「世界一速いクルマに乗れるかも」――。子どもたちが夢を抱けるように、モータースポーツ発展のために、HaasとTOYOTA GAZOO Racingが手を結ぶ。そこに込めた豊田章男の想いとは。
モリゾウの“わだかまり”
2人に続いてマイクを握ったのは、モリゾウこと豊田章男会長。語られたのは、レーシングドライバーとしての性、そして2009年のF1撤退以降ずっと感じていた“わだかまり”だった。
モリゾウ
私はレーシングドライバーではありません。ですが、一緒に走ってくれるレーシングドライバーは周りにたくさんいます。
最近では、ホンダで育ってきたドライバーたちもいれば、ずっとトヨタにいるレーシングドライバーもいます。
レーシングドライバーたちと話していると感じること…。
それは「やっぱり、みんな“世界一速いクルマ”に乗りたい」と思っている…ことです。
ドライバーとは“そういう生き物”なんです。
ですが、私は“F1 をやめた人”…。ドライバーたちは、私の前で、その想いを素直に話すことはできなかったんだと思います。そんな“わだかまり”みたいなものが、我々のピットにはずっとありました。
今年の1月、やっと“普通のクルマ好きのおじさん”に戻れたと皆さんの前でお話しさせていただきました。
“普通のクルマ好きのおじさん”の豊田章男は、F1撤退で、日本の若者が一番速いクルマに乗る道筋を閉ざしてしまっていたことを、心のどこかでずっと悔やんでいたのだと思います。
ただ…記者の皆さんが目を光らせているので、あえて付け足しますが、「トヨタの社長としては、F1撤退の決断は間違っていなかった」と今でも思っております。
先日、小松代表とお話をさせていただきました。小松さん自身、大きな夢を切り拓いていらっしゃる方ですが、その後ろには、自由に夢を追いかけさせてくれたお父様がいらしたとのことでした。
小松さんも私も「今度は我々が、子どもたちに夢を追いかけさせてあげられる“お父さん”になりたい」という気持ちが、共有できました。小松さん、本当にありがとうございました。
今あちら(富士スピードウェイ)にいるスーパーフォーミュラのドライバーたちはトヨタ勢もホンダ勢も、みんな子どもの頃からカートに乗って育ってまいりました。
彼ら彼女らに憧れてカートに乗っている子どもたちも全国にたくさんいると思います。そんな子どもたちを小松さんたちと一緒にもっと増やしていければと思っております。
その前に、スーパーフォーミュラドライバーの誰かが、世界一速いクルマに乗る日も、実現していきたいと思っております。
小松さん、Haasの皆さん、日本のモータースポーツ界のために、ぜひ一緒によろしくお願いいたします。
そして…、メディアの皆さん!
先ほど高橋プレジデントからありましたが、くれぐれも明日の見出しは「トヨタついにF1復帰」ではなく“世界一速いクルマに自分も乗れるかもしれない”と日本の子どもたちが、夢を見られるような見出しを、また記事をお願いしたいと思います。
モリゾウがF1撤退に対して、こうした胸中を語るのは、これが初めてではない。2023年9月、トヨタ系のチームでドライバーとしてのキャリアを積んできた平川亮選手が、マクラーレンのリザーブドライバーになったときだ。
「私もドライバーとして、ほかのドライバーと話している中で、はっきり言う人はいませんが、そんな“わだかまり”みたいなものがあったと思うんです」と語っている。
このときは、「トヨタ自動車の会長」と「ドライバーであるモリゾウ」と立場を切り分けて話していた。今回はそこに“普通のクルマ好きおじさん”が加わった。
“普通のクルマ好きのおじさん”としてレーシングドライバーの想いに応えていけるようになり、少しずつ“わだかまり”は溶けていっているのかもしれない。