最近のトヨタ
2022.10.18

豊田章男がプロデュースした"エンジン音とレース仲間と過ごすホテルの門出"

2022.10.18

約束は一つ。「自分がいかにモータースポーツが好きか?」を照れずに話してみる。日本のモータースポーツ関係者が、メーカーの垣根を越えて一堂に会した。

2022年105日、開業を2日後に控えた富士スピードウェイホテル(静岡県小山町)に100名を超えるゲストが集まった。サーキットでおなじみの顔ぶれである。ただ、いつもと雰囲気は異なる。みんながドレスアップしている。

衣装にチームロゴは入っていない。そのため、一見分からないが、よく見るとトヨタのチームだけではない。日産もホンダもいる。日本のモータースポーツ関係者が、メーカーの垣根を越えて一堂に会する夜だった。

ホストから届いた招待状

招待客には、その前日にメールが届いていた。宛先は「爆音が好きな皆さまへ」。

爆音が好きな皆さまへ

この度はご出席の回答をありがとうございます。今回、ご出席いただけるのは、いつもサーキットでお見かけする方ばかりです。

爆音がとどろくサーキット、それはそれで私たちの大好きな場所ですが、大声で話してもなかなかお互いの気持ちが伝わらないときもございます。

ちゃんと聞きとれず笑顔だけで返してしまったことが私にもありました。その際は申し訳ありませんでした(笑)

今回はいつもと違った雰囲気で皆さまにお会いすることができます。服装もいつもと違います。そして爆音のない中でお話ができると思います。

もしかしたらお互い少し照れくさく感じるかもしれません。ですが、せっかくの機会です。いろいろとお話ができればと思っております。

メーカーやチームの垣根を越えて集まれるという意味でも、この夜は”せっかくの機会”です。そんな”せっかくの機会”ということもあり、私からひとつ提案をさせてください。

この日を「『自分がいかにモータースポーツが好きか?』を、照れずにみんなで話してみる場」にさせていただければと思います。

もしパーティー中に、そのことを思い出していただければ「いかに自分はモータースポーツが好きか」を、それぞれのテーブルで語り合っていただければうれしく思います。

照れ臭くても、そんなお話をしていただければ「みんな同じ想いだったんだ…」とお互いの想いに気づけるように思います。

全員でそんな気持ちを共有できたならば…、「日本のモータースポーツの未来がもっともっと明るくなっていくのでは?」と思っております。

そして、そうなれば、「サーキットもずっと”うるさい場所”のままでいられるのでは?」とも思います。

皆さまとお会いして、照れずにお話しできることを楽しみにしております。今度は”笑顔だけで返す”ことはしなくてもよさそうです(笑)

豊田章男

ホストは豊田章男。ゲストは爆音が好きな人たち。会の主旨は「『自分がいかにモータースポーツが好きか?』を照れずにみんなで話してみる」ということである。

会のはじまりはエンジン音

ゲストがボールルームの席に着くと、会場が暗転。スクリーンに1960年代の日本グランプリの映像が映し出され、そこからカウントダウンがはじまる。カウントがゼロになると会場の外から、低めのエンジン音が聞こえてきた。スクリーンに映し出されたのは「水素エンジンカローラ(水素カローラ)」である。

水素カローラは走り出し、ボールルームの外に止まった。ドライバーがエンジンを何度か吹かすと、その音は部屋の中にも聞こえてくる。当日はあいにくの雨だったが、排ガスならぬ“排水蒸気”が、よりかっこよく見えたように思う。

こんなオープニングがしたかった

そこにスーツ姿の豊田章男が舞台袖から登場。水素カローラのドライバーではなかったということだ。

【豊田章男】

富士スピードウェイホテルへ、ようこそ!

このホテルのスタートはモータースポーツの仲間たちと、そして、そのパーティーのはじまりはエンジン音、以前からそう考えておりました。

思っていたとおりのスタートが切れました。皆さま、ありがとうございます。

私も子供のころ、よく父親にサーキットに連れてきてもらいました。

第1回目の鈴鹿、3回目の富士の日本グランプリが、今のモリゾウをつくった原体験です。

しかし、その大好きなモータースポーツが、今、大変な時期を迎えています。

そんなときに、サーキットにいると、いろいろな方に「モリゾウさん、この業界を頼むよ」と声をかけていただきます。こんなに光栄な言葉はありません。

モリゾウとして、トヨタの社長として、自工会(日本自動車工業会)会長として、そして、今年からはFIA(国際自動車連盟)評議員として、4つの顔、全てを使ってモータースポーツへの恩返しさせてください。

しかし、私はあくまでもサポート役。本当に業界を守っていくのは現役の皆さんです。

というわけで、さっきのオープニングでも水素カローラは運転しませんでした。

…させてもらえませんでした(笑)

ドライバーはいったい誰だったんでしょう?

この会の幹事役もやらせてもらえませんでした。私の独断ではありますが、本日の幹事は小林可夢偉さんにお願いいたしました。

マイクもここからは彼にバトンタッチしたいと思います。皆さま、拍手でお迎えください。小林可夢偉さん、こちらへ。

水素エンジンのドライバーは意外にも

登壇を促された可夢偉がクルマから降りてくるかと思いきや、予想は裏切られ、彼は自席から舞台に上がってくる。サーキットでのトークショーには慣れている彼も、このときばかりは緊張の面持ちであった。

一方、水素カローラのドライバーは車内のまま。謎は残されたまま、可夢偉がマイクを受け取った。

【可夢偉】

今回、幹事という重たいお役目を豊田社長にいただきました。なんとかこの会を“未来につなげる会”にしたいと思います。“全員が主役”とお話をいただきました。ここにいるのは“モータースポーツが好きだから”、“クルマが好きだから”、“レースが好きだから”集まっている仲間だと思います。

今回は、トヨタだけではなく、ホンダ・日産にも…、さらには空のモータースポーツである(エアレースパイロットの)室屋(義秀)さんにも来ていただいています。

そういう中で、モータースポーツを、ここからしっかり盛り上げていくために、この会をつなげていければと思います。

可夢偉は幹事としてホストの想いを引き継いだ。そして残された謎に言及する。

【可夢偉】

今回、豊田社長は水素カローラに乗らず…、この水素カローラが登場しました…。では、ドライバーは誰だったんでしょうか…? 登場していただきたいと思います!

水素カローラのドアが開き、スーツ姿の男性が降りてくる。

皆さん、こんばんは! 水素カローラから(私が)登場して、ビックリしたかと思います…。普段は日産の“Z”でSuper GTを戦っている千代勝正です。よろしくお願いします!

水素カローラを運転してきたのは日産のドライバー千代勝正であった。

「『来年は日産のシートない!』って言われてるよ!笑」。そんなヤジが飛ぶ。声の主は自席に戻っていた豊田章男だった。

壇上の千代も笑いながら「そんなことないですよね!? 片桐さん!」と返す。“片桐さん”とは日産のモータースポーツを統括する会社NISMOの片桐隆夫社長。片桐社長も、このやりとりを笑顔で返した。

普段は“やり合う”ライバル同士のはずが、この日は“仲間同士”という雰囲気に変わった。

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