現在F1参戦9年目のシーズン中で、9月のシンガポールグランプリを終え、10チーム中7位につけている。
「一番若いチームで、規模としても一番小さい」とは会見に臨んだ小松礼雄代表。これまで小さいながらもチームとして効率よく戦ってきたが、さらなる順位の押し上げを図る中で、今年の2月ごろに今回の話があったという。
Haas 小松代表
こういう大きな提携は、共通の目的に向かって一緒にやっていこうという「尊敬と信頼の関係」の上に成り立つものだと思っています。それがすごくあったので、「これだったらいけるんじゃないか」と思いました。
(豊田会長に)会っていただけることになったので、カナダグランプリ(6月)の前に東京に来ました。
そのとき、話してみて、初対面とは思えないと言うか、想いが本当に一緒なんです。すごく情熱のある方で、これからどうしてきたいか、日本の若い人たち、モータースポーツ界にどうやって夢を与えてあげたいか、想いがすごくにじみ出ていました。
僕がHaas F1 Teamを通してどうしていきたいか、ものすごく共鳴するものがあったので、これでもうゴーサインですよね。
こういう提携って、やっぱり人と人のことだと思うんです。それがベースにまずあって、「やりましょう」ということになりました。TGRができるモノづくりはうちに今ないものです。
逆にうちは、現代のF1の最新のノウハウはありますけれども、何といっても人数がいないし、設備も少ないし、ホースパワー(馬力)が足りないんです。それを与えていただけるのもあって、いろんな面で、一緒に協力して、チームを良くしていって、人を育てる。
F1は最先端技術でやっていますけれど、何が重要かというと人なんです。モノをつくる、シミュレーションソフトウェアをつくるのも人ですし、使うのも人です。
同じデータを見ても、判断する人によって、十人十色の結果になるわけです。人を重視して育てていこうと本当にお互いが思っており、次の世代に夢を与えられるような戦いができるチームにしたいという想いで、提携をしました。