日本の自動車産業ならではの強さとは 自工会会見

2022.05.20

自工会の新たな役員体制がついに始動へ。みんなで未来をつくるため、日本の自動車産業が新たな一歩を踏み出した。

5月19日、日本自動車工業会(自工会)のオンライン記者会見が開かれた。

同日行われた理事会で、自工会の正副会長体制が承認された直後の会見。

豊田章男会長のほか、片山正則副会長(いすゞ)、三部敏宏副会長(ホンダ)、日髙祥博副会長(ヤマハ)、永塚誠一副会長(自工会)に加え、新任の鈴木俊宏副会長(スズキ)、内田誠副会長(日産)が登壇。

冒頭に豊田会長から、新体制で取り組んでいく重点テーマに込めた想いが語られた。

最大のテーマは「カーボンニュートラル社会の実現」

豊田会長

本日の理事会におきまして、自工会の新たな役員体制を正式に決定いたしました。この半年間、新体制スタートに先立ち、定期的に正副会長で集まり、共通課題への理解を深めてまいりました。

さらに、スピード感をもって自工会活動を進めるには現場の「事実」を知ることが何より大切だと考え、正副会長各社の若手による「サポートチーム」を立ち上げ、「現地・現物・現実」を合言葉に、会社の垣根を越えた取り組みを進めております。

本日は、新体制で取り組んでいく重点テーマに込めた想いを改めてお話させていただきます。

いま、私たちは、新型コロナウイルスや半導体不足、自然災害の影響を受ける中で、必死にサプライチェーンをつなごうとしております。軍事侵攻による悲しく、やりきれない現実にも直面しております。資源や食糧価格の高騰など世界経済の先行きも不透明になってまいりました。

こうしたリスクのある時こそ、未来に向けた変革を止めない強い意志が必要だと思っております。

その最大のテーマは「カーボンニュートラル社会の実現」です。カーボンニュートラルは、私たちの暮らしそのものに変化を迫るものであり、「移動」を通じて、人々の暮らしを支えてきた自動車産業の変革を問うものでもあります。

最初は、私自身も、「何をすれば良いのか」、よくわかりませんでした。「カーボンニュートラルを正しく理解することから始めよう」と呼びかけることからまずはスタートいたしました。

「敵は炭素。内燃機関ではない」、「CO2削減は、エネルギーを『つくる』『運ぶ』『使う』、全ての工程でやるもの」、「カーボンニュートラルという山の登り方は一つではない」、「技術力を活かすには、規制で選択肢を狭めるべきではない」。

こうしたことを言い続けながら様々な「実装」実験を進め、その都度、分かってきたことを発信してまいりました。その結果、世の中の理解も深まり、「一緒にやろう」という仲間たちも増えてまいりました。

カーボンニュートラルは、日本の自動車産業のCASE技術を磨くチャンスでもあると思っております。

自動車は「成長産業」だからこそ、「成長と分配」の原動力に

豊田会長

CASEの進化とともに、暮らしに深く根差したモビリティサービスなど、クルマが生み出す価値は、大きく広がってまいります。

私は、「モビリティ産業」への変革を進めている自動車は、「成長産業」だと思っております。だからこそ、岸田政権が掲げる「成長と分配」の原動力になれると考えております。

コロナ禍の2年間を見ても、日本での設備投資と研究開発費は12兆円、稼いだ外貨は25兆円、新たに生み出した雇用は27万人。自動車産業は日本の「成長」を支えてきたと自負しております。

「分配」の観点においても、この春の労使協議では、自工会各社が中心となり、賃上げの流れを生み出すことができたと思っております。

その中で課題も見えてまいりました。自動車産業の中で交渉のテーブルにつける人は3割に過ぎません。組合組織がない7割の人たちにこの流れをつなげていくことが大切だと思っております。

「カーボンニュートラル」も「成長と分配」も、成り行きで実現できるものではありません。「日本をもっとよくしたい」という強い想いと、国家戦略のもとみんなで一緒に動いていくことが求められております。

そのためにも、今年、大きく踏み出すべきテーマが「自動車税制の改革」です。自動車業界といたしましては、「表年・裏年」という発想や「縦割り行政」から脱却した「骨太の議論」を求めてまいります。


今の日本に必要なのは、エネルギーの課題を打開し、カーボンニュートラル対応を加速させながら、新しい成長の道筋をつくりだす、そんな成長戦略だと思います。税のあり方も、こうした成長戦略・産業政策の中で腰を据えて見直すべきだと思います。

今年は、大局的な視点から自動車税制の見直し議論を深め、何とか道筋をつけたいと思っております。

「自動車はみんなでやっている産業」「未来はみんなでつくるもの」

豊田会長

そして、もうひとつ。来年は東京モーターショーの年です。前回は、他業界にも参画いただき130万人の来場者を集めました。自動車を軸にして他業界と一緒にやれば100万人規模を集められることを証明できました。

その学びを生かし、来年の東京モーターショーは、「ジャパンオールインダストリーショー」という名前にしたいと思っております。

モビリティの枠を超えて日本の全産業で連携し、さらにスタートアップ企業も巻き込んでいくことで、たくさんの人が集まる場にしたいと考えております。全く新しいショーを目指して名実ともに変革してまいりますのでご期待いただきたいと思います。

最後になりますが、私の信念は、「自動車はみんなでやっている産業」「未来はみんなでつくるもの」このふたつです。

日本の自動車産業の強みは、乗用だけでなく、商用・軽・二輪も含めたフルラインナップ体制です。

その強みを生かしながら、「カーボンニュートラル」も「成長と分配」も、ペースメーカーとして役割を果たしてまいりますので、ぜひとも自動車産業をアテにしていただきたいと思っております。

「未来のために、地球のために」意志と情熱をもって、みんなで行動してまいりますので、変わらぬご支援をよろしくお願いいたします。

会社の垣根を越え、具体的に動き出した自工会

豊田会長からのあいさつが終わり、記者からの質疑応答へ。

新体制でのかじ取り、税制改正、円安と資材価格高騰などのテーマが挙がり登壇者全員が回答。その回答に共通していたのは、豊田会長があいさつの中で話した「自動車産業はみんなでやっている産業」という想いだった。

最初の質疑は、新体制の抱負について。会長と2人の新任副会長が答えた。

豊田会長

我々は、日本自動車工業会なんです。自動車工業会の前に「日本」という言葉があります。難しい課題に直面している今こそ、みんなで一緒に前へ進んでいくことが大切だと思います。

自工会には、乗用、大型、軽、二輪という世界で競争力のあるフルラインナップのメーカーが集まっており、フルラインナップの自工会新体制の意味は非常に大きいと思っております。各分野を最も知る方々にリーダーシップを発揮していただき、みんなで自動車産業を守り、発展していくことが重要です。

さらに自動車5団体との連携も深めながら、自動車産業550万人の総力を結集できるよう(任期の)2年間動き続け、未来につなげてまいりたいと思っております。

内田副会長

これまで通り各社が切磋琢磨し、企業価値を高めると同時に、共通の課題には力を合わせ、共に立ち向かうことが大切です。

その想いから、昨年(各社の若手による)サポートチームの立ち上げを提案し、現在、会社の垣根を越えた取り組みを進めております。そこには「成長と分配」「自動車税制」への取り組みも含まれております。

また今後は、自動車業界に限らず、他業界との連携がなければ解決できない課題が増えてきています。カーボンニュートラルへの取り組みや、ジャパンオールインダストリーとしての東京モーターショー構想などは、まさにその最たるものだと思います。

鈴木副会長

カーボンニュートラルや、CASE対応は、本当にオールジャパンで取り組んでいかなければならない課題だと思っています。

また、人々の暮らしを支えるだけでなく、ラストワンマイルを支える、あるいは未来のために地球のために軽自動車が果たす役割も非常に大きいと思っておりますので、自工会のメンバーの一人として、軽自動車に期待される領域にしっかりと取り組んで貢献していきたいと思っております。

続いて、記者からはカーボンニュートラルに向けた取り組みの今後のロードマップについて質問が挙がった。

豊田会長から自工会全体の方向性が語られたのち、三部副会長は、一歩踏み込んだ取り組み事例について紹介した。

三部副会長

実際にカーボンニュートラル実現に向けては、CO2を「正しく測る見える化」、それから「減らす活動」、この両面が必要です。見える化の領域で言うとライフサイクル全体でのCO2排出量の算出。この国際的なガイドライン策定に向けて、日本として議論をリードできるように(自工会で)連携して取り組んでいます。

加えて、今月末のG7主要7か国首脳会議)気候・環境大臣会合前に、自工会の意見をベースにして、技術だけでなくエネルギーを含めた多様な選択肢の重要性を、OICA(国際自動車工業連合会)として発信しています。

また、大型、二輪については、それぞれ片山副会長、日髙副会長がすでに会社の垣根を越えて動き出している取り組みと、今後の展望を紹介した。

片山副会長

トラックといっても、大型も小型もあります。使われ方も多様で、技術の進展もすごいスピードで進んでいます。トラックは、お客様が仕事で使うので、本当に物流現場でお使いいただける電動車は何なのか、モニター車も使って検証を進めております。

個社でやると規模が小さいので、いろんな仲間を募り、アライアンスの中での社会実装への準備をしています。社会に対して非常にインパクトのある話なので、自工会を通して、いろんな形で電動化社会を受け入れていただくための取り組みを進めております。

副会長

(二輪では)ホンダ、スズキ、カワサキとヤマハの4社で取り組みを進めています。特に日々の移動に必要なスクーターを中心とした領域では、お客様の利便性、資源循環、コスト低減といった観点から、電動化と同時に交換式バッテリーを共通化することが重要です。

そこで二輪4社で技術規格を合意。同じ交換式バッテリーをみんなが使え、それがインフラのスピードアップにもつながるという取り組みを進めてきました。さらにENEOSと交換式バッテリーの普及を目的として新会社も設立。

海外では、欧州と日本の二輪メーカーでバッテリーコンソーシアムもできています。そこで国際標準化の話が進んでいるので、JAMA(自工会)として参画し、日本の共通規格を国際標準化すべく動いていきます。

競い合い、共に成長を目指す自動車産業の姿

そして、税制改正への要望を問う質問には豊田会長が回答。冒頭、「話すとめちゃくちゃ長くなるんですが」と話しつつ、これまでの税制改正の流れにも言及してこのように答えた。

豊田会長

簡単に申し上げますと、自工会は今まで一貫して「複雑過重な税制を簡素化してください」という負担軽減を要望してまいりました。

一部要望は実現したものの、財源の埋め合わせとして別税目に付け替えるなど、抜本的な見直しは実現できていないのが現状だと思います。そして2019年には、自動車税創設以来初の恒久減税も実現したものの、未だ世界一高い税金であることに変わりありません。

現在の日本の状況を見ると、エネルギー政策を含め、カーボンニュートラルを実現する成長戦略が不可欠です。その中で基幹産業である自動車をどう位置付け、雇用を守っていくかが大変重要です。

腰を据えた大きな骨太の議論の中で、税制の体系を新たに構築すべきではないかと思っております。まさに、将来の日本の成長に向けた、大きな設計図を書き直す時期にきている

だからこそ、従来の各省庁間での綱引きではなく、総理主導で成長戦略や国民生活の議論を進めていただきたいと思っております。

そして次の質問は、円安と資材価格高騰について。これには永塚副会長が従来の円安と今回の円安を対比しながら、業界への影響を答えた。

永塚副会長

自動車産業は輸出産業ですので、円安で有利になると理解されている方が多いと思います。けれども実態は、それほど単純な構造ではありません。

通常時であれば、車両輸出で円安のメリットが生じ、収益を増加させる方向に働きます。けれども今回の円安、足元の環境下では、資材や部品輸入の価格が大変高騰しており、円安のデメリットが拡大しています

車両輸出の面では、部品調達の問題で供給制約を受けているので、円安のメリットが限られる一方、資材、部品輸入の面では価格高騰で通常時を大きく上回るコスト要因になってしまっています。

自動車産業は「みんなでやっている産業」です。したがってすべてのステークホルダーへの還元や分配を行いながら、共に成長することが大事な産業です。

自動車部品工業会など、ティア1の方々と連携し、実態を把握しながらティア2以降への対応も進めていく考えです。みんなでやっている産業ですので、サプライヤー全体での取り組みのさらなる強靭化を視野に進めてまいります。

カーボンニュートラルをはじめ山積する課題は、いずれも国家をあげて取り組むべきものである。日本の基幹産業であり、エネルギーや素材など多くの産業と深く関わる自動車には、全産業が足並みをそろえるための「ペースメーカー」としての役割が期待される。

そのためにも、乗用・商用・軽・二輪と、すべてのジャンルのトップがそろい、「フルライン」という日本の強みを生かす自工会の新体制が持つ意味は大きい。

「自動車産業はみんなでやっている産業」という想いを共有し、日本の自動車産業は未来に向けて変革を進めていく。

RECOMMEND